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第88話 その後9

「あいつは一体何をいじけてるんだ?」


 時と時空の宮殿で、カルロ用にと用意された部屋の隅で負のオーラを放ちつついじいじといじけているカルロを見てセクターが言う。

 セクターもミレイユもラディウスも同行し、別室に待機していたのだ。


「なんでも勘違いして、レティお嬢様とクライム様の前でお嬢様を抱き上げたらしいですよ」


 と、ミレイユがため息をつきながら答える。


「いつもの事ではありませんか。何をいじける事があるのでしょうか?」


 セクターとミレイユとともに席でお茶を飲んでいたラディウス。

 地味にラディウスも毒舌ですよね、とミレイユが思いながら紅茶をすする。

 あの状態のカルロに話しかけても、しばらくは上の空でどうしようもないのでいちいち声をかけても仕方ない事は長い経験上知っている。

 あらかた仕事も終わっているので、好きなだけいじけていてもらおう。


「おい、せっかくレティ様の所に来たのに、こんなところでいじけてていいのか?

 親子のつもる話もあるんじゃないのか?」


 セクターが出されたお菓子をパリパリと食べながらカルロに尋ねると、


「……女同士で話がしたいと言っていたから……」


 と、部屋の隅っこでいじけたカルロが答えると、


「追い出されたな」

「追い出されましたね」

「邪魔だったのでしょう」


 誰一人慰める事なく突っ込んだ。



■□■



「カルロさんは、本当過保護なんだから」


 レティの部屋で、二人でお茶をしつつ私がため息をつきながら言えば


「ええ、そうですね。

 記憶の中の父もいつも母の事となるとすごく嬉しそうに語…」


 と、レティが凄く嬉しそうな顔で言い、はっという表情になって、


「あ、すみません……私にも過保護でした!」


 慌ててごまかした。

 うん。前の奥さんの話はレティ的には失礼だと思ったのだろうか。

 私もレティと記憶を共有してたけど前の奥さんの話をしてる記憶がさっぱりなかった……思い出せたのはカルロさんが操られていた時の記憶ばかりで、レティが幸せだった時の記憶を思い出せるようになったという事はそれだけ今が幸せなのかな?と勝手に想像して嬉しくなる。


「……どうかなさいましたか?」


「ああ、ごめん。ごめん。

 レティが幸せだった時の記憶が戻ったんだなぁと思ったら嬉しくなっちゃって」


 私が言うと、レティは顔を赤らめて


「ありがとうございます。紗良のそういう優しいところ大好きです」


 と、にっこり笑った。


 や、別に優しくなんてないんだけど!?


「え、別に普通の事だよ!?

 それにしても、本当に戻ってこないでここで聖女としてやっていくのでいいの?

 別に無理してここに残る事ないんだよ?」


 私が言えばレティは首を横に振って


「……センテンシア領は、楽しい事もありましたけれど。

 どうしてもつらい記憶ばかり思い出してしまいます。

 それに、父の事は本当に好きです。恨んではいませんけれど……。

 優しくされれば、されるほど、何故前世ではあのような理不尽な目にあってしまったのだろうと思い出してしまいますから……」


 言って遠くを見つめるレティの瞳は(は か な)げで、まだ彼女の中ではいろいろ消化できていない部分があるのが伺い知れた。

 確かにレティの記憶の中にある操られていた頃のカルロさんは……レティの事を汚物を見るような目で、(な じ)るばかりで、あれをループで何十回と経験していたレティにとってはすぐに吹っ切れるものではないのかもしれない。


「……うん、そっか。無理はしていなんだよね?」


「はい。聖女という仕事がある方がやりがいを感じます。

 ちゃんと自分の居場所があるんだなぁって」


「偉いなぁ、私は少しでも行事をさぼりたいと駄々をこねていたのに」


「それはそれで紗良らしいですよ」


「うん?それは褒められてるの?」


「さぁ、どうでしょう?」


 悪戯っこっぽく笑うレティの顔は可愛くて、10歳相応に見える。

 

 居場所があって嬉しい。

 そのレティの言葉が胸にささる。

 彼女にはずっと居場所がなかった、センテンシア領にも学園にも、王子の婚約者としても。

 だからマリエッテに()がってしまった。

 自分の居場所を求めて。

 けれど、そこも本当の彼女の居場所ではなくーー絶望のうちに死んだ。


 だから、聖女の仕事が嬉しいというのは嘘ではないと思う。

 マリエッテに縋がったのもーーレティは居場所を欲していたからだ。

 私とカルロさんでは彼女の居場所にはなれないのは悲しいけれど。


 カルロさんとレティの間にある溝は――すぐに埋まるものではないのかもしれない。

 声も姿もカルロさんで、ふと優しさの中にもまた前のように冷たい人に戻ってしまうのではないかという不安は付きまとう。

 レティは何度もそれを経験してしまったから。


 少しずつ、ゆっくりと、距離を縮めて、いつかレティの中でカルロさんが操られいていた時の記憶がーー過去のものにできるようにしていかないと。


 私は二人の間を埋められる橋渡しができるかな?


 無邪気に笑うレティを見ながら私は微笑んだ。


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