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第56話 必要なのは力

「聖女になるって本気ですかお嬢様!?」


 王都からセンテンシア領の屋敷に帰って精霊王様に聖女にしてもらうと話した時のミレイユの一声がそれだった。


「うん。もう決めたことだから」


 私が言えば


「ちょ、ちょっと待ってください!

 いままでの、目立たず関わらず、安全にをモットーとしていたお嬢様が急にそんな事を言うのはおかしいです!

 あの王子に何かそそのかされたんじゃ!」


 と、顔を近づけてきた。

 確かにいきなりの方向転換にミレイユだって戸惑うかもしれない。


 けれど、私の中でもう決まった事だ。


 マリエッテと闘う。

 本来の私ならそうしたと思う。

 だからこれは本来の私を取り戻すための戦いでもある。


「なぁレティ。

 ミレイユの言ってる事もあれだが、確かに王都で王子と一緒にいる時間が長かった。

 王子にそれとなく誘導されてたりはしないよな?


 もちろんお前の決めたことなら俺らはちゃんとついて行く。

 でもな、いくら本来の精神が大人といってもまだ子供の体で幼い部分があるんだ。

 王子の話に影響されて操られてる可能性も考えて、なるにしても王子から離れて少し時間を置いてからのほうがいい」


 腕を組みながらセクターさんが言う。


「聖女になるということは、一生その責務を背負っていかなければいけない。

 今まで君が望んでいた自由な暮らしができなくなる。

 それを諦めてまで、どうしてその結論に至ったのか教えてもらうことは出来るかい?」


 カルロさんに聞かれ私は頷いた。


 マリエッテがループを憶えている可能性が高いこと。

 ループしているのを覚えているのならば、荒神化させた魔術師をマリエッテが囲っていてもおかしくない事。

 そしてレティにマリエッテが異常に執着していて嫌がらせしてくる可能性が高い事。


 むこうがループを覚えているのなら何も対策をとらなければ第一王子の立場をも危うくする何かをもっているかもしれない可能性。


 万が一に第一王子が何かの不祥事で追い込まれ、第二王子が王位についてしまえばこちらに確実に嫌がらせをしてくる。


 だから、自分が聖女になって自分の身を守れるようにするのと同時に、第一王子が確実に王位つくように聖女様の後ろ盾をつけたい。


 私の説明にカルロさんは頷いて


「理由はわかった。

 君の言う話はもっともだと私も思う。

 ただ、やはり時間をおこう。

 少し王子と会わない状態で、それでもまだ君の考えが変わらないというのなら君に任せるよ」


 と言って微笑む。


 私が周りの意見に流されやすいのを考慮してくれてるのだろう。

 自分でも確かに流されやすいと思うけれど。

 今度の意見は違う。私が決めた事だから。


「……にしてもお嬢様が聖女ですか……あの野山を駆け回ってたお嬢様が。

 あまりにもお転婆すぎて家庭教師を三人も辞めさせたあのお嬢様が」


 ブツブツとミレイユが言い


「まぁ、その言っちゃなんだがガラじゃないよな」


 と、失礼な事を言うセクターさん。


「いいの!こー黙って、手をあげて微笑んでればなんとなくすみそうだし!」


 私が言えば


「もうその発想がダメだろ。

 サボる気満々じゃないか」


 と、セクターさん。


 くっ!?それはそうだけど!!

 私がたじろいでいれば


「フォローは勿論するよ。

 でも最低限の礼儀作法はこれからは覚えないとね?」


 と、ニコニコ顔で言うカルロさん。


「まずは作法からですね。

 立ち振る舞いに歩き方。

 聖女となるからには覚えなければいけないことがたくさんありますよ?」


 ニッコニッコ顔で言うミレイユ。

 

 うっ……。


 それはちょっと嫌かもしれない。



 ■□■


「眠れないのかい?」


 夜。眠れなくてバルコニーで何となく外を眺めていれば、カルロさんが声をかけてきた。


「少し夜風にあたりたくて」


 私が言えばカルロさんが私の隣に立ち、一緒に外を眺める。

 

 隣に立たれるだけでドギマギしてしまって仕方ない。

 本当に第一王子には変に意識することになった責任をとってほしい。

 このまま黙ってしまっていては余計に意識してしまいそうだったので


「セクターさんもお父様も本当は聖女になるの反対なんだよね?」


 なんとなく聞いてみる。

 カルロさんは少しはにかんで


「うん。君の今までの性格を考えるとね。

 確かに君の言うとおりマリエッテ嬢相手なら君が言う選択肢が正しいのかもしれない。

 けれど精霊王様の力が借りられるのだから他にも選択肢はあるはずだ。

 マリエッテ嬢の件が片付いても君にはずっと聖女の肩書きがつきまとう。


 人間は不思議なものでね。

 精霊王様という途方もない存在には、不満を抱かないけれど。

 聖女となるとまた話は違ってくる。

 手の届く存在だから。

 言葉の通じる存在だからかはわからない。

 なぜ力があったのにあの時助けてくれなかったんだと理不尽な恨みを君は買う事になる。

 でも君は聡い子だ。

 勿論それは覚悟の上で言っているのだよね?」


 カルロさんに言われ私は頷いた。

 覚悟の上だ。


 第一王子だって絶対信用できるわけじゃない。

 マリエッテがループを覚えていたように、他にも予想のつかない人物がループを覚えていて第一王子を失墜させるかもしれない。

 第一王子の庇護がなくなれば、やはりこちらが不利になってしまう可能性だってある。

 何かを守りたかったら自分も力をもたないと。


 これから歴史は私の知らない歴史に動きだす。

 今までは前世の記憶があったから有利に物事をすすめられただけだから。

 力をもっていなかったばかりに皆を失う事になるとか絶対嫌だもの。


 それに……


 私はチラリとカルロさんを見る。


 いつまでも保護されている立場では隣を歩けない。

 身体が親子である以上、この想いを伝える事なんて出来ないのだから、せめて、おんぶに抱っこではなく隣を歩けるような存在になりたい。

 子供としてではなく一人の女性として扱ってほしいと切に願う。


 中身は大人だ。もう子供じゃない。



「そこまでわかっているのなら、君が選んだ道を私はついて行くよ。

 それが約束だから」


 そう言って微笑み手を差し出すカルロさん。


 私はその手を受け取ると、カルロさんは屈んで私と視線をあわせた。


 どきりとしてしまうが、なるべく平常心を心がける。


 うん。親子だもの何も恥ずかしいことじゃない。


「……ただね。

 最近の君は少し無理をしているようにも見えるんだ。

 何か困っている事があるんじゃないのかい?」


 真剣な瞳で見つめられ、私は息を呑んだ。


 ――あなたのことが好きなのかもしれない――


 言える事のない悩み。


 ――でも。


「本当に言ってもいいの?」


 私が言えばカルロさんが頷いた。


 なら。


「カルロさんが好き」


 私が言葉を紡げば、一瞬カルロさんが困った表情をした。

 ほんの一瞬。

 赤の他人なら気づかない本当に一瞬の時間。

 長い間一緒の私だから、気づいたほどの短い時間。


 けれどそれは残酷で。


 私にはとてもとても長い時間に感じた。


 カルロさんにとって私は子供なのだと改めて痛感させられる。


 でも予想はついていたことだもの。


「セクターさんもミレイユも、ラディウス様も。

 皆好き。

 だから誰も失いたくないの。

 私と関わったばかりに平民に落とされてしまったモニカみたいに。

 みんなを不幸にしたくない。

 だから力が欲しい。

 モニカをまた貴族に戻してあげられるほどの地位を。

 みんなを誰にも奪われないような権力を。

 誰かに守ってもらうのではなく、自分で何とかできるその地位と力を。

 誰にも私から大事なものを奪わせない」


 続けた私の言葉にカルロさんが安堵したのが手に取るようにわかった。


 そうこれでいい。


 気持ちを確かめられたのだもの。


 カルロさんにとって私は娘。それ以上でもそれ以下でもない。


 想いはずっと実らない。これがわかっただけで十分だ。


「うん、わかった。

 君らしいね」


 カルロさんがそう言って微笑むけれど、私にはその声がどこか遠くに感じるのだった。

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