第87話 その後8
「紗良。話があるのだがいいだろうか」
レティとカルロさんの就任式の練習が終わるのを待ちつつ、神様のお腹をなでていれば、部屋に現れたのはクライムさんだった。
挨拶をした後、私が紅茶を入れて、席についたところでそう切り出されたのだ。
ちなみにハムちゃんはスヤスヤと寝息を立てている。
お腹を撫でられているうちに気持ちよくてねちゃったらしい。
「はい、どうかしましたか?」
「以前君が手に入れたダンジョンの素材やモンスターについてなのだが」
「ああ、あれですか」
ダンジョンでカルロさんたちと再会したとき、「時空のゆがみでこのダンジョンおかしいもきゅー!一度大掃除をして作り直すもきゅー!!!」と、神様が倒してしまったおかげで、ありえないほどの素材やモンスターの死体が手に入った。
本来30Fまで行ければ快挙!!というダンジョンの100Fまでの素材が手に入ったのだ。しかもたくさん。神様がカッコイイポーズをとりながら「紗良の好きにするがいいもきゅ★」と言ってくれたので、ありがたく全部アイテムボックスに回収してきた。
私やカルロさん、そして商人であるセクターさんでもこんな高価なダンジョン産の素材を売ることは出来ないだろうなぁと、レナルド王子に売るのを頼んだのである。
おそらくその話なんだろうけれど。
「君が持って来た素材は残念ながらごく一部しか売れない」
「え?何でですか?あまり価値がなかったとか?」
私が聞けばクライムさんが首を横に振って
「いや、逆だ。あまりにも高価な素材すぎて、売れないと思ってくれていい」
「値段が高すぎて売れないとかですか?」
「それもあるが、それよりも問題なのが、君がもってきた素材があまりにも価値が高すぎて、この素材が市場に出回ればいままで高価だった素材が、一気に値崩れをおこしてごみと化してしまう」
と、無意識なのかとんとんと指で机をたたいた。
「ダンジョン産の素材は資産としてもっていた貴族や商人、王族も多い。その資産価値が一瞬で下がるとなれば経済が混乱する」
「確かにそれは困りますね」
確かに今までダンジョン30Fまでの素材をありがたやーと持っていたのに、100Fまでの素材が流出すれば、30Fのダンジョンの素材なんてゴミ同然だろう。
RPGでいえば今まで鈍の剣を高価な剣として扱っていたのに、そこに聖剣やら魔剣やらが大量に市場に出回ってくるわけだからなぁ。鈍の剣なんて一気にゴミかするよね。
「この素材を市場に出すのは慎重にならないといけない。
計画的に市場が混乱しないように売るとすれば……5000年くらいはかかるだろう」
と、クライムさんがこめかみを押さえながらいった。
って、5000年!?
「恐ろしく気の長い話ですね」
「君はもってきた素材がどれくらい価値のあるものか知らぬようだが……まぁ、その件はいい。
そこで相談したいのが、どれだけ市場に商品を出品するのかの権利を私に一任してもらえないだろうか」
「クライムさんにですか?」
「そうだ。市場に全部出すこともできなくはない。
だが先ほど話したように、経済が混乱をきたし、資産として高値で素材を買おうとするものなどいなくなるだろう。
すべて放出した場合、小出しに売った場合より値段が下がると思ってもらっていい。
私としては小出しにして売った方が市場の混乱も抑えられ、高値で売れると思っている」
「なるほど。流石クライムさんですね。
私は別にかまいませんよ、レナルド王子も了承しているんでしょう?」
なんたって、クライムさんはゲームのヒーローの一人なのだ。
不誠実な事をするわけがない。
「殿下は了承している。それに、彼は狡猾だ。おそらく殿下が王位を継げばこの素材を脅しの材料として政治の道具として使うつもりだろう。
レナルド王子も手元においておきたいはずだ」
そう言って、私が淹れた紅茶を一口すすった。
あー、うん。なんというかレナルド王子らしい。
一瞬にこやかに脅迫の材料につかってる彼を思い浮かべて苦笑いを浮かべた。
経済の主導権を握ってるのだ。帝国だって彼ならいいくるめるだろう。
あまりにも彼らしいのでそこに突っ込むのはやめておこうと思う。
「でも5000年って、そんな長い間管理できるものですか?」
クライムさん達も死んでるよね。
「それなのだが……素材はレナルド王子の代で売れるだけ預かりたい。
残りは君が管理していてほしい。あの素材の数々は現代の人類の手でもつにはあまりにも危険すぎる」
「なんだか難しいんですね」
「人類が行ける範囲で開拓した素材ならまだいいのだが……。
あの素材の数々はおそらく人類が何千年とかけても自力では手に入れる事のできない素材だ。
そのような素材が出回れば悪用された場合人類に対抗手段がない。
下手をすれば巨大すぎる力を手に入れたなにかが精霊王様達に逆らおうとも考えかねない。あの素材の数々は人類にそう夢を見させてしまうほどのものをもっている。
黄金ドラゴンなどは鱗などの一部だけ売り払い、魔石などは永遠に封印したほうがいいだろう。人類では御しきれない素材については君に返却する。
それで、申し訳ないのだがこちらが保存するにあたって一部素材を使わせてもらいたいのだがいいだろうか?」
「保存ですか?」
「ああ、状態を維持するためにはそれなりの環境が必要なのだが、あれだけの量のものを一か所にまとめるとなるとどうしても、場所と警備の問題がでてくる。
一部高価な素材を使い、君のアイテムボックスに似たアイテムを作りたい。
もちろん費用は払うし、希望があればセンテンシア領の分も作成しよう」
「わかりました。お任せします。でもすごいですね。そんな魔道具が創れるなんて」
「凄いのは私ではない。素晴らしいのはダンジョン産の素材だ。
神話級の素材が、目の前に広がる光景は壮観という他ならない。
あれだけの素材があれば大体の魔道具は作れるだろう」
そう言って物凄く嬉しそうな笑みを浮かべる。
漫画なら背景にふわふわふぁーとお花が飛んでいそうなほど顔が幸せそうだ。
「本当に魔道具作りが好きなんですね」
私がくすりと笑っていえば、クライムさんの顔が赤くなる。
そして、よほど恥ずかしかったのか、一度顔を背けて真っ赤にしたまま
「……うむ。まぁ、その、好きだ……な」
何が恥ずかしかったのか照れながらクライムさんが顔に手を当てて言うと
ばたーーんっ!!!
唐突に扉が開かれて、あっという間に私はカルロさんに抱き上げられ
「紗良は、私の婚約者です!!!!!」
と、大声で叫ばれる。
扉の所であちゃーと、頭を抱えているレティと、事態がまったく飲み込めず呆然とするクライムさん、レティと一緒に部屋に来たシェール卿に扮した王子が肩をすくめて
「カルロ卿、愛の宣言をするのは結構だけれど、ここは神聖な神殿だ。時と場所は選んだ方がいいよ?」
とにっこり笑った。











