エピローグ
拝啓。
お父様、センテンシア領の皆さんお元気でしょうか?
私は今、レナルド殿下が用意してくださった神殿で職務をこなしています。
まだ完璧に仕事をこなしているとは言い難いですけれど。
でも皆私を必要としてくれていて、とてもやりがいを感じています。
前世での虚しさがまるで嘘のように充実した日々です。
聖女の力を紗良ではなく私に引き継いだままなのは心苦しいですけれど、精霊王様にはもう、神の恩寵を受けた紗良は我ら相手でも敵うかわからん。
紗良には我らの寵愛は不要だと言われました。
本当に紗良には驚かされるばかりです。
聖女になっただけでも驚きなのに。
まさか神様から恩寵を賜るとは思ってもいませんでした。
紗良の口添えで魂が消滅したはずの久美も、生き返らせてもらえました。
今彼女はクライムさんたちと発明に大忙しです。
時々ケーキや発明品をもって遊びに来てくれます。
爵位を戻されたモニカも遊びに来てくれて、毎日とても楽しいです。
これも紗良のおかげですね。
マリエッテの処刑も終わり、私の方は一段落つきました。
お父様の方は体調を崩されたりしていませんか?ご自愛くださいね。
今度の帰省を楽しみにしています。
お父様と紗良の結婚式。
皆どんな結婚式になるのかとその話題でもちきりです。
精霊王様が「神様が二人の結婚式を盛大な物にすると張り切りすぎて怖い」と、頭を抱えていました。
頑張ってくださいねお父様。
紗良の事を義母と呼べる日を楽しみにしています。
■□■
『ご自愛くださいっと……』
手紙を書き終え、神殿に用意された自室で、レティはふぅっとため息をついた。
羽ペンをおけば、
『ふむ。書けたか。
では届けておこう』
その様子を見ていた虎の姿の精霊王ルヴァイスが後ろから声をかけてくれる。
「いつもありがとうございます。精霊王様」
『構わぬ。
どうせついでだ。
我が守護地は神がいてな。
どうにも居心地が悪い』
「精霊王様でも苦手なものがあるのですね」
レティがクスリと笑えば
『当たり前だ。
毎日可愛い萌えポーズの研究とやらに付き合わせられる身にもなれ』
うんざりした口調で言う。
「……あれは、確かに破壊力がありますね」
巨大なネズミのような物体が萌えポーズと称してゴロゴロと襲いかかってくるのだからその恐怖ははかりしれない。
紗良にまずその大きさをなんとかしろと突っ込まれていたくらいである。
『本来神が一度形成した世界にここまで長い間滞在することはないのだがな。
紗良を気に入ったらしい』
ペロペロと毛づくろいするルヴァイスにレティは微笑んで
「神様に気に入られるとかありえない事をしてしまうのが紗良らしいですね」
と、レティが微笑めば。
『……ああ、そうだな。
あれは不思議な娘だ』
精霊王も微笑んだ。
レティは思い出す。父のカルロが紗良の事を話す時の嬉しそうな笑顔を。
その笑顔はレティの母の話をするときと同じで。
口にこそ出さなかったが、前世でカルロが紗良に惹かれているのはレティでもすぐわかった。
母が死んでからどこか思いつめた表情で、必死に自分の相手をしていた父が、唯一優しい顔になるのが母の話をしているときだった。
娘に愛情がなかったわけではないと思う。
父から愛情は痛いほど感じられたから。
けれど心のどこかで、愛する人の残した娘を守らなければと、思いつめて無理をしていた部分があったのだと今ならわかる。
だから、レティを守るためと、あのような愛のない結婚を承諾してしまい、操られ壊れてしまった。
その父が、こうしてまた幸せな伴侶を得たのを嬉しく思う。
その相手があの紗良なのだから。
私はきっと幸せなのだろう。
紗良に振り回されている父の姿が浮かびレティは思わず笑みが溢れる。
どうか二人ともお幸せに。
センテンシア領で大騒ぎしているであろう沙良と父の姿を思い浮かべレティは微笑むのだった。











