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第47話 自覚

 あれからクライムさんに置いてある魔道具の説明を一通り受けているのだけれど、正直、魔道具の方はあまり頭に入ってこなかった。

 凄いことには凄かったのだけれど。

 何故ヒーロー予定と遭遇してしまったのかの方に思考がいってしまい全く入ってこない。


「……聞いているか?」


「は、はいっ!?」


 考え事をしているのがバレたのかクライムさんに突っ込まれる。

 すでにシェールさんはゆっくり説明を受けておいでーと私とクライムさんを残しどこかに行ってしまい、私はミレイユ、クライムさんと3人で歩いていた。


 ミレイユが後ろで頭を抱えてる図が想像できる。

 あとできっと怒られるだろうな。

 

「え、えっと聞いてました!」


「……そうか、ならいい」


 と言ってクライムさんは視線を別の方向に向けると


「一つ聞いていいか。レティシャ」


「あ、はい?」


 周りに警備の兵士がいないのを確認でもしているのかあたりの気配を探りながら聞いてくるクライムさんに私は固まった。

 やばい。別にヒーローに断罪されるゲームでもなんでもないので警戒する必要なんてないのだろうけれど。

 ゲームキャラなだけに変な死亡フラグが待ち構えてるんじゃないかと警戒してしまう。


「何故、君は車を世に発表する気がないのだろうか?」


「え?」


「シェールに見せてもらったが、あれは便利だ。

 君が書いた図案のトラクターやトラックなるものがあれば、畑の作業効率もぐっとあがる。

 確かに君の危惧するとおり人も殺せる事になってしまうが、馬車は馬が興奮したり抑制が効かなくなって暴れる事故も多い。

 その度街中で事故もままある。

 そういった事故は防げるようになるので悪いことばかりではないだろう」


 と、クライムさん。


 ……あんのぉ王子。

 こっそり私の書いたメモ全部書き写してたのか。


「タイヤは他のもので代用すれば街中では十分使えるものだ。

 普通の者なら我先にと発表するだろう」


「……そうかもしれませんけど。

 急な科学の進歩は世の中をダメにします」


「それは君の世界の教訓なのだろうか?」


 クライムさんに聞かれ私は口篭った。

 王子め。そこまで話してるとか。

 まぁ、精霊王様とカルロさんと話し合った結果誰にどこまで話していいかは決めてるんだろうけれど。

 それだけ王子に信頼されてる人物なんだろう。


「……はい。

 そうです。急激な科学の発達は、それにともない戦争規模も大きくなります。

 科学が進みすぎるのが必ず幸せだとは思いません。


 だからこちらの人が思いついて科学が進むならともかく、私がしゃしゃり出るのは違う気がします」


「……ふむ。それがわからないのだが」


 私の答えにクライムさんが顎を撫でながら


「君はその技術の進歩がどんな弊害をもたらすのかを知っている。

 ならば、精霊王様とも国を継ぐことになる第一王子とも懇意にしている君ならそれを防ぐ法律やルールを作れるはずだ。

 闇雲にこちらの世界の住人が作り出して、それに伴う不利益を考えずに事故を起こすよりも被害は軽いだろう。

 精霊王様のお怒りをかう事もない。


 私から見ると危険視するならば、今君が作り出し、危険性を国や精霊王様に伝えた上で、開発するべきだと思うが。

 違うだろうか?」


 クライムさんに言われて、私は固まった。


 考えてもみなかった……確かに。クライムさんの言うとおりだ。


 精霊王様にどこまで技術を発達させていいか聞けて、私が言えば第一王子なら法律もちゃんと作ってくれるだろう。

 言われてみれば確かに私が作るのが一番いいのかもしれない。


 でも、もしその法に不備があったら?

 私の世界だってまだ車の事故はいっぱいあるし、特に頭のよかったわけじゃない私が完璧な法なんてつくれるわけがない。

 問題があったとき。車の事故でたくさんの人が死んだとき。


 私のせいになったら?



 ああ、そうだ。

 科学の進歩が、なんて単なるいいわけだ。

 怖いんだ。


 責任を負うのが。

 失敗するのが。


 趣味で好き勝手やるのはいいけれど。

 世界中に広まって戦争とか起きたら自分のせいと責められてるみたいで嫌なんだ。

 

 誰かが何か言ってこなくても、私は自分で勝手に自分をウジウジと責めるだろう。


 それが怖いから、だから便利になるのに発表しない。


 怖いくせに、無責任に作って王子にバレてしまった。

 でも心の中で王子にばれたのは私のせいじゃないと思っていたから、王子にあげるのを承諾してしまった。


 怪我や病気を治せる力が手に入るのに手に入れないのと同じ。


 私は誰かに責められるのが怖いだけの臆病者だ。

 責任を押し付けたいのだ。



「レティシャ?」


 クライムさんに聞かれて私は気づく。


 涙が勝手に溢れだしていた。


 でも、それの何がいけないんだろう?

 自分じゃない身体に無理矢理入れられて。

 この世界のために貢献しないと文句を言われる筋合いがあるだろうか?


「私はこの世界のためにそこまでしないといけないの?」


 つい、声にだして言ってしまう。


「え?」


「好きでこの世界にきたんじゃない!

 なのに私はこの世界のためにそこまで尽くさないといけないの?

 一生懸命考えても私は頭良くないもの!!!

 考えた事が間違ってて、もしそれで悪い方向に進んだら、責任は誰がどうとるの!?

 人がいっぱい死んじゃったらどうするのっ!!!!

 取り返しのつかない事になったら私はどうすればいいのっ!!!」


「……レティシャ?」


「私はっ!!

 私はこの世界の為に生きてるんじゃないの!!!

 そんな責任押し付けられるなんて絶対嫌っ!!!!」


 叫んで、私は走り出した。


「お嬢様っ!!!」


 後ろからミレイユが追ってくる。



 最低だ。


 私の悪いところを見透かされた気がして。

 物凄く馬鹿にされた気がして。


 クライムさんに叫んでしまった。

 彼はそこまできっと考えてなどいなかった。

 責任まで私のせいにする気などなかったのに。


 でも。

 日本では本当に一市民でしかなかった私が、いきなり国の中枢に関わって、大きな責任をもとれとか言われても。

 私にそんな度胸も覚悟もない。

 普通に暮らせていければいい一市民の立場でいいのに。

 なんで貴族になんて生まれ変わってしまったのだろう。


 好きな事はしたいけれど、責任はとりたくない。


 自分の一番醜い部分を、自覚させられて、私はどうしようもない怒りにその場を逃げ出してしまうのだった。

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