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第64話 マリエッテ視点4

「レティシャ・エル・センテンシア前へ」


 晩餐会のその会場で。

 国王の声が響く。


 ざわめく会場。

 そして銀髪の少女が国王の前に歩み出ると頭をたれた。

 王の前で跪く。


 数々の功績をあげ、誰もが注目する少女。

 砂糖、フリーズドライ製法、そして国王に献上した車という未知の乗り物。

 この数箇月の間に、彼女の名は知れ渡り、知らぬ者はいない。

 噂では最近発見されたダンジョン探索にも彼女が関わるという噂すらある。


 誰もが近づきたくて仕方ない存在。

 その彼女が今度はどんな功績を?


 貴族達が息を呑みその言葉を見守るさなか。


「お待ちください父上!!!」


 国王とレティの間に割って入ったのは――第二王子ゲオルグだった。



 ■□■



 話は少し遡る。


「あら、ごめんなさい。

 貴方がいるのを気づきませんでしたわ」


 王宮の広場へ続く通路で、そう言ってマリエッテの前を横切ったのはかつてマリエッテの一番の取り巻きだった令嬢。

 カーシャ・ラル・クロファリア。


 前世ではマリエッテに媚をうり、彼女のために周りの令嬢をまとめあげ、忠誠を尽くしていた女だ。

 だが今ではレティの領地に砂糖利権に絡ませてやると声がかかったらしく、すっかりレティの親衛隊になっていた。

 我がもの顔で令嬢を引き連れて、マリエッテの前を横切ったのだ。


「いえ、お気になさらずに」


 と、ニッコリ笑い一礼してその場を去ろうとすれば、


「ああ、少しまえまでは貴方が常に主役でしたのに。

 脇役においやられてお可哀相」


 わざとすれ違いざま聞こえるように嫌味を言われる。


 処世術で気付かなかったかのようにそのまま歩くが内心は穏やかではなかった。

 かつての下僕に馬鹿にされるこの屈辱。

 そしてそれは裏でレティが糸を引いていると分かっているがゆえ憎しみは計り知れない。

 レティはわざとマリエッテが手足として使っていた手駒でこちらに嫌がらせをしているのだ。


 これほどの屈辱があるだろうか。


 だが――それも今日までだ。

 つい最近、国内にダンジョンが発見された事で忙しくなったのだろう。

 レティのマリエッテに対する嫌がらせがかつてより緩和され、こちらにあまり目を向けなくなった。

 その間に、マリエッテはレティに対する決定的な証拠を握っていた。


 そう、隣国シャンテイに砂糖を密輸したその証拠を。


 第一王子派の騎士食堂に潜ませていた密偵の一人が聞き出した情報をもとに情報を集めたのだ。



 ああ、ゾクゾクする。

 もう彼女を民衆の前で裁けないと思っていたがこんな絶好の機会がめぐってこようとは。


 レティを失脚させ、それに連座して婚約者である第一王子であるレナルド王子も陥れる準備はできている。

 もうあの女の時代は終わるのだ。


 第二王子がダンジョンを制覇し、国王となればマリエッテの勝ちだ。


 そしてその時が今来た。


 国中の貴族が揃うこの晩餐会で。


 皆の注目を浴びるなか第二王子ゲオルグがセンテンシア領の不正の証拠を叩きつけていたのだ。


「これがセンテンシアが隣国シャンテイに砂糖を密輸していた証拠です!!!」


 と言って書類をばんっと国王の前に叩きつけた。

 書類にはカルロ・エル・センテンシアも署名している。

 言い逃れができることではないだろう。


 周りの貴族達がざわざわとどよめきだす。


 胸をはって書類を突きつける第二王子ゲオルグ。


 マリエッテの位置からレティの顔は見えないがきっと青ざめていることだろう。


 マリエッテがほくそ笑みながら、国王を見れば国王は大きくため息をついた。


「それは本当なのかね。レティシャ・エル・センテンシア」


 国王に問われれば、レティはニッコリ微笑んで


「はい。間違いありません」とスカートの両端を少しだけ持ち上げ微笑んだ。


 ざわっ!!!!!


 一斉に会場がざわめきだす。

 カーシャなどは今にも倒れそうな程顔が真っ青になっていた。


 ――ああ、勝った。


 このあとレティは兵士たちに引きずられ、牢獄に入れられる。

 前世と同じく父親とギロチンにかけられるのだろう。


 マリエッテが勝利を確信したその瞬間。


「貴方がそう判断したのならそれが正しいのだろう」


 と、国王があっさりそれを認めた。


 周りの空気が一瞬凍る。


「な、何を言っているのですか父上!!!!

 国に対する裏切りなのですよ!??

 そんな簡単に認めるなんて断じて!!!」


 第二王子ゲオルグが国王に抗議の声をあげたその瞬間。


『たかが人間風情の決まり事など、我らの知るところではない』


 会場にいた全員の頭の中に声が響いた。

 耳から聞こえたのではなく、声が頭に響いたのだ。


 皆が気配を感じた方に振り向けば――そこにいたのは白銀の虎と妖精のようなツインテールの双子の少女。

 そして麗しい茶髪の美少女と燃えるような赤い髪の男性が神々しいまでのオーラをまといながら登場したのだ。


 その場に居合わせただれもが息を呑み言葉を失った。

 そう、そこに居たのは聖書や絵本で見る精霊王その人だった。




■□■


「だ、誰だっ!!!!?」


 空気が読めないのか、はたまた現実を受け入れられないのか第二王子ゲオルグが叫べば


「ひれ伏せ、ゲオルグ。

 この方々は精霊王様だ」


 そう言って国王が玉座から降り、ゲオルグ王子の頭を押さえそのまま跪かせた。

 精霊王達は満足げにその様子に微笑むと、レティの後ろにまるで控えるように立つ。


 そこでマリエッテは理解した。

 密輸は元々罠だったのだと。

 ゲオルグや自分をはめるための。


 精霊王はそもそも自分の領地から出ることは基本できない。

 各地の精霊王の住まう神殿間は自由に行き来できるとは聞くが、加護の薄い人間が住む領地には姿を現せないはずだ。

 その精霊王が一堂に会している。


 それが意味することはレティが精霊王との契を結び聖女になった以外はありえない。


 精霊王様達相手では一国の国王風情が勝てるわけがない。


 はじめからマリエッテに勝ち目などなかったのだ。


 白虎の精霊王がそのままゲオルグの前に歩みでると


『そのような証拠を集めていたということは、我が愛子を陥れようと目論んでいた証拠。

 ただですむとは思うな』


 と、無慈悲なセリフを投げつけた。

 第二王子は顔を真っ青にしながら跪いている。


 そんな様子を見つめながらレティがマリエッテの方に振り返った。


 そこに挑発的な笑を浮かべながら。


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