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第68話 元の身体

「それじゃあ、転魂の術をしたら

 レティはそのまま日本に帰って戻ってこれないのかもしれないのか!?」


 セクターさんが声を荒らげて私に詰め寄った。


 私と、カルロさん、セクターさんとミレイユとラディウス様が部屋に一堂に会してる。


 これは確か、精霊王様に記憶を思い出させてもらって、これから荒神を倒すのに転魂の術をすると皆に説明したときだ。

 なんだろう。私は夢でも見てるのかな?

 ふわふわと気持ちが夢見心地のまま私はその景色を眺めた。


「うん。でもまだ100%戻ってこれないわけじゃないし。

 時空の精霊王様が他の精霊王様みたいに無事だったら呼び戻してくれるかも!」


 私が言えば、セクターさんがうっという表情になる。


「でもですね!!なんでお嬢様ばかりがそんな危険な事をしないといけないのですか!

 そういった事は精霊王様に任せてしまえばいいではありませんか!!」


 今度はミレイユ。


「ミレイユ、精霊王様も荒神には勝てません。

 それはあなたも解っていることでしょう。

 お嬢様を困らせてはいけません」


 ラディウス様がミレイユを制した。


「それに、ミレイユもセクター様もまるで日本に帰るのが悪いような言い方をしていますが。

 お嬢様にしてみれば本来の世界に帰れるのです。

 決して不幸な事ではないのでは」


 そう言われてセクターさんたちの視線が一気に私に集まった。


 ……確かに。

 4年前は日本に帰りたくて帰りたくて仕方なかった。

 でも今はどうだろう。


 みんなと別れるのは本当に辛いけれど。

 本当の父と母に会えるのは嬉しいかもしれない。


 ……でも


 チラリとカルロさんを見れば、無言で見つめ返される。

 どうしよう。


「私もよくわからない。

 

 もう私の中で家族はここにいる皆だし、帰りたくないって気持ちもある。

 でも、ずっとこがれていた本当の父と母に会えるのが嬉しい気持ちもあるの。


 どっちも嘘偽りない私の気持ち」


 本当はカルロさんと別れたくない。

 でも、もしかしたらその気持ちもレティのもので。

 元の身体に戻ったら、日本にいたいと思うかもしれない。


 どちらが後悔しないのか、聞かれても私も困る。

 たぶんどちらを選んでも、選ばなかった方に未練は残ってしまうだろう。


「だから、戻れても戻れなくても結局はやらないといけないから。

 覚悟は決めなきゃ。

 もし戻ってこれなくても、それはそれで自分で選んだ道だから後悔しない。

 私は元気だから心配しないで」


 そう言って私が無邪気を装ってなるべくニッコリ微笑んだ次の瞬間、景色が変わる。


 レナルド王子が王城に用意してくれた私用の部屋でミレイユと二人きり。

 私は紅茶を飲み、ミレイユが何か言いたげに私を見ていた。


 そして


「本当にお嬢様はそれでいいのですか?」


 ミレイユが真剣な表情で聞いてくる。

 ずっと何か言いたいのだろうとは思っていたけれど、敢えて聞かなかった。

 だってミレイユは転魂の術に反対しているから。


「うん。決めた事だから。

 ミレイユは大袈裟だよ。

 死ぬわけじゃないんだよ?

 みんなと会えなくなるかもしれないのは辛いけれど。

 でもちゃんと生きて、自分の元居た世界に帰れるから決して不幸じゃないんだから」


「そういう事を言っているのではありません。

 好きなのでしょう?旦那様の事が」


 ……え?

 な、なななななにを言ってるのかなミレイユは!?


「は!?え!???」


 私が言葉につまれば、ミレイユがやれやれとため息をついて


「気づいてないと思ったのですか?

 何年一緒にいたと思っているんですか」


「えええええ!???

 じゃ、じゃあもしかしてカルロさんにもバレて?」


「それは大丈夫ですよ。

 あの人はそういう女性の機微はわかりません」


 ああ、よかったバレてないのか。

 びびった。まじびびった。


 にしても、ミレイユには本当敵わない。

 私の事をよくわかってる。


 私はほぅっとため息をついた。

 ラディウス様達にはああ言ったけれど、ルヴァイス様には言われていた。

 魂を転魂すれば恐らくこちらの世界には二度と戻って来れない。


 時空の精霊王様は……恐らく助からないだろうから。

 転移の術も使えなくなるだろうとは言われてる。

 私はきっと戻ってこれない。


 だから、正直に話してもいいよね。ミレイユになら。 


「……あのね。たぶん私はカルロさんのことが好きなんだと思う。

 でもそれもあまり自信がないんだ」


「自信がない?」


「うん。レティの気持ちに引きずられて好きなだけなんじゃないかって。

 親子の愛情を恋と勘違いしてるだけかもしれない。


 だから、この身体のまま、カルロさんに気持ちを伝えるのはないと思う。


 気持ちを伝えるなら、本当の身体に戻って、自分の好きっていう気持ちが本当か確かめてから。

 だからかけてみる。


 自分の身体に戻れてまたこの世界に戻ってこれるのを」


 私の言葉にミレイユが微笑んだ「お嬢様らしいですね」と。


 


 そう――かけてみよう。

 今の私のままじゃ、いつまでたってもカルロさんにとっては子供で。

 想いを伝えることすらできない。


 元の身体に戻って、ちゃんと気持ちを確かめて。

 それでも好きだったら、ちゃんと想いを伝えるんだ。



 だから戻ろう。


 元の身体に――。


 光が私を包み込み、そこで完全に意識を手放すのだった。

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