第74話 王子とカルロ(2)
「まさか君と二人きりになるとはね」
白黒化した世界で王子が岩に寄りかかりながら呟いた。
王子の魔法で異空間へと避難した二人は、岩場で隠れている。
「この空間はどれくらいもつのでしょうか?」
カルロが聞けば王子はふむという顔をして
「私の魔力次第だからね。
恐らくもって2.3日だろう。
その間にこの階層から黄金ドラゴンが居なくならなかったら、私たちは終わりだ」
そう言って王子がフフッという顔をした。
「……殿下?」
「いや、運命は変わったと思っていたけれど、結局私は運命を変えられないらしい。
ここで朽ちる運命なのだと思うとおかしくてね」
「諦めるのはまだ早いと思います。
この階層から脱出できれば、恐らく帰還の宝珠が使えます。
そこまで逃げましょう。
この空間を移動すれば……」
「ああ、それは無理だ。
黄金龍相手なのだから、私ごときの魔法では黄金龍に察知される。
動けば恐らく向こうは空間すら切り裂いてこちらにくるだろう。
動かないほうがいいよ?」
言ってそのまま、ごろんと寝そべった。
「殿下は随分悟っておいでですね」
まるで死を覚悟したような王子の態度にカルロが問えば
「……なんとなくね。うまく行き過ぎてるとは思った。
まぁ少しでも夢を見られただけでもマシなのかもしれない。
こんな事になるなら彼女に想いを伝えるべきだった」
「想い?」
「うん。レティにね。
ああ、もちろん今のレティではないよ。
帰った方の彼女にだ。
君も同じ想いだからこそイラついていたんじゃないのかい?」
王子に言われカルロは口篭った。
薄々王子がレティに気のあるような気配は感じていたがこのように面と向かって言われるとは思わなかったからだ。
「一応遠慮したつもりだったのだけれどね。
君は結局彼女の気持ちに応えなかったらしいじゃないか。
こんなことなら無理にでも君から奪えばよかった」
「殿下」
カルロが睨めば王子はにっこり笑って
「まぁ、100%相手にされなかっただろうけどね。
彼女は君が好きだったから。
君はどうだったんだい?」
「このような時に話すような話ではないと思いますが」
「そうかい?僕は今だから話したいのだけれど」
笑って話す王子にカルロはため息をついて
「本人が既にこの世界にいない現在、ここでそのような話は無意味かと思われます」
そう。意味がないのだ。
居なくなってから気持ちに気づいても。
どんなに後悔しようとも、もう彼女はこの世界にはいない。
「僕にとっては大事な話だ」
いつになく真剣な表情で言う王子にカルロはため息をついた。
他人の恋路を詮索している暇などないと思うのだが。
「……ええ、愛していました。
これで満足ですか」
カルロが答えれば王子はにっこり微笑んで
「うーん。どうかな。ちょっと残念かな。
ここで嘘をつけば道連れにしてやるつもりだったのに」
「……どういう事でしょうか?」
「自分は無理だけれどね。他人なら任意の場所にワープさせることもできるんだ。
距離に限度はあるけれど。
出口の位置は把握しているから、悪いけれど外に逃げて精霊王様に知らせてくれるかな?
まぁ、僕のために精霊王様が黄金龍相手に動いてくれるとは思わないけれど、やらないよりはマシだろう?」
「まさか、一人で残るつもりですか!?」
「一人じゃないよ。加護をもらったのは他にもいる。
まぁ一年間胃袋の中で死ねないというのはなかなか残酷なことではあるけれど腹が減らないだけましかな?
痛みもないしね。話し相手もいるから多少は気もはれるだろうし」
そう言って微笑んだ途端カルロの足元が輝きだす。
「なっ!!私などどうでもいいでしょう!!貴方が生き残らねば意味がありません!!」
カルロが手を伸ばそうとするが
「勘違いしないでくれ。
君のためじゃない。言わなくてもわかるだろう?」
「殿下!!」
「もし彼女がこの世界に帰ってこられたなら宜しく伝えてくれ」
カルロが手を伸ばしたその瞬間。
かしゃぁぁぁぁぁん!!!
景色が割れ――そこに現れたのは黄金龍と……そしてなぜか超巨大なネズミのような物体だった。
巨大なリボンをしたネズミが黄金龍の顔面に蹴りをくらわせているという意味不明な状況に二人が固まり
「カルロさんっ!!!!」
女性の声で我にかえる。
巨大なネズミのような物体の背中から、黒髪の女性が叫んでいたのだ。
そこに居たのは――そう、もう二度と会えると思っていなかった人物。
「紗良っ!!!!!」
カルロが思わず叫んで手をあげれば、
「よかった!!無事で!!!」
紗良はそのままカルロに飛び込むのだった。











