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第85話 その後6

「カルロさんは王子に警戒しすぎですよ。

 あの人は人を利用することしか考えてませんから」


 王子をカルロが全力で追い払った後、ダンスの練習前に紗良が微笑んで言う。

 結局あの後、王子は野暮用で来ただけだよ?と紗良と少し会話を交わしたあと帰っていった。

 カルロも仕事を切り上げて紗良のダンスの練習に付き合うことになったのだ。


「うん?そうかもしれないけれど、私も君とほかの男性がダンスを踊るのは嫉妬してしまう。……迷惑だったかな?」


 情けない顔で言うと、紗良が顔を真っ赤にしてうつむいた。

 そのしぐさが可愛くて思わず抱き着きたくなるが、それをやれば最後、再び逃げられてしまう気がしてカルロはぐっと抑える。

 紗良はあまり好きと前面にだしてしまうと、逃げてしまう傾向があるのだ。


 いまだに冗談と思われているレナルド王子を哀れにも思うが、彼が本当に紗良に気があると知られれば、紗良が意識してしまうような気がして言えないでいる。

 彼もまたその関係を楽しんでいるふしもある。自分が口をだすことではないだろう。


 それにーーいまは自分の事で手一杯なのだ。他人の事を気遣える余裕もない。


 好きだと意識してしまってからは、以前のように余裕のある態度がとれなくなっているのは自分でも自覚している。

 

 ――紗良の側に居たい。


 思いを打ち明ける事すらできなかった前世で。

 自分は彼女に依存しきっていた。

 もうそのような関係にならないように。

 彼女の前を歩き守れるように。


 そう誓ってはいるはずなのだけれど――本人を前にするとどうしても気持ちが焦ってしまう。


 紗良の手を取り、いま共にいられることを幸せに思う。


「旦那様、そろそろ仕事です」


 と、ミレイユに突っ込まれ現実に戻るまでは。

 カルロはミレイユに首根っこをつかまれてそのままずるずると執務室に戻されるのだった。



 ■□■



「殿下。そろそろまじめに仕事をしていただきたいのですが」


 王子の執務室でレナルド王子姿のシェールが、シェール姿のレナルド王子が部屋にはいるなり突っ込んだ。

 その姿にレナルド王子は微笑んで


「君の方が僕より王子としての資質があるんじゃないのかい?」


「ふざけないでください。書類は私では処理できません。魔力の質が違うのですから、チェックは済ませておきましたからサインをお願いします」


 と、書類をレナルド王子に渡す。

 王子は「手厳しいな」と微笑んで、デスクにつくと元の姿へと戻った。


「また彼女の所へ行っていらしゃったのですか?」


「うん。顔をみたくてね。センテンシア領に戻ってしまえば会えなくなるのだから、これくらいは許してほしいのだけれど」


「殿下はセンテンシア領に戻っても車の試乗などと理由をつけて会いに行きそうな気もします」


 シェールが横目でにらめばレナルド王子が「手厳しいな」と笑って答えた。


「それにしても欲しいものは手に入れてきた殿下が、素直に諦めるとは珍しいですね」


 元の姿に戻りながらシェールがレナルド王子に言う。

 彼らは幼馴染なため、二人の時はわりと打ち解けた仲だ。


「うん?そうかい?

 僕は好きになった相手には誠心誠意尽くしているつもりだよ。

 残念ながら彼女の世界では一夫多妻制ではないらしくてね。

 僕ではどうあがいても彼女を幸せにはしてあげられないらしい」


 言いながら、レナルドは書類に目を通す。

 もし紗良が、元からこちらの世界の住人で貴族だったのならこれほどあっさりと身をひかなかっただろう。

 けれど彼女の価値観は自分達とは違う。

 貴族の女性なら望むはずの富も権力も、彼女にとっては足かせで、彼女にいわせれば一夫多妻制の男性に嫁ぐくらいなら一人身の方が楽だとすら言っていたこともある。


 彼女を幸せにしてあげたいと願うなら、王になろうとしている自分では無理だろう。

 彼女は何よりも自分が力を持ちそれを行使することを恐れている。


 それが彼女の世界の価値観なのか。

 彼女の性格によるものなのかはわからない。

 それでも、彼女の幸せを願うなら、王位を捨てるだけの覚悟が必要でーー自分は王位を諦めるつもりはない。


 ゲオルグがマリエッテに操られていたことにより、彼自身には罪はないのに投獄され、王位継承権もはく奪された。

 残されたのは第三王子のリュートだが、彼の母親は身分が低く王位を継ぐなどとなれば、他の貴族が王家の血筋をもつ他の者を王位につけようと暗躍するだろう。


 この国を思うならば、自分が王になるのが一番なのだ。

 何より一番の問題は彼女の眼中に自分がいないことなのだが。


 今くらいの関係でいられるだけでもありがたいと思わないといけないだろう。


「……まぁその話はおいておきましょう。

 報告によれば帝国の者が何人か動いているようです」


「うん、まぁ予想通りだね。

 うちが聖女を抱え込んだのは帝国からしたら面白くはないだろうし」


「何かしかけてくるでしょうか?」


「どうかな。精霊王様達を怒らせる恐ろしさを帝国はよく知っている。

 だからこそ、精霊王様の不興を買わぬよう上手く立ち回って大陸をほぼ制圧したわけだしね。

 聖女が我が国の手の内にあるうちは、手出しをしてくるとは思えないけれど、何かしら試してはくるだろう」


 精霊王様を怒らせる可能性のあることを帝国が仕掛けてくるわけがない。

 不興をかえば、帝国といえども精霊王達の裁きを受け滅びるからだ。

 聖女レティシャに下手な手出しをすれば国ごと滅びる。

 手をだすとしたらその父親であるカルロだ。それでも出来る事は些細な事だろう。

 さして問題になるとも思えないが……。


「まぁ、あの二人は多少困難があったほうが燃えるタイプだからしばらく静観しようかな」


 言って王子は窓の外を眺める。

 面白くなりそうだと思いながら。

 


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