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第70話 日本


 ピピピピ、ピピピピピ



 アラームの音で目を覚ます。

 目を開ければそこには懐かしい光景が広がっていた。

 TVに時計にスマホに電子レンジや台所。


 そうーー私が一人暮らししていた日本の部屋だ。


 !?


 戻れた!???


 私は慌ててベッドから飛び起きるとスマホの日付を確認した。

 そこに記されていた日付は私が転移してしまった日の次の日の日曜日朝。

 土曜の夜に気を失ったのに。


 ……一日すらたってない。


 キョロキョロ辺を見回せば心無しか部屋が片付いているような気もするけれど……。


 もしかして夢?


 これはあれかヲタ女が彼氏が欲しいがために見た壮大な夢物語だったのだろうか。

 などと考えながら呆然としていれば、作業用の机の上に何やらメモを見つける。

 そこに書かれていたのは――レティが自分の事をメモしていたのだろうか。

 レティの名前や生い立ちだった。

 これは私の字じゃない。

 レティの筆跡だ。

 たぶんレティも私同様自分を落ち着かせるために紙に自分の事を書き記したんだ!!



 そっか。夢じゃなかったのか。

 うん。そうだね。夢じゃなかった。


 ポロポロと涙が溢れる。

 ……帰ってきて喜ぶべきはずなのに。

 あんなに恋焦がれて帰りたかった日本だったのに。


 嬉しいよりも悲しいが勝ってしまう。


 やっぱりカルロさんのことが好きだったんだろうなぁ。


 そんなことをぼんやりと考えながら私は再びベッドに倒れ込むのだった。



 ■□■


 あれから、数ヶ月がすぎた。

 相変わらず日本での生活は息苦しくて。

 仕事に追われ、帰ってきても疲れて家で寝るだけの日々。

 友達からの遊ぼうの誘いも何度かあったけれど、今ひとつ受ける気にならなくて家で寝てるだけの生活だ。


 父と母が店に顔をださないので心配してか電話をくれるけれど。

 適当に応えてきりあげてしまう。


 

 ……何やってるのかなぁ。



 もうあちらの世界には戻れない。

 今ある人とのつながりを大事にしなきゃいけないはずなのに。


 あれだけ恋焦がれてた父と母にも二、三度顔を見にいっただけであまり会いに行ってもいない。


 レティが残したメモ。


 レティの事。

 カルロさんの事。

 センテンシア領の事。

 学園での出来事。

 そして断罪されて死ぬ未来。


 私(紗良)は無事にやっているだろうかと心配する内容のメモ。


 思いつくままに書かれたメモを見ながら私はため息をついた。


 私が中に入ってしまったはずの女性向け育成RPGゲームはあれから一切手をつけていない。

 やったら思い出して悲しくなってしまうから。


 元気にしてるかな皆。


 ゴロゴロとベッドで暴れてみるけれど、悲しくてもお腹は減るらしく、私はのそりと起き上がった。


 うん。コンビニ行こう。


 ■□■


 コンビニで菓子パン。パスタサラダ。ジュースを買い込んで駐車場をトボトボ歩いていた。

 なんだか、本当に毎日が虚しい気がする。


 これもきっと時が解決してくれるのかな。

 まぁ日本でだって失恋は普通なわけで、特別悲劇のヒロインなわけじゃない。


 自分が望んだ結果で。

 あの時はきっとあの方法しかなかったと思う。

 だって時空の精霊王様はルヴァイス様達が手を出せない空間にいたらしいから無理矢理引きずり出すしかなかったのだ。

 そう、あの方法しかなかった。

 だから後悔しないとは決めていたけれど。


 でも――やっぱり会いたいな。カルロさんに。

 悲しくて泣いてたらきっとカルロさんがいれば抱きしめてくれたんだろうな、とか。

 

 ミレイユもなんだかんだ嫌味をいいながらも心配してくれたんだろうなとか。

 セクターさんもラディウス様も慰めてくれたんだろうなーとか。


 ああ、やばいやばい別の事考えないと。


 私が頭をふりながら考えていれば、ふいに横をカルロさんらしき人が通り過ぎた気がした。


 え!????


 慌てて振り向けば、そこには誰もいない。


 ――ひょっとして、寂しすぎて幻覚まで見えてきたのだろうか。


 うん。こじらせ女子すぎて自分やばい。


 はぁ、とため息をつけば


『そろそろ、決断はできたもきゅ?』


 と、どこからか声が聞こえた。

 明らかにアニメの小動物の萌え声だ。


 ……うん。


 どこかで萌えアニメでも放送しているのだろうか。

 と、無視して歩こうとすれば


『無視はよくないもきゅーーーー!!!!』


 と、また声。


 ………悲しすぎて幻聴まで聞こえるらしい。


『リアルもきゅ!!限りなくリアルもきゅ!!!』


 ぴょんぴょん跳ねながら私に何かが語りかけてくる。後ろから。


 私がおそるおそる振り返れば


 声とは裏腹に二本足で立った状態のツキノワクマぐらいの大きさのハムスターっぽい、けど何かが間違っている可愛いような可愛くないような動物がいた。



 ………。


 こういう時はあれか。

 死んだふりだろうか。

 いや、クマに死んだふりは本当はよくないと聞いた事がある。

 目をそらさないようににらみつつ、後退すればよかったんだっけ?

 それとも食べ物を全力で投げつけて気をそらしたうちに全速力で逃げるべきだろうか。


 いや、もうこれだけ巨体だと逃げたところでたかが知れている。

 後ろから噛み付かれてやられるだけだ。

 車道に飛び込んであの巨大生物が轢かれるか自分が轢かれるかかけるか!?

 いやでもそれは、他の人にも被害が!

 こうなったらイチカバチカで自転車で突っ込むか!!??


 などと私が考えていれば


『なんで倒す方向で話が進んでるもきゅ!??

 これは萌えキャラで可愛いキャラのはずなのですもきゅ!???

 愛でるべきであって倒す対象じゃないはずもきゅ!』


 と、心を読んだのか謎の物体がツッコミを入れてくる。


 え、何。どう考えてもこれ危ない物体なんですけど。

 このデカさで害がないとかありえない。

 いや、そもそも動物が日本語話す事がまずありえない。

 何だこれ?


『神様もきゅ!!君たちの世界でいう神様もきゅ!!

 本当の姿はおどろおどろしくて怖がるだろうから、君の記憶を覗いて可愛いキャラの姿になったもきゅ

!!!』


 と、必死に主張する。


 うん。確かに見かけは可愛い。

 愛らしい小動物の姿だ。

 だが間違えている。

 大きさを。

 小動物は小さいが故に可愛いのであって、そのデカさでは恐怖しかないわっ!!!


 私は心の中で突っ込むのだった。



 ■□■


「え!?

 じゃあこの世界って仮初の日本なの!???」


 神様と喫茶店に入り、私は驚きの声をあげた。

 

「そうもきゅ。

 そもそも本当の日本ならレティの手紙があるのはおかしいもきゅ

 思考誘導で気づかないようにしたもきゅ」


 と、本当のハムスターの大きさになって、ストローでごくごくとジュースを飲んでいる。

 た、たしかに。

 そもそも本物のレティが私と入れ替わっていたのは仮初の方の日本なのだから本当の日本に手紙が残っているわけがない。

 それすら気付かなかったのだから誘導がかかっていたのかも。


「えーっと。なんでこんな手のこんだことを?」


 自称神様の萌えキャラにおそるおそる聞いてみれば


「本来なら転魂の禁呪で創造神の違う異世界へゲートを開いた罪で罰する所もきゅ。

 でも元はといえば、あの馬鹿(邪神)を逃がしてしまったこっちのミスもきゅ。

 君はある意味被害者もきゅ。

 だから、罪は不問にするもきゅ。

 けれどもうゲートを開くのは危険すぎるもきゅ。

世界の均衡を考えるとゲートを開けるのはあと1回。

 一度本当の日本に戻ってしまえば二度とこちらの世界には戻せないもきゅ。

 君が元の世界に帰るか帰らないか決めるために、この仮の日本で反応を見たもきゅ」


「神様……」


「なんだもきゅ?

 お礼なら言わなくてもいいもきゅ。

 こちらのセリフもきゅ」


 てへへと照れながらいう神様。

 く!?そうきたか!?

 言えない。

 お礼じゃなくてその「もきゅ」という語尾を付ける必要があるのか聞こうとしたなんて言えない。

 語尾全部につけなくてもいいと思うのだけれど!


「そのありがとうございます。

 じゃあ、もしかして……」


「どちらの世界にも帰ることは出来るもきゅ。

 でもゲートを開けるのは一度だけもきゅ。

 決めた世界に残る事になるもきゅ。

 もう決める事はできたもきゅ?」


 自称神様の言葉に。

 私は大きく頷くのだった。


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