第104話 説明
ソファに座って、マルティエナさんが話し出す。
「さっきのことでちょっと気が動転してるんだけど…」
「いきなりですいませんでした。でも、時間がなかったんです」
これは勘だ。だけど、早くしないと手遅れになっていたのは事実だと思う。
「…もしかして、マルティエナがあれに取り憑かれてなかったら、今回のことも起きなかった?」
「その可能性はあったのかも知れない……それでも、私がしたことに変わりない。本当にごめんなさい…」
マルティエナさんが頭を下げる。
……でもね?
「あのですね……そもそもなんでマルティエナさんがこんなことをしたのかを説明して欲しいんですけど?」
今回の事件がマルティエナさんのせいである、ということは、本人の口から聞いた…聞いたよね?うん、言ってたはず。
だけど、なんでそんなことをしたのかは、まだ話してもらってないよね?
私としては、謝罪よりもそっちが知りたい。
「……フィリアちゃんは、世界樹を知ってる?」
「もちろんです」
「それじゃあ、その世界樹の中は?」
「確か…ダンジョンでしたっけ」
それもかなりの高難易度の。
「そう……それでね、私の国にある世界樹のダンジョンがね……」
そこで言い淀む。
「乗っ取られた、と」
だから私がその先を言った。
「……そう、なの」
マルティエナさんは俯く。
うーん…でも世界樹ってかなりこの世界で重要な役割があったんじゃないの?乗っ取られて大丈夫なの?
ー大丈夫、とは言えないのよね…ー
…やっぱり?
ーうん。今はそれ食い止めてるけど、これ以上は……だから、原因を無くして欲しいのー
だから、ロビン達に祝福を?
ーそういうこと。本当はお姉ちゃんに行って欲しいけど、それは難しそうだからー
どうして?
ーそもそもマルティエナの国に入ること自体が難しいのよ。お姉ちゃんが女神の使徒であることを伝えてもどうなるか…ー
そ、そこまでなのね…でも、大丈夫なの?
ーもし危険と判断すれば、お姉ちゃんを転移させるからー
お、おう…事前に連絡はしてね?
ー…善処しますー
そこはハッキリ言って!?
しかしながら、エルザから返事は無かった……。絶対連絡なしだな。はぁ…
「ダンジョンが乗っ取られたことは機密で…だから秘密裏に六大英雄に集まって貰う為にここで騒ぎを起こしたの…」
エルザと会話している間に、マルティエナさんが説明を再開していた。
集まって貰うにしても……
「危険だとは、思わなかったんですか?」
取り憑かれて、思考力、判断力が、低下していたとしても、だ。あまりにも考え無しすぎる。
思わず怒りで魔力が漏れ出す。
「フィリア!落ち着いて…」
隣りに座っていたマリアの声を聞き、魔力を抑える。すると、私以外の全員が明らかにほっとした表情になる。
……そこまで強く出してないんだけど。
「ごめんなさい…生徒を危険に晒すつもりなんて無かった。でも、このダンジョンまで乗っ取られてしまって…」
おそらくこのダンジョンが乗っ取られた原因は、マルティエナさんだ。
無意識のうちにマルティエナさんを操って乗っ取ったか、マルティエナさんの中にあった禍々しい魔力をダンジョンに移し、乗っ取ったかのどちらかだろう。
前者なら1度詳しく調べる必要があるだろうが、後者なら源である塊を浄化したので、問題ないはずだ。なぜならこの魔力はどうやら与えられたものだからなのか、繋がっているようだからだ。なので元が無くなれば、全て消える…はず、という訳。
「フィリア……?」
私が黙っていたからなのか、心配そうにマリアが顔を覗き込んできた。
「大丈夫。ちょっと考え事してただけ」
「そう…マルティエナのことは、どうか責めないであげて」
「…まぁ責めるつもりはないよ。ちょっと怒りはあるけど、結果として生徒は無事だったし」
もしキャサリンかベルが…無事じゃなかったら、許すことは出来なかったかもしれない。でも、2人は無事だった。2人だけじゃない。全員無事だった。それは結果でしかないけど、それでも良かったと思える。だから、私がマルティエナさんを責めたりすることはない。
「…ありがとう、フィリア」
…これは感謝されることなのか?
「それより、世界樹はどうするの?」
マルティエナさんの第一の目的は集まることだから、達成できたと言える。
だけど、最終目的は世界樹を取り戻すことだ。まだ、終わっていない。
「それなんだけど………」
マリアが話した内容は、一応理解できるものだったけど……
「…………」
思わず黙ってしまった。だってもうちょっと時間があると思ってたんだもん……