第61話 世の中強い方が勝つ
「大分、ビビってたね。マリエッテ」
王宮の私用に用意された一室で私がメイドに扮したミレイユに言えば
「ええ、流石お嬢様。
相手に喧嘩を売る時の顔は相変わらずこ憎たらしくて素敵でした」
と、喧嘩をうってるのか本気で褒めてるのかわからないほめ方をするミレイユ。
「お疲れさま。レティ」
ミレイユと会話をしていればカルロさんが後から室内に入ってくる。
本当は一緒に部屋に戻る予定だったのだけれど砂糖の取引に関わりたい貴族達に囲まれたせいで私たちだけ先に部屋に戻してくれた。
そういうところはやっぱり紳士だなぁと思ったりする。
「お父様。貴族に囲まれて大変だったでしょう?大丈夫でしたか?」
「ああ、大丈夫だよ。君の方こそ、大丈夫かい?」
そう言って手を取られてドキリとする。
「……え?」
カルロさんは私の目をじっと見つめ
うん。大丈夫そうだと微笑まれる。
な、なななにがだろう?
「えっと?」
私が?マークを浮かべれば
「ああ、いや。君が大丈夫ならそれでいいんだ」
とカルロさんが微笑めば
「領主様はお嬢様があのような態度をとったのを気にしてないか心配だったのですよ。
前のお嬢様は卑屈でしたからね。すぐ自分を責める癖がありましたから」
と、ズバリとミレイユ。
「ミレイユ」
カルロさんがちょっと睨むように言うけれど
「大丈夫ですよ。今のお嬢様は記憶を取り戻すまえの負けん気の強い悪戯っ子のお嬢様です」
とミレイユが微笑んだ。
……そうか。そういえばそうかも。
ちょっと前まではすごくウジウジしてしまったような気もしなくもない。
それにしても、チラリとミレイユを見ればにっこり微笑まれる。
やっぱり、なんだかんだと悪態はつくけれど、ミレイユは私の事をよく見ていてくれたんだなと思う。
日本人だった記憶が戻ってから、毎晩のようにレティの夢を見ていたせいで意識がレティに引っ張られていたような気もする。
虐げられて裏切られ、自信のない少女レティに。
「うん。そうだね。
マリエッテにあんな態度をとったからって気にしてないよ?
むしろざまぁ!くらいの気持ちだから心配しないで」
と、私が言えばカルロさんが「ざまぁ?」と聞いてきた。
この世界では通じない言葉だったらしい。
「えーっと、鼻をあかしてやってやったね!って感じ?」
私が視線をさまよわせながら言えば
「ああ、なるほど」
と、頷いた。
それにしても
「いい子ちゃんじゃなくてちょっとがっかりした?」
冗談めかしに聞いてみる。
冗談っぽく聞いてみたけど内心はドキドキだ。
いい子ちゃんじゃない私に幻滅したらどうしようと、胸がちくりとする。
「うん?どうかな?」
私が冗談っぽく聞いたせいかやはり冗談っぽく笑顔で返され
「……でも、ミレイユの言うとおりだね。
今のレティはやんちゃだった時のレティを見ているみたいだ。
昔の君を見ているみたいで少し嬉しくもあり、申し訳ないとも思う」
嬉しいって何でだろう。本来の自分も捨てたもんじゃないのかな。
好きな人にそういうことを言われてしまうとちょっとドキドキしてしまう
私は慌てて誤魔化すように
「申し訳ない?」
と、尋ねた。
「それだけレティが君に影響を与えていたということだから。
君には迷惑をかけたね。すまなかった」
憂いを帯びた目で見つめられ、私はぶんぶん顔を横にふった。
「大丈夫大丈夫!
そ、それより王子の方はうまくやってるかな!?」
顔が赤くなったらまずいので私は思いっきり話をかえた。
どうも自分に戻りつつあるのはいいことなのだけれど。
カルロさんを意識してしまってまずい。
「あれだけ挑発したのですから動いてくれるといいのですけれど」
ミレイユも追随する。
そう――、砂糖利権やら餌をちらつかせる事でマリエッテを思いっきり孤立させたのはざまぁのためだけではない。
揺さぶって荒神化させた魔術師と接触を図らせるため。
まぁレティの記憶のマリエッテならレティが周りから褒め称えられれば意地になって見返そうとするだろう。
その時接触をはかるはず。
魔術師の居場所さえわかれば、マリエッテは私が手をくだすまでもなく精霊王様達から罰を受けることになるだろう。
魔術師同様ただでは殺さぬと言っていたし。
荒神化された分、私より精霊王様たちの怒り具合のほうがまじですごい。
それに今回の挑発で無理ならもっと煽ってやればいいだけだ。
それこそプライドがずたずたになるくらいに。
私にはフリーズドライ食品、車など手持ちカードが山ほどある。
マリエッテを直接いびるより、彼女よりも私が上になることが彼女のプライド的には許せないはず。
そう世の中を動かすのは金と権力。
あの傲慢なプライドを知識と富と地位と権力でズタボロにしてやる。
カルロさんや領地のみんなやレティやモニカの敵だ。
そのためには手段なんて選んでいられない。
あらゆる手段と権力を行使して嫌がらせしまくってやる。
次はどんな手でズタボロにしてやろう、と考え、ハタと気づく。
……って私、もろ悪役じゃね?
本来のレティより私の方が悪役令嬢むきかもしれない。
いまかなり思考が危ない方向に進んだことを反省するのだった。











