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第8話 どうしよう

「何を今更言っているのかしら?

 今まで気がつかなかったの?

 

 私、貴方の事が心から嫌いでした

 貴方を騙したに決まってるじゃないですか」


 そう言って私をあざ笑うかのように扇子で口元を隠し


「ああ、その顔……いい気味」


 と嬉しそうに目を細めた。 


 王宮で。

 何故自分を騙していたのかとマリエッテに問えば、返ってきた返事はそれだった。

 とても綺麗な黒髪の。18歳とは思えない気品と風格を持ち合わせた女性。

 それが彼女だった。


 無理矢理第二王子の妃候補にされて、王子に虐げられ、田舎貴族と他の妃候補に馬鹿にされても守ってくれて、慰めてくれたのが彼女マリエッテだった。


 だから信じていた。

 彼女を尊敬していた。


 異世界からきたといわれる少女に敵意を向け、嫌がらせをしてしまったのも、元はといえばこのマリエッテの言葉を信じてのことだったのだ。

 マリエッテに遠まわしに嫌がらせをしている。

 そう信じ込まされていた。

 だから異世界からきた少女に嫌がらせをしていたのに。


 でも、真実は違った。

 異世界からきた少女は本当にいい子で。

 自分の嫌がらせも、悪意も。

 彼女はその天然さで全て躱してしまう。

 散々嫌がらせをしたのに――彼女は笑ってレティを助けてくれた。

 

 本当に……生粋のお人好しで。


 いつしか自分はマリエッテよりも彼女の方を信じるようになっていた。

 交流していくうちに、マリエッテの話が嘘だと疑うようになったのだ。


 そして、後にそれをマリエッテに問うた返事が、この一言である。


「今更気づいたの?

 私と同じ年齢で、魔力が高いだけで神童などとチヤホヤされて。

 社交の場で、目立っていたのはいつも貴方だった。

 それがどんなに屈辱的だったかわかる?」


 マリエッテの言葉にレティは


「……そんな理由で?」


「そんな理由?

 理由としては十分ではありませんか。

 このマリエッテ・シャル・クランベルダより上の存在がいる。

 そんなことが許されると思って?」


 今まで浮かべていた優しい笑みからは信じられないほど辛辣な笑みを浮かべ言うマリエッテ。



 そこでレティは理解した。

 自分は――馬鹿だったのだと。

 人を見抜く目も。

 人の悪意を読み取る能力もなにもない、ただの小娘にすぎなかったのだと。



 ■□■


 がばっ!!!!


 そこで私は目を覚ました。

 キョロキョロ辺りを見渡して――いつものベッドにいつもの天蓋。

 お気に入りだったぬいぐるみに読みかけだった絵本。

 私はそこがいつもの自分の部屋であることに安堵する。


 ……また夢かぁ。


 今度見た夢はレティが経験したであろう、過去の夢。

 もしかしたら私にも降りかかるかもしれないそう先じゃない未来。


 夢だったのにまだ心臓がバクバクする。

 ゾワゾワと嫌なものがまだ心の中に残っている。


「――嫌な夢みたな」


 身体が汗でびっしょりになっているのがわかった。



 ずっと不思議だった。

 何でレティは身の回りの大人に、何も言わず転魂してしまったのか。

 そんな秘術が使えるならもっと他の方法があったのではないか。

 話していれば転魂なんてしないでも未来をかえられたのかもしれないのに。


 でも今の夢でなんとなくわかった気がする。


 きっとまた裏切られるのが怖かった。


 心酔していた人に裏切られたせいで。


 頼りにしていた父親は薬漬けにされて操られ、娘は汚物のような扱い。そしてすがるように頼った先でまた裏切られた。

 それがどれほどの絶望だったろう。

 18歳なんてまだ高校生くらいだ。

 その年齢で大人や頼った友人に裏切られるなんて私だったら耐えられただろうか?


 ……私も、本当ならちゃんと大人に話さないといけない。

 これから起こる未来を。

 でも信じてもらえるだろうか?


 そして何より――レティの身体を乗っ取ってしまったことを話したら私はどうなるのだろう。

 いくら不可抗力とはいえ、やはり恨まれるのだろうか?


 それはやっぱり嫌かもしれない。

 これでも3年はレティとしてやってきたのだ。

 皆に嫌われたくはない。


 私は一体なんなんだろう。

 レティだけどレティじゃない。


 それなのに記憶を思い出してからというものレティの記憶を夢で見ることが多くなり、レティに感情移入してしまう。

 まるで自分がマリエッテにいじめられていた気分になってしまうのだ。

 このままだと日本人だった頃の自分を見失いそうで、時々怖くなる。


 ――日本に帰りたい……。


 自分でもどうしようもない感情に私は大きくため息つくのだった。



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