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第59話 マリエッテ視点1

「レティシャ・エル・センテンシアが第一王子の第三妃候補に?」


 マリエッテ・シャル・グランベルタは彼女の腹心である男に聞き返した。

 ここはマリエッテの滞在する王都の別邸。マリエッテの自室である。

 力のある領地は滞在期間中のために貴族の区画に別邸をもっている。

 グランベルタ邸はその中でも王都で一、二を争う豪邸といっても差し支えないだろう。

 煌びやかな装飾の施されたその屋敷でマリエッテは密偵の報告を聞いていた。


「はい。間違いありません。

 第一王子派に潜ませていた密偵の報告です」


「――そう」


 と言ってマリエッテは椅子から立ち上がった。

 何故この時期に?


 前世では第一王子との婚約など話にもなかったはずだ。 


 マリエッテは3歳の時。何故か前世を思い出した。

 前世ではマリエッテの父が第一王子をダンジョンで殺し、マリエッテがレティに冤罪を着せ殺した。

 そしてマリエッテの操り人形状態の第二王子が実権を握り国王になると喜びに浸っていたその時に、異世界より来た女に邪魔される。


 全ての精霊王に加護をもらい、聖女となった少女「クミ」に。


 クミはレティを殺したマリエッテを許さなかったのだ。

 第一王子を殺した罪をあばかれ魔族と通じていることを暴露され国民の前に引きずりだされた。

 そして第二王子とマリエッテは捕らえられ死刑を宣告される。

 けれど何故か死刑を待つその牢獄で。

 いつも歴史が巻きもどる。

 それを繰り返していた3歳の時に思い出したのである。


 今度こそうまくやる。


 異世界から来た女「クミ」がこちらの世界に転移したばかりを狙って殺す。

 右も左もわからない転移したばかりのクミなら魔術も扱えないはずだ。簡単に殺せるだろう。

 だからこそクミが育ったという村には自分の手の者を多く配置してある。

 クミを殺せばマリエッテを脅かす存在などいなくなるはずなのだ。



 なのに――現実はうまくいかなかった。


 記憶を思い出した事で、前世と違う行動を取ってしまったせいなのか。

 より地盤を固めようと、前世の記憶を武器にみずからの領地の危機を救い、グランベルタ家の害になる領地をどんどん追い込んだせいで歴史が変わってしまったのだ。


 そう、レティシャ・エル・センテンシアが社交の場に一切でてこなかったのである。


 そして何故かセンテンシア領に嫌がらせをしても自力で塩を調達してしまい、いつものように借金漬けにすることができなかった。


 自分の都合のいいように動かすはずのエシャロフ家は野盗に無残に殺され、第一王子につけていた密偵達も何故か取り巻きから外され僻地へと追いやられてしまった。

 これではダンジョン探索の時に第一王子をトラップへと誘えなくなってしまう。

 第一王子が殺せなければマリエッテの予定も大幅に狂ってしまうのだ。


 それに今回は精霊王達を荒神化させることも失敗してしまったかもしれない。

 かもしれない――という憶測なのは荒神を抑える術はマリエッテも魔術師のシャルディスも知らないので放置状態だからだ。

 手はずでは秘密裏に少しずつ精霊王達を荒神が呑み込むことになっている。


 この大陸全ての精霊王を呑み込んだあとにある秘術で捕縛して力を得る手はずになっているのだ。

 シャルディスはその力で不死の加護を取り払い死を望み、マリエッテはその力で聖女となる予定だったのだが……。

 前世ではすでに荒神に呑み込まれているはずの水の精霊王ファランティウスが領主一族に加護を与えたと聞いている。

 マリエッテが歴史を変えてしまったことで前世と歴史が大きくかわってしまい、呑み込む順序がかわったか、それとも失敗したか。


 シャルディスも、もし失敗をしたのなら王都から自分が出れば即他領地の精霊王に捕らえられ死ぬことのない身体でずっと拷問をうけることになる。

 順序がかわった可能性もある待つしかないと、王都で身を潜めたまま調査にもでない。


 こんな事ならレティを殺すまでは大人しく前世と同じ行動をとるべきだったとマリエッテは内心舌打ちした。


 前世でレティの評判を落とし、騙し殺した。

 あの快感をもう一度味わえる。


 今度は自分の徳を高め、もっと惨めたらしく、民衆に恨まれるように誘導し、民衆に襲わせて殺すつもりだったのに。

 欲を出したことで運命が変わってしまった。



 いつもそうだ。

 あのレティシャという女が自分の前に立ち塞がる。

 あの女が居る限り自分はいつも二番手だったのだ。

 社交の場でも学園でも。

 いつも脚光を浴びるのは彼女だった。


 それでも自分は第二王子がいると慰めてきたのに第二王子がレティシャに好意をもっていたと知った時のあの絶望。


 今でも忘れない。たかが貧乏領地の小娘如きがなぜああもチヤホヤされるのか。


 だから胡散臭い魔術師と手を組んだ。

 そして第二王子も誘惑で自分の思い通りに動く操り人形にすることができた。


 それなのに。

 殺してやったと思っていたのに、結局レティを殺した事で今度はレティを慕っていた異世界人に自分は裁かれる。



 みんなレティ・レティ・レティと!!!



 そして今度は第一王子の妃候補?

 第一王子は精霊王の加護もちだ。操れない。

 だからこそダンジョンの内部で父が殺したのだ。

 もしダンジョン探索で第一王子を殺す事に失敗すれば、立場も地位もまたあの女の方が上になってしまう。


 許さない。それだけは絶対に許さない。



 マリエッテは心の中で呪文のように唱える。


 今まではセンテンシア領にいたため手をだせなかった。

 あそこは陸の孤島で部外者が入り込む余地がなかったからだ。

 だが王都では既にマリエッテの方が地位が盤石。


 第一王子の妃候補と言ってもまだ婚約段階。

 第一王子の妃候補になりたがっていた令嬢をそそのかせば嫌がらせができる。


 マリエッテは心の中でほくそ笑むのだった。

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