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第67話 最後の戦い

 話が違う!!!

 目の前に現れた荒神にマリエッテは叫んだ。

 そう馬車の行く手を塞いだのはシャルディスに聞いていた荒神だった。

 彼はマリエッテがいるにも関わらず荒神を放ったのだ。


 それはすなわち――マリエッテも単なる捨て駒にすぎなかったことを示していた。



 ぐがあっ!!!



 大きな音をたて荒神が口を開いた。


 マリエッテの馬車が宙を舞う。


 助からない――!!


 マリエッテが覚悟を決めたその瞬間。


 何故かマリエッテと荒神の間に割ってはいったのはレティだった。

 白虎に乗ったまま、馬車を守るように立ちふさがったのだ。

 周りの木々は呑み込まれているのに精霊王の加護なのか馬車はそのまま静止している。

 もしかして――助けてくれたのだろうか。


「レティ……なんで……」


 呆然とマリエッテが尋ねれば銀髪の美しい少女レティは微笑んだ。

 それはもう物凄く悪い笑みで。


「貴方が死ぬのは処刑台のギロチン。

 レティがされたように民衆からの罵声をあびて死ぬのがお似合いよ?

 こんなところで楽に死なせはしないから」


 そう言って首を切る仕草をして微笑むレティの表情は――悪役令嬢そのままだった。



 ■□■


『本当にいい性格をしているな』


 精霊王ルヴァイス様が私の一言で泡を吹いて気絶してしまったマリエッテを見つめ呟いた。


『レティやカルロさんにそれだけの事をしたんだから。

 それ相応の罰を受けてもらわないと』


 と言う私。

 夢で何度も見せられたあの光景。

 野次られながら惨めにギロチンにかけられ死ぬ、カルロさんとレティ。

 あんな事をしておいて、こんな所で荒神に呑み込まれて苦しむことなく死ぬなんて許さない。

 やっただけの罪はちゃんと償うべきだ。


 性格が悪いと言われようがなんだろうが、構わない。

 今世では何も憶えてないというのなら見逃したかもしれないが、前世でレティを殺したのを憶えているうえで今世でもレティ達を殺す気満々だったのだ。

 許すつもりなんて毛頭ない。


『無駄口はいい!!

 我らもそう長い時間は耐えられない!!

 さっさと倒すぞ!!

 レティ頼む!!!』


 火の精霊王様が叫んだその瞬間。


――その女が飛び込んだ所で無駄だ。

  この荒神は時と空間の精霊王が媒体なのだ。

  異界に対して耐性がある、神にこの世界を破壊されたくなければ大人しく我に吸収されるがいい愚かな精霊王どもよ――


 

 どこからともなく、声が聞こえた。

 

『シャルディス!!!』


『恩知らず!!!』


 ハルナとサリナが叫んだところをみるとこの声がシャルディスらしい。


「レティ」


 カルロさんが私を抱き寄せ声をかけてくれた。

 私はコクりと頷いた。


 はじめから、あちらが異世界の異物に対して対策をしていないなんて思ってもいない。

 私達の狙いは元々別の所にある。


 私たちに必要だったのはシャルディスによって異空間に隔離されてしまった時と空間の精霊王様の力。


 無理矢理荒神化されたせいで時と空間の精霊王様の力はダダ漏れ状態だ。

 シャルディスが最後まで時と空間の精霊王様の荒神化を出し惜しみしていたのはこのため。

 荒神化した精霊王様の力はループには使えない。

 強力な時と空間の精霊王様の力を吸収できないのはシャルディスにとって痛手だろう。

 本来ならやりたくはなかったはずだ。

 だからこそ、ダンジョン探索初陣の儀式に王都に集まる加護持ちの力で、弱い精霊を荒神化するためにずっと耐え忍んで待っていたのだ。

 けれど私たちが出向いたことで、それも不可能になってしまった。


 精霊王様を荒神化してでも、戦わねばならないのだ。


『頼むぞっ!!!レティ!!!』


 ルヴァイス様が私とカルロさんを乗せたまま荒神の口の中に突っ込んだ。


――愚かな。自ら吸収されるとは――


 シャルディスの声が聞こえるけれど関係ない。


「行くよっ!!レティ!!!」


 カルロさんが叫び、光で魔法陣を書き上げてくれる。


――何をする気だ!!!――


 シャルディスが叫ぶが無視。



 さぁ、戻ろう。レティ。

 本来の私たちに。


 私はその魔法陣の力を使って、発動させた。


 転魂の魔法を。



 これこそが私達の切り札。


 荒神の体内で転魂の術を発動させることにより、荒神の中に仮初の日本へとゲートを開く。

 仮初の日本はクミと私の記憶で作られた物凄く不安定な世界。

 そこにゲートが開かれた事によって、仮初の日本は世界を安定させようと荒神の力を吸収しだす。

 精霊王様一人の力だけで生まれた存在自体が不安定な荒神がそれに耐えられるわけもない。


 ――まさかっ!!そんなっ!!!――


 シャルディスの声が頭に聞こえてくるが、私は関係なく、術を完成させた。



 何故か――前世の私がこちらの世界に転移してからの記憶が頭に流れこんでくる。


 ゲームの世界に入っちゃった。とりあえず生きなきゃ!!と、ゲームの知識をもとに商売をはじめ、そこで本来なら主人公を拾うはずの魔術師のメリルというお婆さんに拾われて魔法を習って。


 今にも川に飛び込みそうな思いつめた少女、レティを自殺はダメと呼び止めて、仲良くなって。

 レティに頼まれてカルロさんを助けて、その過程でこの世界がまたループしてしまうという事実に気づいた。


 ループを阻止すべく世界の謎をレティと追い、ループを思い出したクロシュテイム様に真実を教えてもらった。


 そして私とレティは転魂を選んだのだ。


 この邪神を倒して世界のループを終わらせるために。


 荒神さえいなければ、精霊王様達の力で邪神を倒せるはず。


 だから、荒神は私が倒さなきゃ!!


 発動させた術は、目論見どおり、物凄い勢いで荒神であるクロシュテイム様の力を吸収しはじめた。

 時と空間を安定させるクロシュテイム様の力を、世界を安定させたい仮初の日本が欲して貪欲に吸い込んでいく。

 

――まさか!!まさか!!まさか!!!――


 シャルディスの絶叫に近い声がきこえた。


 途端。

 スルリっと身体から魂が抜ける感覚。

 私の魂は身体からすり抜けた。


 眼下にレティを抱いたカルロさんの姿が見える。

 今にも泣きそうな顔で私を見ていた。


『カルロさ……んっ!!』


 手を伸ばせば、カルロさんも必死に私に手を伸ばした。

 何か叫んでいるけれど。その声は全く聞こえない。


 一生懸命手を伸ばすカルロさんの姿が霞む。


 ヤダ、ヤダ。

 本当は別れたくなんてない。

 お願い、どうかクロシュテイム様が無事でありますように。

 どうかこの世界に戻ってこれますように。


 精霊王様の話では、私は元の身体に戻れば、安定化を計った仮初の日本が本当の日本の情報を得るために私のいた本来の日本へゲートを開くだろう。

 その時異物である私は元の世界に返されるだろうと言っていた。 


 日本に帰れる。

 だけど全然嬉しくない。

 

 どうか――またカルロさんと会えますように。

 またこの世界に召喚してもらえますように。

 そうしたら、今度こそ伝えるんだ。好きだって。

 娘としてじゃなく、私として好きだと。

 だから絶対戻ってこよう。


 一生懸命好きだと叫んでみるけれどもう声すらでなかった。


 それが――私が意識を保っていられた最後の光景だった。

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