第92話 その後13
-―もし、この戦いが終わったら――君に思いを伝えよう。
逆行前。時と空間の精霊王様の神殿に行く前にそう誓って戦いに出発しーー結局その願いは叶わなかった。
後に紗良にその事を伝えたら「フラグを立てるからです!」と怒られた。
何でも、紗良の世界ではそういった願いは死亡フラグと呼ばれていたらしい。
こうやって紗良が世界のループの呪縛を打ち破り、平和になった今。
彼女に思いを伝えられて通じ合った。
だからーー
「好きだよ紗良」
二人で夜空を見上げながらーー並んでいる状態で心の中で呟いた。
王都にあるセンテンシア領の別荘でレティの聖女就任式を終えて戻ったあと、二人で夜空を見上げていた。
本当は声にだして、彼女に伝えたい。
「好きだ、愛している、誰にも渡したくないと」
彼女の赤くなって、慌てふためく顔が見たくもあるけれど、彼女の場合口にだすと本当に逃走しかねない。
だから心の中で呟いて、彼女の横に並んだまま夜空を見上げる。
ゆっくりとーーゆっくりと。
これからは時間がある。
ループなどと忌まわしい呪縛からこの世界は解放されたのだから。
彼女との距離はやっと一歩縮まっただけで。
これからは違う価値観をお互いすり合わせていかなければならない。
お互いの歩み寄れる所、歩みよれないところを尊重しあいながら、歩めるように。
強くて前をいつも見ているけれどその反面臆病な部分を持ち合わせている彼女を支えていけるようにーー。
「カルロさん、今日はお疲れさまでした」
紗良がそう言って顔を赤らめながら手を握ってくる。
前より積極的になってくれた彼女に嬉しくなり抱きしめたくなるが、それを我慢してカルロは微笑んだ。
「紗良もお疲れ様。
本当はね、レティの時の君の性格を考えれば――君がでてくれるとは思わなかった」
「え!?そりゃ出ますよ!?レティのお祝いの日ですよ」
それにカルロさんに女性が寄ってくるのも嫌だし。
と、後半は顔を赤らめて言う彼女が可愛くて、
「うん。ありがとう。
嬉しいよ」
と、手を少し握り返せば顔が一気に赤くなる。
「カカカカカ、カルロさん!?」
「うん?何だい?」
わざとにへらと情けない笑みを浮かべると紗良が安心した顔になる。
急がないように。こういった笑みの方が安心できるというなら、彼女との距離が縮まるまではそうしよう。
「えーっと、その今日は嬉しかったです」
「嬉しかった?」
カルロが問えば、紗良が顔を真っ赤にして
「こ、これ以上はちょっと……その今のは聞かなかった事にしてください」
と、手をぶんぶんと顔の前で交差させていて。
その姿が可愛くもある。
死別した妻に姿形が似た女性の事を言っているのだろうか?
紗良も妻も好きになったのは性格でーー見かけが似ているという理由で好きになるなんてことはありえない。けれどそれを彼女に伝えれば、見かけを気にしている彼女にやっぱり自分の見かけは悪いのかな?と、心配させてしまうから、気づかないふりをする。
紗良は人の事になると積極的なのにーー自分の事になると急に臆病で。過小評価する傾向がある。
もし自分が支えてあげられるとしたら――自信のない彼女を支えていくことだろう。
ゆっくりと、ゆっくりと。
本来の娘のレティとの距離が急に縮められないように。
紗良との距離も急には縮められないだろう。
今まで不甲斐なかった分、彼女たちを裏から支えていけるように。
愛しているという気持ちを素直に伝えられるように。
これから努力しなければならない。
自分がふがいないばかりに、苦労させてしまった分、これからは自分が支えよう。
「うん。わかった。今日はありがとう紗良」
そう言って手を握り再び夜空を見上げた。
どうか――この幸せな日々を守っていけるようにと祈りながら。
~終わり~











