第66話 王都
王都は狂乱に包まれていた。
突如現れた、遥か彼方に見える巨大な魔物に。
神話でも王都から見えるほどの巨大な大きさの魔物など現れたことはない。
そう、そこに居たのはシャルディスの復活させた荒神。
精霊王を無理矢理荒神化させただけあって、以前レティ達の戦った荒神とは比べ物にならない大きさになっていた。
空は暗雲に覆われ、空気がひんやりとしたものに変わる。
その姿を確認したものは我先にと逆方向へ逃げようとしたり、家の中に逃げ込んだりと、王都は混乱していた。
「落ち着け!!!
慌てるな!!!
王都はこの事態に備えている!!!
各自慌てず自宅にて待機しろ!!!!」
第一王子直属の騎士達が叫び、王都内に馬を走らせていた。
そう――この事態は予想していた。
マリエッテに偽の密輸書類をつかませて、国王の前で断罪させた時点で、こちらの計算通りだったのだから。
あれだけ派手にやればシャルディスという魔術師もレティの後ろに精霊王がいる事に気がつくだろう。
そしてあわてて精霊王を荒神化させることも。
レナルドは城壁から城下内を見下ろしため息をつく。
いきなりあのような巨大なモンスターが目に見える範囲に現れたのだから王都が混乱するのはわかりきっていたことだ。
もっと穏便な方法をと主張はしてみたが、精霊王様達に時間がないと却下されてしまった。
神殿でレティが見た過去が。
既に歴史がかわり時間が無いことを告げていた。
遅かれ早かれ王都が荒神に襲われる事になっただろう。
戦わない選択をした場合でも、シャルディスは精霊王達に戦いを挑むため、時と空間の精霊王を荒神化させて、人間たちの魂を喰らっただろう。
そうしなければならない理由が敵側にあるのだから。
むしろ直前で気づいて運がよかったと。
精霊王様達の話では今年中にループを発動させなければ世界の基軸が壊れ、神々が降臨してしまう。
そして滅ぼすだろう。
邪神だけでなく、邪神ごとこの世界を。
そうなる前に、この世界の住人が邪神を倒さねばならないのだ。
そしてそれができるのはレティだけ。
レティにかけるしかない。
少女一人にこの世界の命運を託す状況をもどかしく思うがこればかりはどうしようもない。
彼女が敗れれば、精霊王達は荒神に飲み込まれ歴史はまた巻戻りまたループが再開する。
ダンジョンに閉じ込められ餓死するあの悪夢をまた繰り返さなければいけない。永遠に。
あのような悪夢は二度と味わいたくない。
信じよう。彼女を。
王子は歩きだす。
王都の混乱を鎮める事が自分の役目だ。
彼女が勝つことを信じているからこそ、世界が平和になったとき、混乱しないようにこの場を収めないといけない。
「お願いします。精霊王シルヴァ様」
レナルド王子の言葉と同時に
『了解した』
風の精霊王シルヴァが現れ、王都が巨大な光に包まれる。
突如現れた光り輝く精霊王に王都から歓声があがった。
「聞け!!我が同胞よ!!!
これより人類の存亡をかけた戦いがはじまる!!!
だが我らも手をこまねいていたわけではない!
敵を欺くために全てを隠し入念に準備をしていたのだ!
我らには全ての精霊王様達のご加護がある!!
我らに出来ることはこの戦いに挑む者達が勝つことを祈ること!!
さぁ祈れ!!!
全ての精霊王様に!!!
戦いに挑みし聖女レティシャ・エル・センテンシアにっ!!!!』
風の精霊の力で声が王都中に響きわたり、歓声が沸き起こる。
事態を収拾すべく放った兵士達が、雄叫びをあげてそれを後押しする。
――あとは頼んだよレティ。どうか無事で――
微笑む彼女の顔を思い浮かべ、王子は荒神を見つめるのだった。











