第60話 マリエッテ視点2
「あら、楽しそう。
皆さんこんなところで一体何を?」
晩餐会の広場に続くその道で、いつも自分を取り巻いていた令嬢達に声をかける。
それがいつもの事だった。
マリエッテの領地は国で1.2を争う経済力をもち、軍事力を持つ。
誰もがマリエッテに気に入られたいと我先にとお世辞をいってくるのだ。
それをニッコリと微笑みかえし、優しい言葉をかけ、令嬢たちの心を虜にした。
そういつもの事。
皆「マリエッテ様」と、ニコニコと自分を取り囲む……はずなのに。
「ご、ご機嫌よう」
と、愛想笑いを浮かべそそくさとみな去っていってしまう。
誰一人取り繕うこともなく蜘蛛の子を散らすかのように去っていくのだ。
マリエッテの下僕が。
いつもなら我先にと世辞を言う無能達が。
どうなっているの!?
焦りはするが顔に出すことはしなかった。
何時もの上品な笑みを浮かべたままマリエッテはそのまま会場に向かう。
まだあの令嬢達は下っ端の取り巻きの一部にしかすぎない。
自分の益になる領地の令嬢は尽く自分に心酔させ、依存させてきた。
あのような、貧乏領地の娘達など放っておけばいい。
もちろん、あとで経済的嫌がらせはさせてもらうが。
未来の聖女にあのような態度をとったことを心から後悔させてやる。
マリエッテは逃げた令嬢達の背を見つめ心の中で毒づくのだった。
■□■
何故こうなったのだろう。
王家主催の晩餐会で。
裏工作し、レティシャを一人惨めにする予定だった。
もちろん自分が直接手をくだすことなく、周りの者をうまく煽動して、レティシャの社交デビューを惨めな物にするはずだったのに。
蓋を開けてみれば晩餐会で一人遠巻きに距離をおかれているのは自分だった。
なんでこんな事に?
いつもならマリエッテの取り巻き達が世辞をいいに我先にとくるはずなのに。
誰一人マリエッテに近寄って来ないのだ。
自分が裏で手をまわし、わからぬように相手の令嬢を苦境にたたせ、それを救い出す。
そうやって自分に心酔させてきたはずの経済力の高い領地の令嬢までもが、レティを取り囲んでいる。
それに比べどうだろう。
まるで腫れ物に触るかのような扱いでみなから距離を置かれているのだ。
もちろん令嬢だけでなくその場に居合わせた貴族連中も誰一人よってこない。
普段ならお世辞のひとつも言いにくる貴族がマリエッテと目を合わせないように遠巻きにしている気配すらある。
このような事になるなら先に情報があるはずなのに。
放った密偵からその情報はもたらされなかった。
そして、何故そんなことになったのか。
それはそのあとの国王の発表ですぐ知れた。
センテンシア領で砂糖の製造方法を開発した。
共同開発できる領地を募集すると。
砂糖。
現在、ロジャール王国がその製法と原料を独占し、莫大な富を得ている。
その砂糖利権に絡めるとなれば、誰でも媚をうるだろう。
だが、問題はそこではない。
マリエッテは自分が青ざめていくのが自分でわかった。
そう。
問題なのはその事実をマリエッテが知らなかった事にある。
大して大きくもない領地の令嬢達まで群がっているのを見れば、その情報は誰にも行き渡っていたとみるべきだろう。
それなのに――多くの密偵を放ち、情報を網羅しているはずのマリエッテにその情報がもたらされなかったのだ。
それが意味することはすなわち。
青ざめながらレティシャの方に視線を向ければ、彼女はこちらに微笑んだ。
かつてマリエッテがレティに向けていた、哀れみを含んだ笑みを。
マリエッテは悟った。
レティシャ・エル・センテンシアもまたループの記憶を所持し、そして自分を潰しにきたのだと。











