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第54話 使徒のお仕事...不本意だけどその参

 私はある目的のために、神様によって創られた。もともと私には自我なんて無かったんだけど、(あるじ)から名前を呼ばれたことで、私という存在が生まれた。

 何気ないことだったんだろうけど、名付けっていうのはとても特別なこと。翡翠っていう名前を貰ったことで、私は主とより強く結びついた。だから私は主の為に全力でなすべきことをなす。


「とりあえず、主から言質も貰ったし、頑張ろっと!」


 私は主から預かった刀を片手に森を走った。主と繋がりが出来たからなのか、主の力の一部が使えるようになった。だから私は魔物の居場所が分かる。


「いた!」


 主の力を頼りに進んでいると、魔物の大軍と遭遇した。数にして500以上。


「流石にこれは…」


 私が全力でやっても厳しいかも…でも、主から頼まれたんだから、やるっきゃない!


「いっくよー!」


 私は魔物の大軍に突っ込んだ。


「刀術・多重戦・我流・幻想乱舞(げんそうらんぶ)


 これは主の武闘スキル。技のようなものだね。だから私が使ったら我流。刀である私が刀を振るうって、なんか変な感じだよね。


 ギャギャ!!

 グガァァァァ!!


 魔物たちが私に気づいて襲ってくる。ほとんどがオーク、一部オーガだね。棍棒を振るうけど、私には一撃も当たらない。


 幻想乱舞(げんそうらんぶ)は動きの速さに急勾配をつけることで、相手を錯乱させる。だから振るってもそこに私は既にいなくて、まだ距離があるって思ったら一気に詰められている。1対1の長期戦には不向きだけど、こういう相手には見切られることはない。


 ていうか主、全然自分の力把握してないんだよねぇ…こんな感じのスキルを神様から色々貰ってるっていうのに、あんな相手に後れを取るなんて…今度主と特訓しようかな?


 クギィィィィ!


「おっと」


 すこし考えすぎた。とりあえず今の敵に集中しないとね!


「まだまだいくよー!」


 ザシュッ!バサッ!


 グワァァァァァァ!!


「お…オーガキングか」


 大軍をだいぶ倒して、とうとうボスのお出ましだね。オーガキングは普通のオーガより体格2倍近く大きい。オーガの平均身長がだいたい2メートル近いから、かなり大きいよね。


 グギャャャャ!!


 オーガキングが振るってきたのはハルバードだった。2メートルはあろうかという巨大なハルバードを軽々と振り回し、私に叩きつけてきた。私は横っ飛びでそれを回避したけど、地面に当たったハルバードから衝撃波がきて、吹き飛ばされた。


「きゃ!」


 転がりながらなんとか体勢を立て直す。その間にもオーガキングは攻撃の手を緩めない。今度は横薙ぎに振るってきた。それをバク宙で躱すと、一気に詰め寄った。


「刀術・我流・一刀・(ざん)


 斬は斬ることに特化しているスキル。刃の角度と純粋な速さで肉を断つ。身長差で胴体は狙えないから、膝を狙う。


 ギャャャャャ!!


「危なっ!」


 オーガキングが危険を察知して、拳で殴ってきた。そのせいで片膝しか切れなかったけど、それでいい。私はオーガキングの拳を避けると、その手首を狙った。


「一刀・焔纏(ほむらまとい)紅蓮斬(ぐれんざん)


 これは斬から派生するスキル。高速で切り上げることで摩擦熱が発生し、刃が紅蓮のように赤く高熱になり、燃えているように見える。本来魔法で強化すればもっと強力なんだけど、私は魔法が使えないから、そのまま。それでもかなりの威力がある。


 グワァァァァァァ!!


 手首を切り飛ばすと、血と肉が焼ける匂いがした。高熱だから切口が焼かれて塞がれる。だから致命傷にはならない。


 ギィィィィィ!!


 片手でハルバードを振るってきた。でもさっきよりずさんな振り。やっぱり両手が使えないと上手く扱えないんだろうね。私はその振りを受け流し、もう一方の手首も切り飛ばした。まだ刃が熱いから、こっちの切口も塞がれる。


 グ、グワァァァァァァ!!


 なんとまさかのボディプレス。流石に潰れるから避けて、下がってきた頭の脳天を突き刺した。ピクピク動いていたけど、やがて体から力が抜けて、倒れた。


「ふぅぅ…」


 なんとか勝ったよ…主、褒めてくれるかな?


 ーーーーーーー


 翡翠と別れて、私はローブ男の方にむかってるんだけど…


「翡翠…なんか無双してるんだけど」


 世界地図(ワールドマップ)でみると、縦横無尽に動き回って、敵の数を減らしていってる翡翠の様子がよく分かる。


「後で翡翠の倒した魔物回収しとかないと…」


 ゴブリンなら燃やして終わりなんだけど、オークは食用だからねぇ…。


「っと、やっと着いた」


 男との戦闘でだいぶ離れてしまっていたので、来るのに時間がかかった。ていうかもはや地形が変わってた。


「後でそれは直すとして…」


 まずはローブ男の無力化かな。光学迷彩は使えるようになったから、サクッと手刀で気絶させちゃいましょうかね。


「ぐはぁ!」

「な、なんだ!ぐわぁ!」

「え、ちょ!あ…」

「どこだ!どこにぃ…」

「ひぃ!!お助け!あぐっ!」


 まぁ三者三様ですこと。とりあえず縄でぐるぐる巻きに。猿轡をしたかったんだけど、話し聞きたいからそのままで。その代わり結界を張った。


魔法無効空間アンチマジックフィールド


 自分も含めて魔法が使えなくなる。まぁ対策はしてる。展開する前に小規模の結界を自分の体に纏わせておけば使えるからね。


「おーい、起きろー」


 前みたいに口封じされる前に聞いておかないとね。


「うぅぅ…う?誰だ!」

「どうも女神の使徒です」


 不本意だけどね!


「女神の使徒だと?ふざけるな!」


 まぁそう言うと思ったよ。信じろって言う方がおかしいもの。


「信じなくてもいいよ。ただ質問に答えて欲しいだけ」

「質問だと?」

「そう。ここでなんのために魔物を召喚してたの?」

「ふん!誰が答えるか!」


 ですよねぇー。どうしますかな。


「うーん…私的にはそんな手荒なことをしたくないんだけど…」

「はん!お前みたいな子供に何ができる!」


 いやぁ〜その子供に捕まってる人に言われたくないわ〜。ってそれは置いといて。


「ふーん…そう。じゃあこんなのはどうかな」


 そう言って私は短剣を取り出した。


「な、何をするつもりだ!」


 おう、動揺してるねぇ。


「ちょっとね」


 そう言いながら私は男の足に短剣を突き刺した。


「ぐ!な、にを…」

「拷問?尋問?ま、どっちでもいいや。で?話す気になった?」


 ベルを誘拐したやつらの仲間だしね。情けをかけるつもりは微塵もない。


「だ、誰が…」

「ふーん…」


 突き刺した短剣でさらに抉る。


「あが!ぐ!や、やめ…」

「じゃあ話してくれる?」

「わ、分かった!話す。話すから抜いてくれ!!」


 ふっ、落ちたね。私は短剣を引き抜いた。もちろんそんなことしたら血が吹きでる。


「ふっ、このまま死んでやるさ…」


 あー馬鹿なヤツ。


「誰が勝手に死ねと言った」


 私はポーションを傷口にかける。それで傷口は塞がった。


「な!」

「言っとくけど、まだ回復ポーションはあるからね?」


 回復させて痛めつけ、また回復させる。前世ではできない拷問だよね。


「なぜ!なぜそこまでの事ができる!」

「愚問だね。そんなのあんたらが一番分かってるんじゃないの?」

「わ、我々は正しいことをしているだけだ!!」


 正しいこと?


「魔物に街を襲わせることのどこが正しいこと?」

「この世界は歪んでいる。全てをリセットする必要があるのだ!」


 全てをリセットする…それは…


「それは全ての生きとし生けるものを殺戮すること?」

「いや、全ての文明を崩壊させる事だ。それによってこの世界はあるべき姿を取り戻すのだ!」


 なんかいたな。地球にもそういう考えをする人達が。


「それで?」

「なんだ?」

「それで誰が幸せになれる?」


 確かに世界はあるべき姿を取り戻すかもしれない。だけれど、そこに幸せは存在するのだろうか?どこにも存在しない、弱肉強食の世界に取って代わるだけではないのか?


「幸せだと?ふん!そんなものは我々の()が叶えてくれる!」

「神…?」


 それはエルザのことだろうか?


「そうだ!我々にこのような召喚の力を与えてくださった神だ!」


 …それは、エルザではないな。


「ふん!小娘よ。我らの神に滅ぼされるがいい!」


 そんな簡単に滅ぼされちゃあ困る。


「ハハハハハハハハッ!!」


 なんかいきなり笑いだしたんだけど?


「ちょっとどうし…」

「主、危ない!!」

「え?」


 翡翠の声が聞こえたと思ったら、翡翠が私を突き飛ばして、私に覆いかぶさって来た。


「ちょ、どうした…」


 その瞬間


 ドガァァァァァァァァァン!!ビシビシッ!パーンッ!!



「うぇ?!」


 爆発する音と結界が割れる音が聞こえ、とんでもない爆風がきた。何だか分からないけど、とりあえず結界を張った方がいいと思って、私たちの周りをドーム状の結界で覆った。バシバシと小石が結界に当たる音がして、物凄い土埃で周りが見えなくなった。そしてしばらくして、土埃がおさまった。


「ひ、翡翠…ひとまず退いてくれない?」

「あ、ごめん!」


 翡翠が退いてくれたので、起き上がると、目の前には巨大なクレーターが出来ていた。


「なに…これ」

「多分自爆用の魔道具」


 そんなものを持ってたなんて…


「て、翡翠。怪我してない?」

「大丈夫だよ」


 見てみるとほんとに擦り傷ひとつなかった。私は予め結界を張っていたし、魔法無効空間アンチマジックフィールドも結界の一種だからそれがある程度防いでくれたので、問題ない。途中で割れちゃったみたいだけど。


「にしても、よく分かったね」

「ほとんど勘だよ。何かするっていうのは分かったんだけど、こんなことをするとは思わなかった。念の為戻ってきておいて良かった…」


 ほんとにね。私もあのままだったら多分怪我じゃ済まなかったかも。


「ありがとね」

「どういたしまして。でも主も不用心だよ?」

「うっ…ご忠告、肝に銘じます…」


 魔法しか攻撃手段が無いって勝手に決めつけてたもんなぁ…反省。


「魔物は?」

「全部倒したよ!」


 お、おう…まさかほんとに殲滅するとは…


「…ありがと」

「えへへ…」


 う、可愛い…


「で、主。これからどうするの?」


 そこだよねぇ…この爆発で森の大半吹き飛んでるし、直すのは時間がかかりそう。


「…とりあえず翡翠が倒した魔物を回収して、その後時間があったらこの森の修復かな」

「分かった!でもあの爆発の音、聞こえてないかな?」

「それがねぇ…まぁなんとかなる、と思う」

「なんか自信なさげだね」

「そりゃあ、ね。私は神じゃないしね」


 あー、この森の修復エルザに頼むのもありか〜。


 ーそれはやめてくれない?ー


 いきなりエルザの声が聞こえた。なんで直してくれないの?


 ーだって今結構忙しいんだよ?ー


 いや、分かるけどさ。


 ーという訳で宜しく!!ー


 あ、ちょ!


「まったく…」

「どうしたの?」


 翡翠には聞こえてないのか。


「なんでもない。じゃあ魔物の回収しようか」

「はーい」


 翡翠の案内で魔物のとこに向かったんだけど…


「凄いね…」


 全部の魔物が首を一刀で斬られていた。


「主の力借りたからね」

「私の力?」

「そうだよ。っていっても一部だけだけどね」


 いや一部でもこれは凄いよ…


「主、全然自分の力把握してないでしょ?」

「あー…まぁ確かに」


 男との戦いでも、身体強化忘れてたからね。久しぶりの対人戦だったっていうのもあるけど。


「だから一緒に特訓しようね?」

「う、うん…」


 有無を言わさない圧力を感じたから、つい了承してしまった…ま、いっか。


 こんな会話をしている間にもどんどん収納していく。


「ひ、翡翠…これって」

「どれ?あーオーガキングね。結構手こずったよー」


 …うん。何も言うまい。収納したのは、


 オーク:681匹

 オークジェネラル:8匹

 オーガ:139匹

 オーガジェネラル:4匹

 オーガキング:1匹


 といった具合です。やばくない?


「で、収納し終わったけど…」

「もう日が昇ってきちゃったね」


 タイムリミットだね…結局森は修復出来なかった。


「帰るか…翡翠は戻ってくれる?」

「分かった。その前にこれ返すね」


 翡翠が渡してきたのは、私が渡した鉄刀だった。


「あ、忘れてた。ありがと」

「うん。じゃあ戻るねー」


 そう言って翡翠が光に包まれたと思ったら、翡翠刀がふよふよ浮かんでいた。


『これでいい?』

「うん。でもどうしよ?」


 アイテムボックスは時間停止だからねぇ…まぁ区画分けをして、時間の流れを現実と同じにしてっと。これでいいかな?


「じゃ、しまうね」

『うん。特訓忘れないでね?』

「分かってるって」


 そう言って私はアイテムボックスに翡翠刀を収納した。なんかもう色々疲れた。


「あー…宿に戻ってもあんま寝れないだろうなぁ…」


 女神の使徒ってブラック?


 ーそれはない…と思うー


 エルザも薄々思ってるのね…ま、自分の意思で来たしね。文句を言うのはお門違いだよね…多分。


「かーえろっと」


 光学迷彩を展開して空歩で宿に戻る。途中、ていうか森の近くに住んでる人が色々忙しそうだったけど気にしな〜い。気にしたら負けな気がする。


 宿の部屋に潜り込んで、部屋にある時計をみると、午前6時前だった。


「あ!土鍋!」


 結局私は布団に入ることなく宿をもう一度後にした。





 …もう寝たい。













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