第53話 クーデター
「君はよく知っていたね。
私に触れていれば魔法が使えるのを」
未だ白黒になったままの空間で王子が呆れたように言う。
そりゃゲームで第三王子と主人公が手をとりあって発動させてたからね。
術者本人に触れていれば発動できるとゲームでは言っていた。
私たちはまだ王子の空間魔法の中だ。
「一体あれは何ものなのでしょう?」
王子の護衛騎士カシウスさんが聞いてくる。
「ええっと。魔導士のワルフです。
あの男の荷物を調べてみてください。
たぶん魔族の血の入った何かをもっているはずです。
えっとそれで……」
私がチラリと王子の方を見れば
「ああ、彼らは事情は知っているから大丈夫だ。
精霊王様との誓約を彼らもしているからね。
情報が漏れることもないよ」
と、王子。
「……誓約?」
私が思わず聞き返せば
「うん?聞いてなかったのかい?
私たちはダンジョン探索が終わるまで防御の加護をもらうかわりに君とセンテンシア領に不利益になるような事は出来ない。
破ればそれ相応の罰を受けることになる。
もちろんこちらは一生契約だ」
うん。聞いてなかった。
なんだろうその私に物凄く都合のいい契約。
次期国王が味方とか。
流石精霊王様がバックにつくと違う。
ありがとう精霊王様&カルロさん!
「よくその条件を飲みましたね」
私が呆れていえば
「うん?
私達に何か不利益があるかい?
ここにいる皆ダンジョン討伐で餓死する運命が待っている。
仮にダンジョン討伐から無事に帰ってきたとしてもだ。
君がいることで歴史が変わっているのだとしたら、君に万が一のことがあれば、本来なら死ぬ予定だった者達に強制的に死がこないともいいきれない。
加護をもらえなかったとしても君に不利益になるような事をする気はないからね。
私たちにはメリットしかない」
後ろで他三人の騎士さんたちも頷いている。
「でも、もし私が王位をよこせとか暴走したらどうするんですか?」
私が王子に聞けば、クスリと笑って
「言うのかい?
君の場合面倒でやらないと思うけれど。
君は常に悪い方向ばかり想定して行動しているからね。
気苦労と重圧ばかりの王位とか望むとは思えないのだけれど?」
と、的確に私の性格を言われてしまう。
うううう。
くそう。反論できない。
「た、確かに。
王位とか絶対嫌ですけど、私が無理難題をふっかけるとかそういう
こーなんていうかもう少し危機感を」
私が手ぶり身振りで反論すれば、男装したミレイユが大きくため息をつき、他の騎士さんたちも笑いをこらえている。
な!?なんで!?
物凄く真面目な話をしているのに!
「君なら大丈夫だろう?
これでも人を見る目はある方だから。
そんな事をいちいち指摘してる時点で野心なんてないだろうし。
それにあまり無理難題だった場合は精霊王様が仲裁してくれることになっている」
と、王子からも笑われてしまう。
ううう。
流石保険はキープしてるのね精霊王様。
「それにメリットはこちらの方が大きいよ。
精霊王様達に愛されている君を保護するということは精霊王様達も力を貸してくれる。
王位継承にも力を貸してくれるそうだ。
君が聖女になって後ろ盾になってくれるなら帝国を凌ぐのも夢じゃない
ついでだから聖女もやってみないかい?」
「聖女?誓約者とは別物なんですか?」
「ああ、精霊王様に寵愛を受けるとなれるとされている。
最後に聖女が確認されたのが500年も前の事でね。
あまり文献が残ってないのだけれど、聖女の方が誓約者よりもずっと精霊王様との立場が対等だと言われている」
「なるほど」
「もしかしてなってくれるのかい?」
王子がニッコリ微笑むので
私は首をブルブル振ると王子は肩をすくめた。
「それは残念。
それで、あの男は一体何なんだい?
君が反応したということは、重要人物なのだろう?」
と、凍り漬けになった男に視線をうつす。
……うん。確かに話がそれた。
「はい。
本来の歴史だと、王子が死んだあと、第二王子が王位を継ぐと言われていましたが、第二王子派の悪行が暴かれます。
そして王位継承権が第三王子に移った所で第二王子派のあの魔導士が国家転覆を狙って騎士達を操りクーデターをおこします。
食事に魔族の血を毎日少しずつ、鑑定で検出できない量をまぜ食べさせて、操る予定のはずです」
そうヒロインちゃんが精霊王様達を助けた事によりヒロインちゃんと懇意にしている第三王子に注目が集まる。
しかも荒神を誕生させたのが第二王子派の一人だった事により権威が一気に失墜し、第二王子は捕らえられクーデターをおこすのだ。
「……それは思った以上に深刻だな」
「でもおかしいです。ゲームではあの魔導士が動くのはもっと後のはずなのに」
そう、ゲーム上では「この一年毒を仕込んでおいたのさ!」と、ペラペラと説明していた気がする。
その話でいくとまだゲームすら始まっていないこの時点で行動するのはおかしいと言うことになる。
「……ふむ。
とりあえず持ち物を調べてみよう。
もし魔族の血をこの男が持っているのなら、兵士達を操って私を殺す手はずなのかもね。
……これはダンジョン討伐前に第二王子派を片付けておいたほうがいいかもしれない」
王子の目が最初会った時の物凄く冷酷なものに変わり、私はゾクリとした。
うん。それだけ悲惨な目にあってたんだものね。
そりゃ、そうなるのも仕方ないかもしれない。
いくら精霊王様の加護でご飯食べなくてもお腹減らないとかいわれても同じ目にはあいたくないだろう。
「第二王子派を潰すのにいい土産ができたよ。
ありがとうレティ」
微笑む王子の顔はいつものように見えたけれど、立ち込めるオーラはまったく別のものだった。
うん。怖い。
「あの……第二王子派を潰すってことはマリエッテも?」
私がおそるおそる聞けば
「ああ、君の話だとかなり重要人物らしいからね。
……にしても、王位につく前に始末するには何か理由をでっちあげないと……」
と、何やら物騒なことをブツブツ言い出す。
目が怖い。マジ怖い。
「君に嫌がらせをした証拠なら手に入ったのだけれど。
こちらへの嫌がらせの証拠はなかなか掴めなくてね。
この男もどこまでつながりが証明できるか……」
と、ため息をつくのだった。











