第86話 その後7
「お父様っ!!紗良っ!!来てくれたのですね!!」
時と空間の精霊王様を祀る神殿で、レティが嬉しそうに私たちによってきてくれた。
「元気にしていたかい?レティ」
「久しぶり!ごめんね。私のせいで」
私とカルロさんが口々に言えばレティは微笑んで、
「はい!元気でした!毎日が充実してて楽しいですよ」
と、可愛い笑みを浮かべる。
ここ最近は聖女になる前の神聖なる儀式とやらでレティに会えなかった。
それにしても10歳のレティマジ可愛い。
ってことは、レティの身体に居る時は私も可愛かったのか。
もうちょっと愛嬌を振りまくべきだったかもしれない。
「やっとついたもきゅか!?出ていいもきゅ!?」
神殿の廊下でレティが付き人を大丈夫と追い払った後、ハムちゃん神様がバッグから顔をだした。本人は最初から顔をだしたがっていたのだけれど、私が却下させいていただいた。
ハムちゃんはポケットからだすと萌えポーズを披露しまくるので、収拾がつかなくなる。
「クレディアス様お久しぶりです」
と、ハムちゃんに仰々しくお辞儀をするレティ。
「クレディアス様?」
私が不思議に思って聞けば
「我の名前もきゅ!」
と、ふんむーとハムちゃんが手をあげた。
ああ、そうかレティは精霊王様達と一緒にいる事が多いから名前を聞いたのか。
「ちゃんと名前があったんですね」
「あるもきゅ!?我を何だとおもっていたもきゅ!?」
「ハムちゃん」
私が言えば、神様は考え込んで。
「その名前も萌えポイントが高いもきゅ!捨てがたいもきゅ!??」
とバッグの中にもう一度もぐりこんで真剣に悩みだす。
ハムちゃんの中で萌えの比重が高すぎる気がするのだけれど、一体萌えキャラのどこに彼は惚れこんだのだろう。
真剣に悩むハムちゃんの事を考えていたら、そっとレティに手をつながれた。
「……レティ?」
気が付いてレティを見れば、いつの間にか真ん中に立って私とカルロさんの手をつないで嬉しそうにニコニコしている。
「レティ?」
カルロさんが不思議そうにレティの名前を呼べば
「一度こうしてみたかったんです。部屋まで案内しますね」
と、ニコニコ顔を赤らめて言う。
表情も私の知っている18歳のレティより少し幼く感じられて、もしかしたらレティも体に精神の年齢がひっぱられてるのかもしれない。
「……レティ」
名を呼ぶカルロさんの顔が一瞬寂しそうな顔になるのがわかった。
レティは母親の記憶がない。
彼女が生まれた時にはもう死んでいたからだ。
本来愛情をもらって育つはずだった幼少期も、カルロさんが操られ、セクターさんもミレイユも、ラディウス様も殺されてしまい誰一人頼れなかった。
すがる者もなく、第二王子と婚約させられて冷遇されーーマリエッテに操られた。
すがった先にも彼女に安息の地などなかったのである。
やっと手に入れた自分の居場所と、戻った家族。
カルロさんに幸せそうに微笑むレティに胸がしめつけられた。
……私はこの子を幸せにしてあげられるのかな?
ニコニコと顔を赤らめて幸せそうに私たちを連れて歩くレティを見て、私は思う。
ループから脱した今。もうレティに不幸な未来は強制されない。
彼女にはこれから未来を切り開く選択肢があるのだ。
彼女の身体にいて、彼女の苦労を知っているからこそ思う。
どうかこの子を幸せにできますように。
私が祈りながら隣を見ればカルロさんと、目が合って、カルロさんに微笑まれる。
なんだかこれって本当に親子みたいだ。
――きっと、私は今幸せなんだろうな。
幸せな気分にひたりながらレティとカルロさんの三人で手をつないだ状態で、私たちは神殿の廊下を歩くのだった。
バッグの中でぶつぶつと悩んでいる神様の存在をすっかり忘れながら。
■□■
「酷いもきゅ!我の存在を忘れてたもきゅ!」
私にお腹を撫でられながら、ハムちゃんが抗議の声をあげた。
あの後、レティの就任式の練習で一応カルロさんの婚約者である私も冒頭だけ一緒にレティと舞台に立つことになった。
レナルド王子の計らいで、本当に冒頭だけなのだけれど、私はハムちゃんのバッグをレティの部屋に置いて、神殿のバルコニーに練習しに行ってしまったのだ。
「ごめんなさい。真剣に悩んでいたから邪魔したら悪いと思って!」
私が言えば、ハムちゃんはそれなら仕方ないもきゅっと頷いた。
うん、懐が広いのか、それともちょろいだけなのか、口調のせいで今一つ判別できない。
「ところで聖女の就任式とやらをやるもきゅ?
我も参加してやってもいいもきゅよ」
ハムちゃんがもふーと言う。
「い、いやいやいや。神様が参加したら主役が神様になっちゃうじゃないですか!?
それにハムちゃんが神様とばれたら皆に敬われる事はあっても萌えキャラとして通用しなくなっちゃいますよ!?」
「それは困るもきゅ!!公園に行ってもお腹を撫でてもらえないのは困るもきゅ!!
我の野望は萌え文化を普及させることもきゅ!」
「そうですよ!それが出来なくなっちゃいますよ!?
神様は近所の公園に行っててください。
その間に終わりますから」
「わかったもきゅ!!……あ、もうちょっと右が気持ちいいもきゅ!!」
だらしなくお腹をだして幸せオーラを発している神様を見て私は思う、
この神様はいつまでこの格好でいるつもりなんだろう?
……と。
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