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第50話 過大評価


「この間は申し訳なかった。お詫びと言ってはなんだけれど食事でもどうだろう?」


 そう言って中身が王子のシェールさんが現れたのは3日後のことだった。

 ニコニコ顔で馬車で私を迎えにきたのだ。

 ちなみにカルロさんは王宮に行っている。

 というのもフリーズドライだの砂糖だのいろいろ内容を詰めないといけない話が多いらしくまだ終わってないらしい。

 うちの領地も本格的に生産に乗り出すけれど、人の流入と無理なおしつけがないように取り決めててくれるとか。

 なので今日もセクターさんも一緒にカルロさんと王宮だ。

 私の後ろにはミレイユが何時もの通り控えていてくれている。


 にしても……前々から気になっていたのだけれど、この王子暇なのだろうか。

 王子としての仕事はどうなっているのだろう。

 今頃本物のシェールさんの王子が忙しなく働いていることなのだろう。

 実は本物シェールさんの方が王子歴長いです!(キリッ)とか言われても驚かないよ。本気で。


「いえ、私こそ。

 せっかく案内していただいたのに」


 と、謝れば


「いや、気にしないで。

 クライムが失礼な事を言ったようだしね。

 長旅で疲れてるのにすまなかった。

 今日はお詫びなので食事だけでもどうだい?

 いい肉が手に入ったんだ」


「いいお肉?」


「そう、ランダリムのダンジョンにいるモウレットの肉なんだ」


「聞いた事あります。

 凄く美味しいって。

 でもすごく高いはずじゃ」


 私が言えば王子が微笑んで


「お詫びだから。

 値段は気にしなくていいよ。

 にしても、君は庶民的だね。

 ああ、悪い意味じゃなくて、もちろんいい意味でだ。

 君なら遠征隊の食料を任せても大丈夫そうだ」


 と言ってニコニコと笑う王子。


「元は平民ですから」


 答える私。

 どうせ貧乏性ですよ。


「あ、そうだ。

 庶民的で思い出しました。

 あとで遠征隊に行く人たちがよく食べているものを教えてもらえますか?」


 私の問いに王子が?マークを浮かべ


「いいけど。どうしてだい?」


「ダンジョン攻略って1、2ヶ月かかるのですよね?

 その間にやっぱり慣れ親しんだ味があると違うと思いますから。

 外国に行って美味しい料理ばかり食べてても、ふと故郷の味が恋しくなる感じで」


 私の答えにシェールさんが一瞬驚いた表情をして次の瞬間暗くなる。


「……?シェールさん?」


「いや、ああ、ごめん。何でもない。

 確かにそうだね。

 私も死ぬ間際によく食べていた騎士団の食堂の料理をよく思い出していた。

 特に美味しかったわけでもないけれどね。

 よく訓練の合間に食べていたんだ。

 やはり最後に恋しくなるのは慣れ親しんだ味なのかもしれないね」


 と言って自嘲気味に微笑んだ。


 ……ああ、そうか。


 王子は何度も餓死してるんだ。

 食事に対してはいろいろ思うところもあるのだろう。

 いつも本当に美味しい美味しいと食べてくれるのもそこらへんが関係してるのかもしれない。

 その食料を私に任せてくれるということは信頼してもらっていると思ってもいいのかな。


「シェールさん」


「勝手に感傷的になっただけだから気にしないで。

 さぁ、行こうか」


 そう言っていつものニコニコ笑みに戻るのだった。


 ■□■


「美味しい」


 王子の紹介してくれたレストランはとても美味しかった。

 焼いたお肉料理がメインなのだけれど。

 口の中でとろけるような柔らかさで肉汁がぶわぁっと広がる。

 牛肉っぽいけどトロな感じもしたりこくと甘味がある。

 うん、料理レポーターじゃないからあまり美味しさを伝えられないけれど。

 日本にいたときでもこんな口の中でとろけるようなお肉は食べたことがない。

 よくテレビで飲み込める!とか言うのを嘘だと思って見ていたが、マジで口の中で溶けるような肉というのは存在するらしい。

 モンスターのモウレットというお肉でとってもいいお値段なのだとか。

 他国のダンジョン産で、わざわざ冷凍でこちらに持ってきている。

 冷凍にしてもってくるという事は氷系の魔導士をそのためだけに雇っていることになる。

 冷凍の魔道具を使うにしても定期的に氷系の魔導士が管理しないと冷凍効果が切れてしまうからだ。

 だから、それなりに輸送費と維持費にお金がかかるということで。

 つまるところ高級レストランなのだろう。

 添えられた野菜とかスープとかも全部上品な味で美味しい。

 素材だけの素朴な味に絶妙にスパイスがきいている。

 うちの領地の濃い味付けの料理とは全然違う。

 お上品な味というか、濃い味に慣れてしまった私にはちょっと足りなくもあるけれど、素材の味が美味しい。

 


「それはよかった」


 個室なような場所で、向かいに座った王子が嬉しそうに微笑む。


「ダンジョン産の肉は貴重品でね。

 恐らくうちで発見されるダンジョンも新種のモンスターがいるだろう。

 今までの傾向でいくと地下5Fのダンジョンのモンスターは美味なはずなんだ。

 今から楽しみだよ」


 と、王子。

 うん。なんだかこういう話を聞くとやっぱりゲームの世界なんだなぁと改めて実感させられる。

 攻略パターンがやっぱりあるんだろう。


「興味本位で聞くけれど、もし君だったらこの肉はどうやって料理するんだい?」


 王子に聞かれて口ごもる。

 

「シェール様は勘違いしてますよ。

 私は別に料理は上手じゃありません。

 こんな美味しいお肉なら塩焼きが一番美味しいと思いますよ」


「そういうものかな?」


「そうです!

 私はやっすい食材を味付けの濃いタレやスープでいかに誤魔化すかが得意なのであって、いい素材を美味しく料理するなんてプロみたいな事はできません!」


 どーんっと胸を張って言えば


 後ろでピキピキと何故かメガネが割れそうな怒りオーラをまとわせたミレイユがいる。


 ……やばい素がでてしまった。


「なるほど」


 感心したのか王子が頷いて


「常にコストを考えているとは偉いと思うよ。

 貴族にはあまりない視点だからね。

 確かにフリーズドライのコストを抑える事は必要だからね」


 と、違った方向で感心してくれた。

 ただ単に貧乏性なだけだとはとてもじゃないけれど言えない。


 この世界の人たちって勝手に過大評価してくれるから助かるっていえば助かるかもしれない。

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