第119話 神秘の洞窟へ
とりあえず色々と準備をした後、俺はリーナの元へと戻った。理由としては、俺の事を転移してもらう為だ。
「準備は出来た?」
「ああ。何時でもいいぞ」
俺は念の為自身の装備をざっと確認する。
腰にはマルコムに打ってもらった剣。それと愛用しているマジックポーチが2つ。最後に肩にかけたマジックバッグ。大丈夫だな。
防具は正直いらん。動きが邪魔されるからな。一応革鎧は付けているが、あまり頼りにはならんな。まぁ当たるつもりはないのだから、問題ないが。
「じゃあ行くわよ…」
その言葉と共に視界が歪む。マリアやリーナは平気そうにこれを使うが、やはりこの感覚は気持ち悪くなる。ほんと何が違うんだか……。
目を開くと、そこは森の中だった。
「……ダンジョンまで転移してくれとは言ったが、中とは普通思わないだろ……」
俺は思わず呟く。ここは外のようだが、れっきとしたダンジョンの中だ。
神秘の洞窟は転移型のダンジョンで、ダンジョン自体この世界に存在しない。別次元にあるとか聞くが、正直分からん。まぁ気にもしないがな。
「……ここは、何階層だ?」
確か……森林エリアは、30〜35階層だったはずだ。表のな。
「……まぁ、ボス部屋から転移できるから、そこまで行くか」
そこから50階層に転移して、鍵穴を探すか。
………魔物か。気配察知に反応したのは、フォレストマンティス。緑色のデカい虫だ。保護色になるから、目視では見つけにくい。数としては……5だな。
「…多いな…」
とりあえず見つかっていないうちに倒すか、通り過ぎるか、なんだが……
「…無理だな」
俺は正直隠密は得意じゃあ無い。おそらく気付かれる。後ろから襲われるくらいなら倒してしまったほうがいいか。
「まずは一体」
一気に身体強化をして近づく。幸いバラバラだから、楽だ。
ギィィィィ!!
俺の事を見つけたのか、耳障りな何声をあげる。そして両手の巨大な鎌で目の前の木を切り倒した。
「相変わらずの切れ味だなぁ…」
そんな切れ味の剣が欲しいと思いつつ、フォレストマンティスの攻撃をかわす。
ギィィィィ!!
当たらなくて苛立ったのか、鳴き声を上げながら鎌を振り回す。適当に振り回すだけだが、切れ味があるせいでかなり危険な状態なんだよなぁ。
「……っ!音で集まってきたか」
バラバラだったフォレストマンティスがここへ集まり出した。
「…手っ取り早くやるか」
俺が使えるのは雷属性魔法だけだ。だが、それならあの魔法が使える。
「集まってきたな」
一旦その場から離れる。そして魔力を放出し、魔法を構築していく。
ギギッ!?
魔力を感知したのか、フォレストマンティスが驚いたような鳴き声を上げる。だが、もう遅い。
「いけ!」
俺の掛け声と共に、俺の周りを回っていた雷の剣が一斉にフォレストマンティスへと向かう。フィリアが作った魔法がここで役に立つとはな。
飛んで行った剣たちは、フォレストマンティスの体を易々と貫く。フィリアやリーナが使っているところを見ただけだが、相変わらずすごい威力だな…。
体を貫かれたフォレストマンティスは、その場へと倒れる。そして姿が消え、ドロップアイテムが現れた。どうやら倒せたようだ。帰ったらフィリアに抱きついて感謝しないとな!
ーーーーーーー
ブルッ!
「どうしたの?」
「……なんか悪寒が」
「大丈夫?」
「……うん。大丈夫」
何だったんだろうか?まぁいっか。
「はぁはぁ…」
『うむ。中々だったぞ、主の弟よ』
地面に倒れて肩で息をしているアッシュと、その傍らでハッハッと舌を出しつつ尻尾を振るガルマ。
方や死にかけ。方や楽しげ。対照的だなぁ……。
「全く…程々にしなさいとあれほど言ったのに」
「えー。私にとってはまだまだなんだけど」
「なんでもフィリア基準にしない。あなたの方がおかしいんだから」
「……なんかそれ傷つくな」
「自覚なさい」
うぅー……。あれ?なら私に付いてこれるベルやシリルは?
「……それでも、あなたの本気ではないでしょう?」
「……まぁ、ね」
かなーり加減してるからね。いやだってね……加減しないと周りの被害が凄いんだもの。
「……まさか、俺にも?」
いつの間にかアッシュが死んだ状態から起き上がっていた。
「もちろん」
私がそう断言すると、アッシュは悲しそうな、悔しそうな、そんな顔になる。なんで?
「……そりゃ真正面から手加減してます、って言われたらね」
あ、そういうことか。
「だって手加減しないとアッシュ死んじゃうし」
「えっ!?俺死ぬの!?」
「死ぬよ。確実に」
まぁマリアでもそうなるだろうけどね……。
「ならアッシュの目標は、フィリアの本気を引き出すことかしらね」
「いやそれは……」
無理じゃない?って言おうと思ったんだけど……
「……うん。それを目標にする」
「えぇ……」
「頑張りなさい。(……特にフィリア)」
「(なんで?)」
「(……アッシュに本気を出しているように見えるよう頑張るのよ)」
あぁー…やっぱりマリアも、私の本気をアッシュが出せるとは思わないのか。
「(分かった)」
さてさて。この後はどうするかな?
(まだやるのか……)
アッシュが絶望したような表情になる。大丈夫だよ!そこまで辛くないから!
『……主にとって、でしょ?』
……黙秘します。