第44話 ダンス
「ダンスの練習?」
屋敷の一番ひろいホールのような場所で。
カルロさんが私の手を取りながら頷いた。
あれから王都に少し早めに行くことが決まり、何故かカルロさんにダンスの手ほどきを受ける事になった。
「うん。君をそういった場所に連れ出すつもりはないけれど。
王都では何があるかわからないからね。
いきなりダンスに誘われて何もできないのでは、困るだろう?」
と言って微笑む。
確かに、付け焼刃でもないよりはマシだろう。
「大体。旦那様は、お嬢様を甘やかしすぎなのです!
もう少し令嬢としての教養を!」
プンスカというミレイユ。
「いや、でも。レティは元々この世界の住人じゃないんだから。
やりたい事をやらせてあげたいじゃないか。
それにセンテンシア領がここまで発展したのもレティが頑張ってくれたおかげだよ?
彼女にそんな事をしている時間はなかったじゃないか」
と、冷や汗をかきながら言い訳するカルロさん。
ミレイユも確かにそうですけど、でも…とぶつぶつと言っている。
言われてみればこの4年。
訓練に勉強に開発に研究に精霊さんの相手と毎日忙しくて令嬢としての教養なんて学んでいなかった事に気がつく。
そう言えば貴族の令嬢は刺繍とダンスが上手じゃなきゃいけないんだっけ。
どれ一つとして触れたことすらないや。
でもそんな事を練習してる暇なんてなかったから、好き勝手させてくれたのを感謝するべきだろう。
「でも、君はレティの記憶もあるからね。
本来のレティは貴族としての教育を受けていたようだから、一度踊ってみよう。
踊れば踊れるかもしれない」
そう言ってカルロさんが微笑めば、ミレイユがピアノ演奏をしてくれる。
意外。ミレイユってピアノ上手だったんだなんて考えていれば、急にカルロさんに抱き寄せられた。
「それじゃあ踊ってみようか?」
そう言ってちょっと屈んだ状態でイケメン顔で微笑むカルロさんに思わずドキリと胸が高鳴った。
いつも抱きついていたけれど、こんな近くで顔を見るのは初めてな気がする。
ど、どうしようパパなんだから、別に恥ずかしがる事じゃない。
平常心で行かないと!
私がドギマギしていれば
「緊張しなくても大丈夫」
と言ってカルロさんが立ち上がりステップを踏み出せば、何故かつられて身体がそのまま一緒に踊りだす。
身体が憶えているとでもいうのだろうか。
カルロさんにあわせて、身体が自然とダンスを踊っているのだ。
ええええ!?なんだか凄い!
自分で自分にちょっと感動していると、調子にのってしまったのか足をぐきっとしてしまう。
私が傾いて倒れそうになれば
「レティっ!??」
カルロさんにぐいっと抱き寄せられ、そのままお姫様抱っこされてしまった。
「大丈夫かい!?」
「え、いやあの!?」
カァァァァァっと何故か顔が赤くなるのがわかる。
近いマジ近い!?
いや、でもお姫様抱っこなんていままでたくさんあったじゃない。
なんで私は赤くなっているんだろう。
「レティ!?どこか怪我でも!???」
私の顔が赤くなったのを見てカルロさんが慌てるが
「え!?いやっ!!ちがっ!!」
私が何かいいかければミレイユがやれやれとため息をついて
「だんな様察してください」
と言い出した。
え!?察しろって何を!? ちょ!?ミレイユ余計な事は言わないでほしい!!
と私が慌てれば
「目の前でコケればお嬢様だって恥ずかしいに決まっているでしょう!?」
と、突っ込む。
……ああ。そっちね。うん。確かに。
「ああ、そうか気がきかなくてごめん」
とカルロさん。
「あ、うんごめん。大丈夫。
でもその、足くじいちゃったみたいで」
流石に心理的な意味でこれ以上ダンスを続けるのは厳しいので私が言えば
「大丈夫かい?」
「う、うん加護があるから痛くないはずなんだけど。
その気分的にというか」
「ああ、そうだね。
それじゃあ、部屋まで送るよ」
と、そのままスタスタ歩き出す。
ええええ!!いや、そういう事じゃないんだけど!!!
お姫様抱っこのまま運ばれて私はなるべく顔を見ないようにカルロさんにしがみつく。
うん。私はカルロさんの娘でまだ10歳だ。
恥ずかしい事じゃない。
ああ。もう。
あの王子が余計な事を言ったせいで変に意識するはめになったじゃないか。
王子の馬鹿っ!!!
カルロさんを急に異性として意識してしまって、私はお姫様抱っこされながら、心の中で悶えるのだった。