第99話 最後の戦い
コルギアスが口を大きく広げ、ブレスの最終体勢をとる。
それと同時に私は一気に身体強化をかけて、顎の下へと滑り込む。
クギャァ!?
コルギアスが困惑の声を出す。
それもそうだろう。さっきまで格好の的だと思っていたものが、一気に自分の死角に回り込んできたのだから。
「体術・兎月蹴り」
これは足で上に蹴りあげる武闘スキル。
片足がコルギアスの顎の下にあたり、上へと蹴り上げる。
身体強化を足に集中した結果、コルギアスの口を上へと向けることに成功する。
簡易型ブレスは、いわば単発式のエネルギー弾のようなもの。それが天井へと発射される。
ドガァァァンッ!!
「おぅ…凄まじい」
天井が崩れ、岩がコルギアスへと降り注ぐ。
ギャァァァ!!
だが、それは大してダメージにはならない。でも、それでいい。
「さぁ。こっちだよ」
コルギアスの注意を引ければそれでいい。
コルギアスは私のことを見つけて、睨みつける。
もう、私しか見えていない。
「フィリア!?」
「大丈夫!」
マリアが心配する。まぁそれも当然かもね。
コルギアスが襲いかかる。ブレスは諦め、巨大な前足で踏みつけようとする。
「当たらない、よっ!」
動きが遅くともその範囲が広い。かわすのはやっとだ。
ロビンに目配せする。まだ、タイミングじゃない。
ロビンに渡したコルギアスの魔剣は翡翠の力を持っている。でも、劣化版。だからこそ、弱点を狙う必要がある。
「あそこが…逆鱗」
首の1部の鱗が逆さになっている所がある。それが逆鱗。鱗の中で最も硬く、最も弱い。
矛盾しているようだけど。言い得て妙なのだ。
そこに刃が通れば、倒すことができる。故に弱点。どんなになまくらな武器でも、20センチ入れば、倒せる。
「だからこそ注意を引かないと、ねっ!」
足だけでなく尻尾でも攻撃してくる。受け止めることはできない。だから、見せたくはなかったけど、空歩を使って空中に避ける。
「フィリアが…飛んだ?」
うん、まぁ飛んだよ。歩いたに近いけど。
「これ、以上はっ!」
本気を出せば何とかなる。でも、それはしない方がいい。エルザがわざわざ祝福を与えたんだ。それにはなにか理由があるはず。ならば、この敵は私が倒さない方がいい。
……だよね?
「なかなか隙がない…!」
ロビンが叫ぶ。確かにただ暴れてるだけだけど、そのせいで懐に入り込めない。
だったら…作ってみせる。
「来なさい!」
私は地面に降り、真正面に立つ。
グワァァァァァァァ!!
一気に口を開け、突進してくる。
「ホーリーチェイン!」
光り輝く鎖が様々な場所に巻き付く。私の目の前で突進が止まる。
「くっ!パパ!」
「お、おう!」
ほとんど私の力ではあるけど、仕方ない。
この鎖は込めた魔力に比例して強度が上がる。今の私ができる最大の魔力を込めた。それでも鎖が悲鳴を上げる。どれだけ強いのよ!!
「おらぁぁ!」
コルギアスの魔剣が青白い光を纏う。でも、炎のようにはなっていない。
コルギアスの魔剣が逆鱗に突き刺さる。
グギァァァ!!
コルギアスが暴れ出す。それと同時に鎖がとうとう引きちぎられる。私の魔力はほぼ空に近い。
「うぉ!?」
首が持ち上がり、ロビンが空高く飛ばされる。魔剣はまだ奥に届いていない。
「キュアノス、イレーネっ!」
翡翠刀ではないけれど、同じ光ならっ!
その予想は当たっていたようで、コルギアスの魔剣が蒼い炎を纏う。
「何だ!?」
ギャァァァ!!
コルギアスが苦しみの声を上げる。炎は静かに、しかし確実にコルギアスを浄化していく。
その時、ロビンがとうとう手を離してしまった。
「エアクッションっ!」
魔力が少なくてもそれくらいならできる!
地面に衝突する瞬間、落ちる勢いがゆっくりになる。よかった…
「フィリアっ!?」
マリアが駆け寄って来るのが目に入る。
「大丈夫!?」
「大丈夫、だよ…」
弱々しく微笑む。正直しんどい。今までで1番かもしれない。
「フィリア…」
マリアが私の手を握る。そこから、優しい、マリアの魔力が流れ込んでくる。
「マ、マ?」
「まったくもう…無茶して!」
マリアの顔は泣きそうだ。まぁ無茶をしたという自覚はあるんだけどね。
「大丈夫だよ、それより、コルギアスが」
コルギアスはまだ生きている。炎は着実にコルギアスの体を崩壊させていく。
「はぁ…」
疲れ切った体に鞭打つ。まだ、私の仕事は終わっていない。
「フィリア…」
「私がすることだから」
ロビンの手から離れたことで、炎の勢いは弱くなってしまっている。このままでは倒しきれない。
「翡翠、力を貸してね」
『もちろん!』
ロビンはさっきの衝撃で気を失っている。リーナはそれの介抱に。ドノバンさんはそれの護衛を。
「ママは…マルティエナさんを」
「…分かったわ」
さてと。私は光学迷彩を展開する。私の職業を知る人は少ないに越したことはない。漏らすとは思えないけど。それでもね。
「翡翠」
『ほいさ!』
……どこでそんな言葉覚えた。
私は空歩でコルギアスの頭に近づきつつ、翡翠を抜く。その刀身に蒼い炎がまとわりつく。
「これで、終わりっ!」
脳天に翡翠を突き刺す。
ギャァァァ!!
コルギアスが暴れる。私はさらに深く突き刺す。逆鱗を狙わなくとも、その鱗を貫き、脳に届けば倒せる。まぁ力技だよね。
グル……
とうとうコルギアスが暴れなくなる。それと同時に私は炎…聖火を燃え上がらせる。これで浄化できる…
「ふぅ…」
翡翠を引き抜き、コルギアスの頭が地面に落ちきる前に地面へと降りる。
これで、やっと終わるね。
……で、ここからどうやって帰るんだ?