第49話 学園案内
アンニャちゃんの案内に一抹の不安を感じながら、私たちは教室を後にした。
「どこか行きたいところとか、あります?」
そう聞かれたけど、正直何があるのかわかんないし、聞かれても困る訳で…
「うーん…アンニャちゃんが適当に案内してくれる?なにがあるのかわかんないし」
「あ、そうだね。はい!では付いてきてください!」
あ、このやり取り前も…
ゴンッ!
「痛ったぁ…」
「また…大丈夫?」
「は、はい…すいません」
アンニャちゃんはかなりのドジっ子みたいだ…
「じゃあまずは私たちが普段授業を受けている教室を案内しますね」
そう言って、今度はちゃんと歩き出した。黒い壁にどこまでも続きそうな赤い絨毯の上を歩くこと、10分…遠いよ!
「ここです」
着いたのは私たちの学園とあまり変わらない教室だった。違いがあるとすれば座席にクッションが付いていたり、豪華な金色の装飾が付いていたりするとこかな。
「随分豪華な教室だね」
「そうですか?他の教室も同じなんですけど」
うーん…やっぱりそれぞれの学園で違うのかなぁ?
「では次は闘技場に行きましょう!」
教室をあとにしてまた10分、闘技場に到着した。なんていうか…うん…
「…なんか魔王がいそう」
真っ黒で、所々赤や金色の装飾があるコロッセオは、まさしくそんな威圧感があった。この学園で1番最初に来たんだけど、その時はあんまり気にしてなかったんだよね。
「魔王様ですか?魔王様ならこの国の国王ですよ」
あ、そうなんだ…って
「えぇぇえぇえぇ!?」
「そんなに驚かなくても…わたしくも知っていましたわよ?」
いやうん、王様が魔王っていうのはそんなんかなぁ〜って納得出来るんだけど…それって、ユーリは魔王の娘ってことだよね…それならあの心配する反応も納得…ま、だからって避けたりはしないけどね。単純に驚いただけで…本当だからね?!
「どうしましたかー?早く来てください!」
「あ、ごめん!」
アンニャちゃんは闘技場の入口で待っていてくれたみたい。
「うわぁぁ…」
中に入ると、大きさはさほど変わりないのだけれど、本当に地面以外が全て黒い世界で、まるで印象が変わっていた。
「すごーい!」
「凄いですわ…まさかここまで印象が違ってくるとは…」
2人も圧倒されているね。ということは2人もあまり見ていなかったのかな?まぁ人がいっぱいいたし、迎えるための装飾がされていたから、真っ黒な印象が薄かったんだよね。
「そこまで凄いですか?」
アンニャちゃんはどこに凄さがあるのか分からないらしい。まぁいつもこの闘技場しか使っていないのなら、その反応も当たり前なんだけどね。
「あ、あそこでアレク殿下が模擬戦をしていますわ」
キャサリンがそう言って、目を輝かせていた。キャサリンは魔法を極めたいらしく、魔力の扱いが上手いアレク殿下に尊敬の念を持っているんだよね。
「凄い…彼はこの学園でかなりの腕をもつんだけど…」
彼とは、アレク殿下と模擬戦をしている相手のことだろう。肌が黒っぽいから、アンニャちゃんと同じダークエルフかな?アンニャちゃんの言う通り、彼の魔法の腕はかなり高いと思う。
2人の戦いは、傍から見たら何もしていないように見えるだろう。だが、魔法をよく知る人なら、二人の間で何度も魔法が衝突しているのが分かる。放った魔法を破壊して、破壊した方が魔法を放ち、もう片方が破壊する。それを繰り返しているのだ。実力は拮抗している…けれど、アレク殿下はまだ本気ではないようだ。実際楽しんでいるように見える。もう片方の男の子は汗が滲み出ている。どちらかの集中が切れ、魔法を破壊出来なかった方が負ける、そんな状況。
「あっ!」
一瞬、男の子の集中が切れ、魔法を破壊するのが遅れ、破壊した余波で吹き飛ばされた。
「うっ!」
飛ばされた男の子はそのまま吹き飛び、闘技場の壁に衝突した。
「"トロバ"君!」
そう言ってアンニャちゃんが男の子の方に走っていってしまった。まぁ死ぬことはない。というのもこの闘技場、というか闘技場と呼ばれている場所には結界が貼られていて、その結界内ならば、死ぬことはない。どういう原理かは知らないけど、死なない。ただ、痛みは受ける。嫌な設定だよねぇ〜。例えば、腕を切られたら腕を切られたような痛みが走る。そして、実際に腕が切れる。でも、結界を出ると治る。
私は、精神魔法あたりが使われていると思う。精神魔法はその名の通り精神に干渉する魔法で、闇属性の魔法。精神ダメージとして腕を切られた痛みを与え、腕を失ったと脳に干渉し、無理やり認識させる。その結果、本人は腕がないため動かせないという暗示に陥るという訳。それは結界内にいる人全てにかかり、傍から見たら完全に腕を失ったように見える…はず。まぁ無理やりな解釈だから、矛盾してるとこだらけだけどね。例えば心臓を刺されたら、刺した剣はどうなるのか、とか。だからよく分からない。魔法としてこの魔法はあるだけで、原理が分からないのは仕方ない。だってウォーターボールとか、どこから水だしてるの?って話だし。
閑話休題。
「トロバ君!大丈夫?」
「あ、ああ…アンニャか。大丈夫だ。ありがとな」
私が思考の海に沈んでいる間に、アンニャちゃんはトロバ君に回復魔法をかけていた。出れば治るけど、治らないと出れないという悪循環。
「すこし威力が強すぎた。すまない」
そう言ってアレク殿下が頭を下げた。
「そ、そんな!謝らないでください!」
トロバ君が慌てる。そりゃね?一国の王子が簡単に頭を下げていいものでは無いよね。
「しかし…」
「アレク殿下、ご自分のお立場をお考えください」
それでも頭を下げようとするアレク殿下を、今度はアンニャが止めた。
「アレク殿下がこうして頭を下げている所を、事情を知らない他の人が見たらどう思われるか、お分かりでしょう?」
そう、事情を知らない人がこの状況を見たら、色々と不味い。特にトロバ君が。だって王子に頭を下げられているのだから。
「…分かった。だが、謝罪はさせて欲しい。後日、お詫びの品を送らせてもらおう」
「いえ、ほんとに大丈夫ですから!?」
トロバ君はとても迷惑そうだ。だって王子様からもらうものなんてやばそうだし。
「アレク殿下、ではこの後食事でも誘ってはいかがですか?」
それなら気楽でいいだろう。
「あ、フィリアちゃんか…だが、そんなことでいいのか?」
このアレク殿下は女子たちを全てちゃん付けで呼ぶんだよねぇ…て、そんなことは置いといて、アレク殿下がトロバ君にそう尋ねると、
「はい!!むしろそうしてください!」
トロバ君は首が折れるんじゃないかと思うほど激しく頭を振って、そう言った。
「そうか。ではこの後予定はいけるかい?」
「はい!というか空けます!」
ま、一件落着ということで…
「じゃあフィリアちゃん達も行こうか」
…なぜそうなる。
「…お断りさせていただきます。私は少し用事がありますので」
もちろん、嘘。予定なんてある訳ない。でも、こう言わないとこの人は引き下がらない。
「そうか、それは残念だよ。じゃあ、また会おう」
そう言ってアレク殿下は取り巻きとトロバ君と一緒に闘技場を出ていった。その時、
「ありがとな。正直俺じゃあ断れなかったよ」
とトロバ君からお礼を言われた。私としてもこれでアレク殿下が平民の気持ちを理解してくれるといいんだけどね。
「じゃあアンニャちゃん、案内まだ頼める?」
「あ、もちろんです!」
とアンニャちゃんは両手を握って答えてくれた。
「こっちです!」
あ、この流れは…
ゴンッ!
あ〜あ…またやったよ。もうわざとじゃないの?
「痛ったぁ…」
「大丈夫…て、これ日常茶飯事なの?」
「は、はい…私、極度の方向音痴で…」
いや、もはや方向音痴じゃない気がする…
「今度こそ、今度こそ大丈夫です!」
そう言って今度はちゃんと出口までいけた。ぱちぱち。
「何故拍手しているんですの?」
「いや、なんとなく」
その後学園を2時間ほど案内してもらったのだが、その時にダンジョンがあると言われた。なんでも学園の地下に、初代学園長が創ったらしい…学園長何者?!
「あら、フィリアさん。わたくしたちの学園にもありますわよ?」
「「え?!」」
アルバート学園にもそんなのあったの?!
「知らなかったのですね…まぁ高等部からしか入ることが出来ないので、知らなくても問題ありませんが」
「そうなの?」
「ええ、そうですわ。そして学園のダンジョンは卒業までに1回は攻略しなければいけないのですわ」
「え?!」
「まぁフィリアさんなら楽勝だとおもいますわ」
いやキャサリンの私に対する評価高くない?そんなに簡単なの?
「そんなに簡単なの?」
「簡単というか、学園にあるダンジョンには、闘技場と同じ効果があるのですわ」
同じ効果…ということは、中で死なないということ?
「ただ闘技場とは違って、致命傷を負った場合、強制的に外に出されますわ」
なるほど。確かに致命傷を負った状態でダンジョンから自力では出られないものね。
「大方学園は案内し終わりました」
「あ、そうなの?じゃあもうお別れか…」
「はい…ですが、また会えますよ!」
アンニャちゃんは自信を持ってそういった。
「…うん。そうだね。じゃあまたね」
バイバイじゃない。またね。
「そうですわね。またね、ですわ」
「またね!」
「はい!またお会いしましょう!」
そう言って私たちはアンニャちゃんと別れ、学園をあとにして、宿に戻った。
なんかそれぞれの口調が違っていて、混ざっているところがあれば、報告して頂けると嬉しいです。