第118話 聖結晶の在処
とりあえずマルコムの店を後にして、リーナの所へと向かうことにした。今だと……家にいるか。
「あら、どうしたの?」
着くとリーナは、執務室で仕事をしていた。書類から目を離さず問いかけてくる。
「すまん、忙しい時に。ちょっと聞きたいことがあってな」
俺は聖剣の修復には聖結晶が必要であり、どこで採れるか知っているかと聞いた。
「なるほどねぇ……まぁ、知ってはいるわよ」
「ほんとか!?」
思わずリーナに詰め寄った。
「え、ええ。ただ……遠いわね」
「どこなんだ?」
「隣の国にある、神秘の洞窟と呼ばれるダンジョンよ」
神秘の洞窟か……確か前に行ったことがあった気がする。だが、聖結晶なんてあったか?
「あぁ。表のダンジョンじゃないわよ。裏」
「裏……?」
「そう。あのダンジョンは2つに分かれていて、表と裏があるの。比較的知られてるのが表。知られていないのが裏」
そんなの聞いた事ないな。
「なんで知られていなんだ?」
「そりゃ難易度の違いよ。裏は表とは段違いに過酷だから」
「なるほど。挑戦する人がいないってことか」
「そういうこと。どうする?」
「行くに決まってるだろ。それ以外の場所を知っているなら聞きたいがな」
「残念ながら私が知っているのはそこだけね。裏の最下層。そこで聖結晶が採れるはずよ」
「なら、そこに行くしかないな」
「ほんとは手伝いたいけど、色々とやることがあるから…」
リーナは学園関係のことでかなり忙しいと聞いている。それは俺の弟のレビンもなんだが。俺にはできねぇな。俺ができるのは戦うことくらいだ。書類仕事なんて
「場所は分かる?」
「当然…だが、裏はどうやって入るんだ?」
「えっと…どこやったかしら…」
ガサガサと部屋の荷物を漁り出す。探すってことは、入るのには道具がいるってことか。
「……あ、あった!これよ」
リーナが手渡してきたのは、綺麗な小さい金色の鍵だった。ほんとに小さい。
「なんだこれ?」
「見てわかるでしょう。鍵よ」
「いやそれはさすがに分かる。だが、これをどうするんだ?」
「えっと…最下層の転移部屋の壁に鍵穴があるはずよ。そこにさせば、裏への道が現れる」
「つまり裏は延長みたいなもんか?」
「まぁそうね」
最下層……確か50階層だったか。壁なんて見ねぇから、鍵穴があるなんて知らなかったな。
「というか、この鍵ってどうしたんだ?」
「それはダンジョンのドロップ品なの。極低確率の、ね」
ドロップ品か……ということは、この鍵を持っている人は、少なくともいる訳だ。だが、鍵だけドロップしても、鍵穴が見つけられなかったら意味ねぇだろうがな。だから知っている人が少ないのか。
「というか、これがドロップ品なんだったら、リーナは行ったことがあるのか?」
「ええ。一応裏も踏破済みよ」
ま、まじか……それなら裏の最下層まで転移できるんじゃないのか?と思ったが、次のリーナの一言で玉砕した。
「ただ、裏は転移できないのよ。だから毎回最初から行かないといけないのよね」
「……つまり補給で地上に戻るのは難しいか」
「ええ。一方通行なのよ。帰れるけど、戻れないわ」
なんつう面倒なダンジョンなんだか……
「マジックポーチを多めに用意するか…」
「あ、なら……ここらへんに……」
またしてもリーナが部屋をガサガサと漁り出す。ちょっとは整理しろよな……。
「あ!これこれ!」
リーナが引っ張り出てきたのは、少し薄汚れた肩掛けタイプの鞄だった。
「なんだこれ?」
「これはマジックバッグっていうもの。ちょっとした掘り出し物で、ポーチより大きいけど、その分かなり多く入るわよ。しかも、時間遅延効果付き」
まじか!?時間遅延効果付きなんて国宝クラスじゃねぇか!?
「なんで持ってるんだ?」
「ダンジョンで出てきたのよね。別に国宝クラスの代物だとしても、見つけた人の物でしょう?」
「まぁそれはそうだ。これ借りていいのか?」
「ええ。ただし、無くしたら承知しないわよ?」
「分かってるよ。じゃあ有難く借りるわ」
とりあえず食料やら予備の武器やらポーションやらを買い込むか。出発はまだになりそうだな。
ーーーーーーー
「はーい。今日はちょっと変わったことやりまーす」
「……なんかすっげぇ嫌な予感しかしない」
失礼な。楽しいよ?……私が。
『……S』
それは違う!……はず!
「という訳で手伝って、ガルマ」
『うむ』
スルッとガルマが私の隣りに現れる。
「うわぁ!な、なんだそれ!」
「私の…契約獣だよ」
『主の弟か。お互い苦労するな…』
ねぇそれってどういう意味!?ねぇ!?
……ていうかガルマの声、アッシュには聞こえないけどね。ということは私に対して言ったのか?弟に苦労するなって?そういうことか。
『……盛大な勘違いをされている気がするのだが』
「なに?」
『……なんでもない』
うん?まぁいっか。
「ガルマはアッシュを追いかけ回して」
「うぇぇ!?追いかけられるの!?これに!?」
「これって言わない。ガルマ、追いついたらかじりついていいから」
『あいわかった』
アッシュにも分かるようにガルマが頷いて返事した。
「えぇ!?俺齧られるの!?」
「追いつかれなければいいんだよ。ほらさっさと走る」
「いてぇ!だから蹴るな!」
渋々アッシュが走り出したので、ガルマに準備させる。
「分かってると思うけど、本気で走っちゃダメだからね。あと齧るのも」
もともとふざけて言っただけだからね。
『……そういうところは立派なんだがな…』
「どういうことよそれ」
問い詰めようと思ったけど、走って行ってしまった。むう。後で問い詰めよう。今はアッシュの妨害に専念しましょ。
『……なにも言うまい』