表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/113

第57話 飛行機の提案

『ふむ。飛行機か』


 あれから、私は精霊の森に一人でこっそり来ていた。

 精霊王様にこれからおこるであろう技術革新を説明してたのだ。

 私がやらなくても、いつかは誰かが作るだろうし。

 それくらい便利な魔道具は一杯あるのだ。理論がわかれば簡単に作れる。

 特にクライムさんとかラディウス様とか一度頭のいい人が発想を得てしまったら、開発はそう遠い未来じゃない。

 ゲームの呪縛が解けた時点できっと科学は大きく進む。


「はい。恐らく魔道具で本気でつくればそれなりの速度が出せるようになります。

 精霊王様の領地で犯罪をおかしても、すぐに飛行機で他の精霊王様の領地に逃げられてしまう可能性も」


『……たしかにな。

 荒神の件で我らも痛感した。

 横のつながりは必要だ。

 今まで他の守護地に無関心すぎたのだ。

 我らも定期的に連絡を取り合うなど対策を考えるべきだな』


 人間の姿で精霊王様がふむと頷いた。


『飛行機についてはほかの精霊王達と協議しよう。

 我らに害があると判断されれば、作るのすら禁止になるかもしれぬが。

 それにしても聖女になるとは本気なのか?』


 精霊王様に問われ私は頷いた。


「なれる条件を教えていただけると」


『条件は十分だ。

 魔力も申し分ない。

 あとは精霊王に認められるだけだからな。


 ……にしても加護すら拒んでいたお主が聖女にとはどんな心変わりだ?』


 と精霊王様にも言われてしまう。

 ですよねー。逃げる事しか考えてなかったから。


 私はマリエッテの事を事細かに説明した。

 精霊王様は無言で聞いていたが


『成程な。

 お主が聖女になるというのなら我らも王都へと行こう』


「え?どういうことですか?」


『知らないで聖女になろうとしていたのか?

 聖女は精霊王を召喚できる。

 我らも聖女がいるならその地から離れても力を行使する事ができるのだ。

 本来精霊王とはいえ、守護する土地以外ではその土地を守護する精霊王が許可しなければ力がだせない。


 だが聖女に召喚されれば、他の地域でも力がふるえるようになる。

 聖女の側でのみという限定だが』


「そ、それ凄いじゃないですか!?」


『うむ。我らとしては守護地に縛られず自ら調べにいける。歓迎するべきなのだが。

 連れを誰も連れてこなかった所を見ると反対されているのであろう?』


 精霊王様に聞かれて私は頷いた。

 皆最終的には私の意見を尊重してくれるとは言っているが、本音は反対なのがなんとなく伝わってくる。

 それでも。

 私は聖女になろうと思う。

 

 自分であるために。



 精霊王様にそれを話せばふむと頷いて


『わかった。

 だが、我からすれば尤もな理由ではあるが。

 あの者達が反対するにはそれなりの理由もあるのだろう。

 よく考える事だ。

 人間には人間なりの(しがらみ)があるのだろうからな』


「わかっています。

 でも決めた事ですから」



 マリエッテが元凶だというのならマリエッテを全力で叩きのめすまで。

 富も権力も全て利用して。

 でなければこちらが殺られる。

 かつてレティがそれで殺されてしまったように。

 モニカが貴族の身分を返上しなければならなくなったように。

 結局権力も富もなければどんなに冤罪を叫んでも、吟味されることすらなく裁かれてしまう。

 最後に勝ち得るのは富と力なのだ。


 だからもとう。

 迷うことなくその力を。


 私が言えば精霊王様が目を細め


『いい返事だ。なら何も言うまい。

 聖女になるのならば人間ごときがお主に手を出せぬようにするのは可能だ。

 好きにすればいい』


 と微笑んでくれる。


「ありがとうございます。……それであの精霊王様」


「ふむ?」


「一つお聞きしたいことが」



 ■□■


『魂を別の身体に入れ替える?』


「……はい。その死んだ人の体とか誰にも迷惑のかからない方法であるのかなーって」


 私が聞けば精霊王様が目を細め


『出来るか出来ないかの話なら可能だ。

 我でも呪文一つですぐできる。

 だがお主がやるというならやめておけ』


 まるで見透かされたように言われ私はぐっと言葉を呑んだ。

 昨日は諦めたと自分に言い聞かせたけれど。

 やっぱりこのまま親子の関係で終わりたくないと願ってしまうのは私の我侭なのだろうか。


『まず魂が不安定なお主が更に別の身体に乗り換えれば、今度は新たな身体に刻まれた記憶が魂を書き換えようとするだろう。

 死した体にも記憶は残っている。

 現世の穢れを天上に持ち込まぬよう記憶を身体に捨ててくるのだ。

 よって生きている人間以上に記憶が身体に刻まれている。 

 そんな身体に入り込めばお主という存在そのものが更に薄まる。ただでさえ魂が混在している状態なのだ。

 下手をすれば身体の記憶に乗っ取られる。

 それは望む所ではないのだろう?』


「そ、それは嫌です」


 私はガクリとうなだれた。


 自分を取り戻したくて身体を替えたいのに、自分をなくしてしまうのでは全く意味がない。

 それにこのカルロさんへの気持ちもなくなってしまっては、本当に好きだったのか家族の愛だったのかも確かめられない。


『それほどその身体は不便なのか?』


 精霊王様に聞かれ、私は首を振った。


「いえ、もし死んだ人の身体なら自分を取り戻せるかなぁと」


『ふむ。なら時空の精霊王に会えれば解決するかもしれぬ』


「え?王都の精霊王様?」


『元々お主の身体の持ち主が行使したのも時空の精霊王の魔法だ。

 あやつなら戻し方もわかるかもしれぬ』


「ほ、本当ですか!?」


『ああ、ただ少しきがかりな事がある』


『きがかり?」


『本来居るべき場所に精霊王がいないのだ。

 誰も行方がわからぬ。

 我らも探しに行きたかったのだが、お主が聖女になってくれるならありがたい』


「えーっとそれってつまり」


 私の言葉に精霊王様がにっこり微笑んだ。

 それはもう悪い笑みを。



 なんだかやっぱり利用されてるだけの気もするけれど、そこはこちらも精霊王様の権力を利用しようとしているのでお互い様ということで。



 ■□■


「じゃあ、本当に聖女になる気持ちに変化はないんだな?」


 あれから一ヶ月たち、セクターさんの言葉に私は頷いた。


「いいのですか!?

 今までのように野山を駆け巡ったり、木に登ったり、寝そべったり、つまみぐいしたり、授業をサボったりが出来なくなる可能性があるのですよ!?」


 と、ミレイユ。

 ミレイユの私への評価が6歳時点で止まっている気がするのは気のせいだろうか。

 最近は授業さぼっていないのに。


「大丈夫。もう覚悟を決めたことだから。

 それにそんな事言う外野は気にしないし」


 そう。聖女だからと何でもしてもらって当然とブツクサ文句を言ってくる連中など気にしなければいい。

 全員を救うとか無理に決まっている。


 立ち止まらない。振り返らない。前を向こう。


 自分が守りたいものだけ守って何が悪い。

 神様でも無理な事をたかが聖女ごときがなんとかできるわけがない。



 聖女だから人類に尽くせとかそれこそ世界の中心が人類だと過信している人類が傲慢なだけじゃない。

 私は世界のためじゃなく、私のために聖女になる。


 わがままな人間で結構。批判を恐れて何もしないのだって結局同じことだし。

 だったら力を持って好き勝手出来る方を選べばいい。


 力強く頷けば、カルロさんが手を差し出してくれる。


「分かった。それじゃあ行こうか。

 レティ」


「はいっ!」


 そう言って微笑むカルロさんの手に私は手を置くのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

■□■宣伝■□■
★書籍化&漫画化作品★
◆クリックで関連ページへ飛べます◆

表紙絵

表紙絵

表紙絵

表紙絵

表紙絵

表紙絵

表紙絵
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ