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第73話 王子とカルロ(1)

「随分機嫌が悪いみたいだね」


 第一王子レナルドに話しかけられたのはダンジョン探索中の事だった。

 現在新ダンジョンへの討伐隊は18層に突入している。

 荒神の騒ぎでダンジョン探索は多少遅くはなったが実行はされた。

 レティとの約束だからなと、精霊王様達に王子たちも加護を貰った状態なので、ダンジョン攻略はかなりはやいペースで進んではいる。

 だが18層ともなると敵の強さも楽勝といえるレベルではなくなり、前線で戦える人員は限られている。

 カルロが先鋒となり、モンスターをなぎ倒して一行は進んでいたのだ。


「……いえ、別にそんな事は」


「うん。ならいいんだけど。

 今の君はなんだかモンスターに八つ当たりしているようにも見えてね」


 と、肩をすくめる王子にカルロは軽く一礼した。

 

 何故自分がこんなにいらついているのか。

 自分でも理由はよくわかっていた。


 過去を見て、自分の気持ちが恋だったと自覚させられてから。

 どうしようもない気持ちに苛立ちだけが募り、いまだにその区切りがついていない。

 加護の御陰で体力もMPも減る事がないため、苛立ちをぶつけるが如くモンスターを全力でなぎ払っていた。


 もし彼女に気持ちを伝えていれば違う未来があったのだろうか。

 それでも。

 たとえ伝えていたとしても、彼女は転魂を選んだであろう。

 世界の崩壊を。

 仮初の世界にいるレティを。

 彼女が放っておけるわけがない。


 元の世界に帰るしか手段はなかった。

 だからこの選択が一番正しかったはずだ。

 頭ではわかっているのに、気持ちがついていかない。


 もっと別の方法があったのではないか。

 紗良もレティも救う方法が別にあったのではないか。

 自分はそれを考える事すら放棄していた。

 自分は逃げたのだ。

 彼女の気持ちに気づかないふりをして。

 いまの関係が壊れるのが怖くて、彼女を止める事ができなかった。

 それがどれだけ彼女を傷つけていたのだろう。


 

 本来の姿を見たとき、何故かとても懐かしく感じた。

 ずっと会いたかった人に会えたような不思議な感覚。

 あの時の気持ちを信じて行動していれば、せめて彼女に気持ちを伝える事はできたのかもしれないのに。


 けれどその気持ちすら気付かなかったふりをして彼女を止める事をしなかった。


 忘却は神々からのプレゼントだと聞いたことがある。


 彼女へのこの思いも、いつか綺麗な思い出になるのだろうか。

 彼女の世界はとても平和な世界だと聞いている。

 彼女はきっと日本で幸せに過ごすのだろう。

 

 忘れようと思えば思うほど、彼女に会いたいという気持ちが募る。

 

 くそっ!!!


 カルロは苛立ちながら再びモンスターを氷漬けにするのだった。


 ■□■


「そろそろセーフティーゾーンがあってもいいころですが」


 18層に突入して、大分進んだころ、魔道具のコンパスをもった魔導士が呟いた。

 地図もほぼ完成し、19層へと続く階段も見つけたのに何故かセーフティーゾーンだけが見つからないのだ。


「……ふむ。これ以上は兵の疲労的に厳しいかな。

 体力があるうちに一度17層まで引き返したほうがいいかもしれない」


 と、王子も地図を見ながらつぶやいた。

 地図を見ればほぼ図面は埋まっているにも関わらずセーフティーゾーンだけ見つからないとなると、もしかしたら隠し通路を探さなければいけないのかもしれない。

 体力は残したほうがいいだろう。

 そんな相談をしていた時だった。


 グガガガガガガ。


 物凄い揺れがダンジョンを襲う。


「な、なんだ!??」


「トラップが発動したか!?」


「いえ、鑑定しましたがこの辺にはトラップはありません!!!!」


 口々に討伐隊の兵士たちが叫び物凄い爆音が響き、奥の通路の空間がぐにゃりとゆがむかのように歪な形になる。


「な、なんだ!?」


 兵士たちがどよめきそちらに視線を移せば――


 それは現れた。


 黄金の巨体をきらめかせ。

 翼をもつ最強の魔物。


「黄金ドラゴン」


 兵士の一人が信じられないという表情で呟いた。

 本来なら18層如きでは出てくることのない、伝説の魔物。

 それがドラゴンだ。


 人類史上最も下層にいけた冒険家達でさえ、ドラゴン種では最下位と言われているグリーンドラゴン相手にダンジョンを引き返したのである。


 そう、人類では到底太刀打できないドラゴン種。

 それの最上位と言われる黄金のドラゴンが、何故かダンジョン内に現れたのだ。


 誰もが死を覚悟する。


 いや、死ねるならまだいい。

 加護があるがゆえ死ねない者達は加護が効いている間はドラゴンの胃袋の中で永遠に苦しむ事になるかもしれない。


 帰還の宝珠も全てのアイテムを無効化すると言われている黄金ドラゴンの前に作動するのかもわからないからだ。

 伝説では黄金龍は戦闘能力だけなら精霊王を凌ぐと言われている。


「殿下っっ!!!」


 カルロが咄嗟に固まってしまっている王子の腕を掴むと足場に氷の柱をつくり跳躍した。

 そのまま氷の橋を完成させ滑り落ちる。

 王子以外の兵士たちを全て置いてきてしまったが、なりふりを構っている場合ではない。


 王子だけでも。

 この場から脱出させなければ全滅する。


「カルロ卿!!!帰還の宝珠は!??」


 王子の問いにカルロは首を横に振った。

 そう――作動しないのだ。


 既に黄金ドラゴンの戦闘領域にはいってしまっている。

 精霊王よりも強いドラゴン相手ではアイテムも無効だ。


「なら仕方ないっ!!!!」


 王子が叫んだ瞬間。空間魔法が発動した。

 カルロと王子はそのまま別空間へと隔離されるのだった。


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