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第116話 マリアの過去

「私はね、元は孤児だったのよ」

「孤児……?」

「ええそう。この国ではないんだけどね」


 孤児だからマリアは、親の名前も顔も知らない。


「ある日、孤児院に教会の司教が訪ねてきたのよ。あることをする為に使う人材を探しに、ね」

「あること……?」

「……人体実験の為の人材をね」


 孤児院は教会の仕組みのひとつであり、その司教が頼みにこれば断れないのだ。


「だからって…まって。その話をするってことは」

「ええ……それに選ばれたのは、私なのよ」


 マリアは司教に連れていかれた。もともと魔力を持っていたことも、選ばれた理由になってしまったのだ。


「じゃあ……ママが色々って言ったのは……」

「人体実験の結果、みたいなものね」


 そう言ってマリアが自傷気味に笑う。


「実験って……何をしたの?」

「……聞く覚悟は、ある?」


 フィリアのことをマリアがまっすぐ見つめる。フィリアもまたマリアのことを見つめ返し、神妙に頷いた。


「そう……じゃあ話すわよ」


 マリアはまず大量の知識を叩き込まれた。医学、歴史、魔法、魔物、武器の使い方などの膨大な知識。その当時マリアはまだ8歳ほどの年齢だった。だからこそ、ここまでの知識を吸収することが出来たのだろう。


 知識を叩き込まれると、剣、弓、魔力銃、鞭、ハルバード、メイス、ハンマーなど。ありとあらゆる武器を使えるように訓練させられた。


 教会に引き取られてから、行動の自由なんてものはない。常に見張られ、死なない程度の食事しか与えられなかった。弱音などは吐こうものなら、食事が抜きになることもあった。だからマリアは、弱音を吐けなかった。ただただ指示されたことをこなすしか、マリアには出来なかった。


「そんなの……」

「あいつらにとって、私は道具でしかなかったのよ」


 人としては扱われず、様々な薬も投与された。その結果マリアの魔力は強制的に増加した。だが魔力が増えただけでは、強い魔法はつかえない。そのため毎日毎日魔力が切れるまで魔法を行使させられた。

 マリアの適性が多いのも、実験の影響であった。


 魔法が強くなると、逆らえないよう首には奴隷の首輪が付けられた。

 生きているのが不思議なほど体はやせ細り、しかし魔力が多い影響で体は健康そのもので。魔力が多くなっていなければ、マリアが生きながらえることは出来なかっただろう。


「でも、なんで…?」


 フィリアは疑問を口にする。なぜマリアにそこまでのことをさせたのか?


「……戦争のためよ。戦争の駒。それが私」

「………」


 フィリアが思わず固く手を握りしめる。その手をマリアが包んだ。


「怒る必要はないわ。それが無ければ、貴方は産まれなかったのかも知れないのだから」

「……どういうこと?」


 マリアは確かに戦争の駒として扱われた。ただ敵を殺戮する。それだけを命じられた。奴隷の首輪をされた状態のマリアは、その命令には逆らえなかった。

 目の前で、自分の意志とは関係なく、人が死んでいく。その光景を見続け、だんだんとマリアの心は麻痺していった。何も感じず、何も考えず、ただ魔法を打ち、人を殺した。


「そんな時に、私の目の前に現れた人がいたの」


 傍から見れば、マリアは化け物そのものであった。

 自身の怪我すら厭わず、味方すら巻き込む戦い方。そんなマリアの前に立ちはだかろうとする人など居ない……はずだった。だが、立ちはだかる人物が居たのだ。


「無ければ私が産まれなかったって……まさかっ!」


 フィリアはその人物が誰なのかを理解した。


「相変わらず聡いわね……そう。私の前に立ちはだかったのは、ロビンだったわ」


 ロビンもまた戦争の駒として参加させられていた。だが、マリアのように実験された訳でも、奴隷の首輪で命令されている訳でもなかった。1人の騎士として、参加していたのだ。


 ロビンはマリアが、この戦いを望んでいないということを、首についた奴隷の首輪で理解した。

 ロビンはマリアから攻撃を仕掛けられようとも構わず、まっすぐマリアの元へと向かった。そして、外部から膨大な魔力を奴隷の首輪に注ぎ込み、その首輪を破壊した。それにより、マリアは自由というものを取り戻したのだった。


「そうだったんだ……」

「ええ。ロビン、その時私になんて言ったと思う?」

「……わかんない」

「『俺がお前を救い出してやる。絶対に。だから、俺と来い。お前と俺は、死んだことにして、2人で、遠くへ行こう』って言ったのよ」


 ある意味、フィリアは2人と同じと言えた。お互いこの世から、死んだことにされた存在であったのだ。


「パパらしいと言うか、なんというか」

「ふふっ。ええ、確かに」


 その後ロビンが手を差し出し、マリアはその手を取った。

 そしてマリアは広範囲に爆発を起こし、周りの遺体の身元が分からないようにした。


 そうして2人は姿をくらました。各地を転々としながら、人助けをしていった。その結果が英雄なのだから、世の中分からないものである。



「これが私の過去よ。だからね……正直、私はフィリアを産むのを躊躇った」

「……影響が出ると思ったから?」

「ええ……」


 今でこそマリアは高位人間(ハイヒューマン)という種族になってはいるが、当時は様々な薬の影響で、半魔人という種族になってしまっていた。


 半魔人とは、様々な種族の血が入り交じった存在のことを指す。

 マリアが投与された薬には、他種族や魔物の血が含まれていたものもあったが為に、半魔人になってしまったのだ。


「あれ?じゃあなんで今は高位人間(ハイヒューマン)に?」

「リーナに薬を作ってもらったのよ。コルギアスの血を使ってね」


 コルギアスは邪竜であるが、その素材はとてもいいものであった。とくにコルギアスの血は、魔法薬を作る際にその魔法薬を高める効果があった。賢者であるカトリーナは、そのコルギアスの血を用いて、マリアの体に渦巻いていた様々な血を馴染ませることに成功したのだ。


「なるほど…?」

「なんか納得して無さそうだけど…」

「いや、納得はするけど……情報が多すぎてちょっと混乱しちゃって」

「まぁ無理もないでしょう……でも、フィリアの種族が分からなかったとき、ほんとに怖かったわ。産まなければ良かったんじゃないかって……」

「ううん。ママのせいじゃないよ。これは私が望んだこと」

「望んだこと……?」

「そう。……私はね、実は転生者なんだよ」

「転生、者…確かに、年齢にしては落ち着いているなとは思っていたけど…でも、望んだことって?」

「……種族ごちゃ混ぜ」

「……は?」

「えっと…種族を選んでって言われたんだけど、分からないからごちゃ混ぜにしてもらったんだ」

「そんなことって……道理で種族が分からないはずだわ」


 マリアが思わず天を仰いだ。そんな様子を見て、フィリアが苦笑を零す。


「フィリア様が転生者だったとは…」


 結界内にはレミナもいたため、マリアと共にフィリアが転生者だと知り得てしまった。


「黙っててごめんなさい」

「……いや、いいのよ。そう気軽に言えることでも無いだろうし…話さないほうがいいわよね?」

「うん。パパは、まぁ…そのうちに」

「フィリアの口からがいいでしょうね。さぁ、もうこの話はおしまいにしましょ。フィリア、結界解除して」

「はーい」


 フィリアが結界を解除したタイミングで、アッシュが家へと入ってきた。


「お腹空いたー!」

「ふふっ。でしたら、なにか軽いものを用意しますね。フィリア様は?」

「私は……いいや。ちょっと休む」

「その方がいいわ。そのまま寝ちゃいなさい」

「うん……おやすみ」


 フィリアは熱が上がったのかフラフラとした足取りで自身の部屋へと向かい、そのままベットへと倒れ込んだ。


「もう…むり」


 最後にそれだけ呟き、フィリアは意識を手放した。








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