第78話 その後(2)最終話
「お前から会いに行くのをやめろ。
向こうから来るまでドンと構えてればいい。
会いたくない時会いに行くのを女は一番嫌がる」
カルロが自室で紗良の事をセクターとラディウスに相談してみれば、第一声がそれだった。
「会いに行かないって……嫌われたりはしないだろうか?」
カルロが世界が滅びそうなくらいの絶望的表情をするので、セクターは大きくため息をついた。
この親友は女性関連の悩みとなると途端に冷静さを失うのが困る。
特にレティ(紗良)のこととなると、ダメ男化するのは前からなのだが。
「いいか。それくらいで嫌われるなら遅かれはやかれ、その恋はダメだ。
てか、お前。レティだった時の性格を考えればわかるだろ?
お前らしくない」
セクターがぽりぽり頭をかきながらいえば、カルロはぐっと言葉を呑み込んでそのまま項垂れる。
「私は、前世の紗良ばかりみていて、レティだった頃の紗良を忘れていた。
彼女と付き合う資格があるのだろうか」
今にも泣きそうな声でいうカルロに
「だー!?アホかっ!?
まだちょっと距離を置かれた程度で絶望的状況でもないのに、何勝手に絶望的になってるんだよ!?
これだからお貴族様は……。
平民夫婦なんて喧嘩なんてしょっちゅうだぞ?
女が機嫌を損ねるなんて日常茶飯事なんだよ。
文句をいってきたら、はいはいと肯定しておいて、あとはご機嫌をとっとけばいい。
いちいち真に受けるな!!!」
と、セクターが言えば
「流石タラシですね。そうやって何人口説いて弄んできたんですか?」
と、隣にいたラディウスが横目で突っ込んでくる。
「ちょ!?お前いま俺の事は関係ないだろ!?
……とにかくだ。カルロは真面目すぎるんだ。
それにレ……じゃない紗良だっていきなりお前が恋人になってもついていけないだろ。
親子の関係から徐々に恋人になるのじゃだめなのか?」
セクターに言われ、カルロは口篭る。
彼女に好かれたくて焦っていた自覚はある。
だからこそどうしたらいいかわからなくなり相談したのだが
「うん。そうだった。
じゃあ、彼女に謝ってく……」
と、席を立ちかけたカルロの首根っこをラディウスとセクターがぎゅっと掴む。
「お前距離をおけっていう人の話聞いてたか?」
「まったく貴方はあの子の事になるとこれだから」
と、二人に同時に突っ込まれるのだった。
■□■
「最近カルロさんが会いにこない」
あれから数日後。紗良がポツリと呟けば
「お嬢様が避けていたからでしょう?」
と、すました顔でミレイユに突っ込まれる。
「そ、そうだけれど。
……大人げなくて嫌われたかな」
机につっぷした状態で紗良が言う。
今度カルロと会うことができたらちゃんと謝ろうと決意していたのに、毎日のように部屋に挨拶にきていたカルロは自分から顔を出すこともなく、レティも儀式の準備で忙しいため、紗良は一人暇をもてあましていた。
時々各地の精霊王様がきては、萌えポーズを披露していくあれ(神様)をなんとかしてくれないかと相談がくるものの、それ以外は概ね平和だ。
「お嬢様は普段はあれだけ強気なくせに、恋愛ごととなると途端に弱気になるのですね」
ミレイユが言うので紗良はため息をついて
「自分でも耐性なさすぎてびっくりした。
まともにカルロさんの顔が見れない。どうしよう」
と、しょげてしまう。
「だったらそれを旦那様に言えばいいだけの話でしょう?
逃げてたら何も伝わりませんよ」
「……そうなんだけど。
伝えようとした途端、カルロさん来なくなっちゃうし」
紗良が一人ウジウジすれば
「お嬢様らしくありませんね。
いつもの強気で部屋に押しかけて行くぐらいはするのかと思いました」
と、おかしそうに笑うミレイユ。
「どうせお転婆なくせに女子力だけ低いです」
紗良がふてくされるのが可笑しくて
「いじけないでください。
大方セクターあたりに、避けられてるなら距離をおけ、女なんてそんなもんだ、と言われて来るのを我慢しているのでしょう。
会いにいけば喜びますよ。きっと」
「……そ、そうかな?」
「ええ、尻尾をちぎれんばかりに振って喜ぶから行ってあげましょう。
ウジウジしていたところで、何も進展しないと思われますが」
「うん!そうだよね!
わかった行ってみる!!!」
ミレイユの言葉に紗良は嬉しそうに頷いて勢いよく立ち上がるのだった。
■□■
「……カルロさんいる?」
控えめにノックをしてカルロ達のいるはずの部屋に行けば、そこで出迎えてくれたのはラディウスだった。
「ああ、やっと来てくれましたか。
領主様なら、貴方に4日も会ってないと奥の部屋の隅でいじけてますよ」
と、しーっと小声で話す。
「そ、そうなの?」
「ええ、セクター様に会いに行くのをしばらく控えろと怒られまして。
せっかくですからいきなり行って驚かせてあげたらどうですか?」
悪戯っ子風にラディウスがいうのがおかしくて、紗良は頷いた。
ここ最近イケメンなカルロしか見ていなかったので、慌てるカルロを見てみたいという悪戯心もある。
ラディウスとミレイユの後に続いてこっそり部屋まで行ってみれば、部屋の隅で本当にいじけていた。
レティを先にセクターに抱っこされていじけていた時とまるで一緒だ。
紗良はなんとなく、子供の時みたいで嬉しくなって
「カルロさん」
後ろからわざと大声で驚かせれば、カルロは一瞬ぎょっとした顔になり、そのまま満面の笑みを浮かべた。
尻尾があったらちぎれんばかりに振っててもおかしくない笑顔で。
「紗良っ!!よかった嫌われたのかと思った!!!」
そう言ってカルロは嬉しそうに紗良を持ち上げるとそのままきゃっきゃと回りだす。
レティにしていたように。
「カ、カルロさん!??」
紗良が慌てて名を呼べば、カルロは動きをハタッと止めて、そのまま固まった。
「あ、いや。ごめん、つい……」
物凄く悪いことをしてしまったように絶望的な顔をするカルロの表情がおかしくて、紗良は笑いを堪えた。
最近のカルロは大人の男性を意識しすぎていてイケメンすぎたから。
こういう素の表情がみられて嬉しくも思う。
「なんで謝るんですか?凄くカルロさんらしいのに」
紗良がクスクス笑えば、カルロは一瞬驚いた顔をして、そのままため息をついた。
最近の自分は前世の彼女ばかり追いかけていて、大人であろうとしてしまっていた。
そういった事も紗良を戸惑わせてしまった原因なのだろう。
「うん。そうだね。
君に好かれようと少し気負いすぎてたみたいだ。
戸惑わせてしまったね。ごめん」
そのまま抱きしめられて紗良も、顔を真っ赤にした。
「わ、私こそいい歳して女子力が低くてごめんなさい。
こう、もうちょっと大人の対応ができればいいのだけれど」
「君は今のままで十分素敵だよ」
カルロが言うので紗良もクスリと笑って
「カルロさんもですよ。
急にイケメンにならなくても。
普段のカルロさんも素敵です」
言って微笑む。
そう、いきなり二人の距離を縮めようとなんてしなくていい。
これから時間は沢山あるのだ。
失ったショックが大きすぎて、もう失いたくない一心で、余裕がなかった自分を紗良もカルロも反省する。
「好きだよ紗良」
「私もです」
そう言って二人はしばし見つめ合い、唇を重ねるのだった。
~終~
誤字脱字報告&ポイント&ブクマ本当にありがとうございました!!
大感謝です!!!
ありえないポイントにびっくりです((((;゜Д゜))))
最後までお付き合いいただきありがとうございます!!
それでは本当にありがとうございましたーー!











