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第69話 戦いの終わり

「これは……?」


 荒神の滅んだ後に残された、小さな光を指さしてミレイユが呟いた。

 既に邪神は精霊王達によって滅ぼされている。

 本来なら力の弱い神とはいえど精霊王達でも手こずるのだが、無理矢理時と空間の精霊王を荒神化させたことによりほぼ力を使い切っていたのが幸いした。

 特に苦労することなく簡単に滅ぼせたのだ。


『時空の精霊王クロシュテイムだ。消滅はしないですんだようだな』


 と、ルヴァイスが答えればミレイユは瞳を輝かせた。


「それではお嬢様は戻ってこれるのですね!?」


 精霊王達にミレイユが聞けば、皆表情を曇らせる。


「不可能……なのでしょうか?」


 気を失ったレティを抱えてカルロが聞けば、黒豹姿のニーナが頷いた。


『この状態では元の力を取り戻すのは最低でも1000年はかかります。

 クロシュテイムの力なしでは彼女をこの世界に召喚することはできません』


「そんな……それじゃあお嬢様は?

 お嬢様はどうなるんですかっ!!!!」


 ミレイユがルヴァイスに詰め寄るのを


「やめないかっ!!ミレイユ!!」


 と、カルロが止める。

 そんなカルロをミレイユはキッと睨んだ。


「大体っ!!!

 貴方も貴方です!!

 お嬢様の気持ちに気づいていなかったわけじゃないでしょう!??

 なのに何故応えてあげなかったんですか!!!


 貴方が応えていれば、元の身体に戻る事にこだわらなかったのかもしれないのにっ!!

 こんな形で、戻ってこれないなんて、これじゃあお嬢様が可哀相じゃないですか」


 ポロポロと溢れる涙を必死にふきとりながらミレイユが叫んだ。



 ――そう。

 カルロはレティの気持ちに薄々ではあるが気づいてはいた。

 けれどその気持ちで葛藤していることも。


 自分の事を、父として好きなのかそれとも異性として愛していたのか。

 身体がレティであるがゆえに出ない答え。


 その気持ちはとてもよくわかった。


 それはカルロも同じだったから。


 娘として大事なのか。それとも異性として愛していたのか。


 身体が娘であるがゆえ、出ない答え。


 その気持ちの矛盾を抱えたまま、彼女を受け入れたとしても、きっと彼女はそのことで苦しむだろう。

 

 ずっと自分でありたいと願っていた彼女だからこそ受け入れられなかった。

 自分が彼女を受け入れてしまえば、彼女には本当に自分が愛されているのかという疑問がつきまとうだろう。

 それは同時に彼女に永遠の苦痛を与えることになってしまう。


 自分と結ばれるよりも、他の人と結ばれた方が彼女にとっては幸せなのだ。

 

 きっとこれでよかったのだろう。


 6歳の時、毎晩帰りたい、自分でありたいと怯えていた彼女を思い出し、カルロは自分を納得させる。

 彼女は元の世界に帰れたのだ。

 日本で本来の自分で新たに恋をし、伴侶を見つける事の方が彼女は自分といるよりも幸せになれるはず。

 彼女の話では日本という世界は平和な国で、こちらの世界よりも快適だと語っていた。

 恐らく本来の娘のレティは幸せだとカルロを安心させたくて、多少脚色しているところもあるだろう。

 それでも平民であるはずの紗良の教育水準の高さや考え方などを考慮すれば紗良の世界が平和なのは間違いない。

 だから決して不幸な事ではないはずだ。


 カルロは自分の腕の中のレティを見つめる。

 3歳の時に、何も告げずに歴史をかえるために戦った勇敢な自分の娘。

 彼女を幸せにすることこそがせめてもの罪滅ぼしなのだと思う。


「おかえり、レティ」


 まだ目も覚めていない娘にカルロは微笑んだ。

 


 どうしようもない、喪失感に気付かなかったふりをして。



 ■□■



 うおおおおおおおおお!!!


 巨大な荒神が差し込んだ一条の光とともに消え失せたその瞬間。

 王都では大歓声があがっていた。


 第一王子が風の精霊王の勝利の言葉を皆に伝える。

 沸き起こる歓声に王子が手をふり、風の精霊王も王都を頼むと聖女に頼まれたがゆえに、不慣れな愛想笑いを浮かべた。


 ひとしきり王都の民に演説が終わった所で


「精霊王様、レティは、彼女は無事でしょうか?」


 王子が問えば、風の精霊王はなんとも言い難い表情をした。


『無事というのはどちらのレティだ?

 一人は無事だがもう一人は既に元の世界に帰った』


『も、戻れなかったのでしょうか?』


『クロシュテイムがほぼ精霊としての力を使い果たしている。

 あれを戻すのにはかなりの歳月が必要だ。

 今いる人間が生きているうちに聖女を呼び戻すのは無理だろう』


『……そんな……』


 レナルド王子が真っ青になってうつむいた。


 こうなる可能性が高い事は何となく察してはいた。

 けれど彼女なら何とかしてしまうのではないかという無責任な安心感があった。


 王子という立場でも気兼ねなく話せる彼女の存在が自分の中で大きくなっていた事実に改めて気付く。


 けれど嘆いた所で現状は何も変わらない。

 自分には王都の混乱を鎮め、ダンジョンの攻略と仕事が山ほど残っている。

 立ち止まっている時間などないのだ。


 どうか元の世界で幸せに。


 王子はそう願いながら歩き出すのだった。


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