第63話 マリエッテ視点3
こんなはずじゃなかった。
マリエッテは王都に用意された自分の館の煌びやかな自分の部屋で毒づいた。
マリエッテは自分の状況に歯ぎしりした。
そう、いままでは自分をチヤホヤしていた貴族達が、マリエッテとレティが対立しているのを知ると、一斉にそっぽを向いたのだ。
中にはいままでのお返しといわんばかりに、これみよがしに悪口を言ってくる令嬢までいる。
嫌がらせをしていたのをうまく隠していたはずだったのに。
うまく自分の悪事を隠して心酔させてきたつもりだったのに。
既に未来を知っているという安心感からか、裏で手を廻し卒なく嫌がらせをするというのを前世に比べおろそかにしてしまっていたらしい。
何人かの令嬢に自分が裏で糸を引いていたのを見抜かれてしまっていた。
憎たらしいのはレティ自身はマリエッテに何もしてこない事だ。
これみよがしに、砂糖だけではなく、今度は騎士や冒険者相手にフリーズドライ食品というものの売り出しを宣言した。
これが軽く長期保存がきき、味が美味しいということで好評で他国の商人達も我先にとレティの周りに集まり、帝国の皇帝までもがレティに会いにくるとの噂まである。
今では誰もがセンテンシア領とパイプを繋ごうと頼まれてもいないのにセンテンシア領に媚をうる始末。
そしてマリエッテが露骨にレティから情報を隠されたのを知った貴族達が勝手にレティに忖度してマリエッテに嫌がらせをしてきたのだ。
センテンシア領に塩を売らないように頼んだ領地はマリエッテの領地と露骨に距離を取り始めた。
ループ前にマリエッテがした事を、いまレティによって逆にやり返されている。
孤立させ貧困に追い込み借金漬けにしたそのやり方を。
圧倒的な経済力の差で追い詰めたその方法を逆にやり返されているのである。
何度もこちらが虐めただけあってマリエッテのプライドをズタズタに引き裂く方法をあの女はよく知っていた。
ああ、憎たらしい。
あの女、許さない。
何故私があの女に追い詰められる立場なのか。
心の中で歯ぎしりをしていれば
「マリエッテこれはどういうことだ!?
お前の言う通りにしたはずなのに!?
説明しなさい!!!」
ドンドンと父がマリエッテの部屋の扉を叩く。
前世の記憶で危機を何度も回避し、すっかり信者と化していたはずの父がすがるようにマリエッテに詰め寄っていた。
薬を使って自分の指示がなければ、動けない操り人形と化していたのが裏目にでてしまったのだ。
マリエッテの意のままに動いてはくれたが、指示がなければ何もできない役たたずになってしまったのである。
本来の父なら自分で考えるなりなんなりしただろうに。
役たたずにしてしまった事を今は後悔するしかない。
こちらの味方のはずの第二王子も第一王子が健在な今、まるで役にたたない。
第一王子のバックには砂糖やフリーズドライが生産できるセンテンシア領がいるのだ。
誰から見ても次期国王はレナルド王子だろう。
頼れば逆に第二王子派とみられ、疎外されるのが関の山だ。
けれどまだ挽回するチャンスはあるはず。
そんな事を考えていれば
「お嬢様」
密偵の一人が慌てて部屋に入ってくる。
「何っ!?」
マリエッテが声を荒らげて答えれば
「ワルフが面白い情報を仕入れてきました」
と、にやりと微笑むのだった。











