第112話 襲撃?じゃあ逆に狙撃します
食事を終え、汗を流してから、アッシュには速やかに眠りについて貰った。
……眠らせたとも言う。
「ふぅ…」
「眠った?」
アッシュの部屋へマリアが入ってきた。
「うん。体調も……まぁ、顔色は悪いけど、大丈夫そう」
アッシュの顔色が少しだけ悪いが、問題ないだろう。
「そう…まったく。いきなり毒を用意してって言われた時は驚いたわよ」
そう。私がマリアに用意して貰ったのは、毒だ。
と言ってもそこまで強くないやつ。なんでそんなものを用意して貰ったのかと言うと…
「アッシュに状態異常耐性を付けさせたかったからね」
ということだ。ステータスを見て状態異常耐性がないことに気づいたからね。
「それにしても他にも方法はあったでしょう…」
「それはそうなんだけどね……」
その方法とは、魔法で状態異常攻撃を行うという方法だ。
こちらの方が不確定要素が多い毒を使うより威力調整ができて、安全ではある。だけどねぇ……私、状態異常攻撃できないのよ。身につけてるアンクルの効果で、ね。
あ、ちなみに指輪はもう付けてないよ。わざわざ同じ効果のものを付ける必要ないなって思ったからね。
「なんか含みある言い方ね……まさかフィリア、状態異常攻撃できない、の?」
いつも鋭いなぁ…
「……うん。ちょっとした要因でね…」
魅了眼とかいう面倒なものが無ければね!
「そうだったの……」
マリアが気まずそうな顔をする。
「大丈夫だよ。使えない訳では無いからね」
「え?」
もうマリアには私が女神の使徒であることはバレているのだし、話してもいいだろう。
「魔道具で制限してるんだよ」
「魔道具…?なんで?」
「この目についてる効果を抑えるためにね」
私は自身の金色の瞳を指さした。
「効果?目?……もしかして、魅了?」
「っ!」
なんでそんなに鋭いのよ……
「その反応だと、当たりっぽいわね」
「…うん。その力を抑えるために、自他共の状態異常攻撃無効化っていう効果がある魔道具を付けてるの」
「自他共……どこでそんなものを…」
「女神様からだよ」
様と呼ぶには些か頼りないけどねぇ。
ー酷い……頑張ってるのに……ー
じゃあこうやって話しかけずに頑張ってなさい。
ーうぅぅ……ー
まったく……。
「女神、エルザ?」
「うんそう。まぁこの魅了を与えたのもエルザなんだけどね」
そう言うとマリアが顔を顰めた。
「迷惑なものね」
あ、やっぱりそう思うんだ。
「まぁ迷惑じゃない力も貰ってるから、文句は…」
……いや、言うな。うん。
ーなんでぇ!?ー
だってそもそもそこまでの力を好きに付けられるんなら、別に魅了とか付けないっていうことも出来たってことでしょ?
ーうっ!ー
やっぱりわざとかぁぁぁ!!
ーだ、だってぇ…男たちを次々と魅了するなんて萌えるじゃない?ー
そ、その感性が分からない……ていうかそれなら魅了の対象を異性だけにしろぉ!
ーあ、その手があったかー
こんの駄女神がぁ!
ーそこまで言わなくてもいいじゃない!?…ってあぁ!またバグが…ごめん!また今度!ー
あ、こら!
しかし、それ以降エルザと会話することは出来なかった。ていうか最後論点がズレてたような…?
「フィ、フィリア?」
「うん?なぁに?」
「なんか怒ってるみたいだったから…」
あぁ……そこまで顔にでてたか。
「ちょっとね。もう大丈夫」
「そ、そう。じゃあとりあえずフィリアも休みなさい」
「うーん…うん。そうする」
アッシュのステータスを確認して、体調に問題ないことを確認してから、私はアッシュの部屋を出た。
◇◆◇◆◇◆◇◆
その夜。ベットに入ろうとすると、あることに気づいた。
「……明らかに怪しいよね」
気配察知に反応する家の周りに集まる人々。1人、2人とその人数は増えていき、今では10人ほどが確認できた。
もう日は落ちているので、明らかに怪しい。
「はぁ……」
1度寝かかった意識を戻し、ベットから起き上がる。
「でも、どんな狙いで?」
わざわざこんな田舎の村までくるとはなにが目的なのか…。
「まぁ、本人から聞きましょうかね」
私は光学迷彩を発動し、窓から屋根へと上がった。
「あら?フィリアも来たのね」
屋根の上には、もう既に先客としてマリアがいた。バレたのは気配隠蔽してなかったからだろう。
「どうしてママが?」
「それはそうでしょう。ここまで人が集まってたら、ね」
どうやらマリアも同じ理由で上がってきたようだ。私は気配隠蔽をしつつ、光学迷彩を解除した。
「その姿消すの便利ね」
「光学迷彩っていうスキルだよ。それより、どうするの?」
屋根の上から見て改めて気づいたけれど、かなり距離がある。
魔法の射程内ではあるが、命中するかは微妙ってところかな。
「そうねぇ……なにがいい案ない?」
「無策なのね…」
「それはフィリアもでしょう?」
「うっ……」
図星なので何も言えない。しかし困った。どうするか……
「……あ」
いいのがあるじゃないか。今まで使うことなく、アイテムボックスの肥やしになっていた物が。
「なにかあるの?」
「うん……これとかどう?」
私はそれをアイテムボックスから取り出した。
「これは……魔力銃?」
そう。出したのは今まで使うことがなかった魔力銃、正確には魔力ライフルだ。私とマリアの分として、2丁取り出した。
「そうだよ。これで狙えないかな?」
「予想外な提案ね……でも、面白いわね。当たるかは分からないけれど、やってみましょうか」
マリアがまるでイタズラを思いついたような笑みを浮かべる。ちょ、ちょっと怖いかな…
「あ、あれだよ?殺しちゃだめだよ?」
「分かってるわよ、そんなこと。属性付与は雷にすればいいでしょ?」
「うん」
雷属性付与ならば、痺れさせて捕らえることができるから、それでいい。いいんだけどね…
「……ほんとに殺らないでね?」
「……分かってるわよ」
その間は何だったのだろうか……
私はマリアに魔力ライフルを手渡しつつ、今から狙撃される人々に少しばかり同情の念を送るのだった……。




