第75話 おかえり
神様に頼んでカルロさんのところへ!とゲームの世界に戻ってみれば、ダンジョンについたのだが――何故かそこには黄金龍がいた。
そして数人の騎士が必死で黄金ドラゴンから逃げ惑っていたのだ。
「な、なんでいきなりこんな状況なのっ!?
早く助けなきゃ!!」
見渡す限りカルロさんと第一王子の姿がない。
二人とも加護があるから死なないはずだけれどひょっとして飲み込まれちゃったのだろうか!?
それともワープのアイテムで既に離脱済みなのだろうか!?
「どうやらあの馬鹿がこの地の精霊王を荒神化させたせいで生成されたダンジョンがおかしくなってるもきゅ!!!
黄金ドラゴンは100層の最奥にいるはずもきゅ!!
こんなところに出てくるのはおかしいもきゅ!!!!」
私を背負ったまま神様が言う。
「えええええ!??
ちょっ!!100層の魔物とか災害級じゃないですか!!」
「こうなったのも全部あの糞アホ役たたずクズ邪神のせいもきゅ!
仕方ないから倒すもきゅ!!!」
と、神様。
萌えキャラになりたいわりには口が悪いのは気のせいだろうか。
黄金龍がこちらに視線を向けたその瞬間。
「ウルトラ、ラブリープリティーキューティクルラブラブキーーック!!!!」
と、神様が黄金龍に蹴りを入れる。
……この神様は私の記憶の一体何を覗いたのだろう。
萌えキャラの定義を思いっきり間違えている。
というかこちらの世界に戻ってきてもその間違った萌えキャラは続行するのだろうか。
せめて語尾のもきゅは何とかしてくれないかな。
と思った瞬間。
神様の蹴りのせいだろうか、何故か空間がペキペキ割れる音がして――私がそちらに視線を向ければ、そこにいたのは王子とカルロさんだった。
王子の作った異空間に避難していたのか、白黒の異空間らしき場所に二人がいたのだ。
「カルロさんっ!!!」
私が思わず叫べば、
「紗良っ!!!」
カルロさんがいつものように両手を広げてくれた。
それがとても嬉しくて。
ああ、帰ってこれたのだと実感する。
私は思わずそのままカルロさんの元にジャンプするのだった。
■□■
「紗良っ!!!」
飛び込めば、カルロさんが私を受け止めてくれた。
よく考えれば身体が大きくなったのだからカルロさん負担がやばいかもしれないとか。
この高さから飛び降りるとか無謀じゃないかとか問題があったかもしれないけれど、正直念頭になかった。
久しぶりのカルロさんの匂い。
ずっとずっと欲しかったぬくもり。
嬉しくて嬉しくて、力強く抱きしめればカルロさんも私を抱く手に力をこめた。
「会いたかった……おかえり」
そう言う声はカルロさんらしくなく震えていて。
もしかして泣いてくれてるのかな?
すぐ横にあるはずの顔は私の肩にうずめられていてみえない。
「うん。ただいま」
戻ってこれた嬉しさに、私は泣きそうになる。
ずっとずっと会いたくて。
伝えなかった事で後悔した想い。
今度会えたら絶対伝えようと決めた気持ち。
「カルロさんあのっ」
「君に伝えたい事がっ!!!」
私とカルロさんの声がはもった途端。
ドゴォォォォォォォォン!!!!!!
ドラゴンが倒れて盛大に暴風がこちらを襲う。
カルロさんが氷魔法の盾でその風を遮った。
やっぱりこういうところがイケメンだなぁなんて惚れ惚れしていれば
「感動の再会の所水をさすようで悪いけれど、状況だけでも説明してもらえるかい?」
と、呆れた表情で王子に突っ込まれるのだった。
■□■
「今回は責任はこちらにあるもきゅ!
死んだ兵士は生き返らせてやるもきゅ!!!
自分は他にもダンジョンに異変がないか調べてくるもきゅぅぅぅぅぅ!!」
と、兵士を生き返らせて「ドラゴンは君の好きにしろもきゅ☆」と投げキッスを残し、神様は去っていった。
ハムスターのまま。ハムちゃん走りで。
気に入ったのかな。あれ。
に、してもなんだろう。
カルロさんが側にいてくれるのはとても嬉しいのだけれど。
何故お姫様抱っこのまま、王子から一定距離をおいたままの状態が維持されてるのだろうか。
物凄く照れるのだけれど!??
「あ、あのカルロさん?」
「うん?何だい?」
ニコニコ超イケメン顔で聞いてくる。イケメンすぎていろいろつらい。
身体が戻ったせいか顔を直視できないのですけど。
「えーっと。そろそろ歩けるから大丈夫です!」
私が言えば
「彼は僕の方を警戒してるんだよ」
と、王子がわけのわからないツッコミを入れてくる。
カルロさんがじろりと睨めば王子はにっこり笑顔でかえした。
く、何だろう。私の知らない間に何かこの二人に絆でもできたのだろうか。
■□■
「……にしても、君には本当に驚かされる。
黄金龍なんて持ち帰れる事になるとはね……」
神様の自称可愛い炸裂キックで倒された黄金龍をマジマジ見つめて王子が言う。
「売れたらセンテンシア領にも分け前を宜しくお願いしますね!
もちろん取り分はこちらが多めで!!6:4位でおねがいします!」
と、私がぐっと拳をにぎって王子につっこめば、何故かカルロさんと王子に無言で見つめられ、二人一斉に吹き出した。
「え!?な、何かおかしかった!?」
私が慌てれば
「いや、帰ってきたんだなと思って。
君らしいよ」
「がめつい庶民ですみません」
10歳の女の子でもないのにがめついとは嫌われてしまっただろうかとちょっといじければ
そのまま力強く抱きしめられてドキリとする。
「カ、カルロさん?」
「……ごめん、また会えたのが夢のようで」
と言われて私も手を背中に回した。
「私もです」
離れていた時間はたった数箇月だったけど、とても長く感じて。
やっぱり好きだったのだと実感させられた。
この想いはレティのものじゃない。
ちゃんと私の気持ちだから。
子供としか見てもらえないかもしれないけれど。
それでも想いはちゃんと伝えたい。
例えふられても後悔はしない。
ずっと伝えなかった事を後悔するより、私は想いを伝える方を選びたい。
伝えなきゃ。今度はちゃんと後悔しないように。
私を意を決して口を開いた。
「君の事がー」
「貴方の事をー」
「好きだ」「愛してます」
私の声とカルロさんの声がハモる。
お互い気持ちが急いてしまってお互いの言葉を待つ余裕がなかったらしい。
同時に口にしてしまった事にしばし沈黙し――
「君達、それ僕の前でやることかい?」
と、カルロさんの言葉を理解して嬉しさに悶えるその前に王子にジト目で突っ込まれるのだった。
うん。王子の存在忘れてた。











