第43話 共通点
『ふむーーなかなか面白い』
リンちゃんも過去を夢で見たという話をすれば白い虎の姿のままの精霊王様が目を細めた。
私たちはいつもの5人で精霊王様に報告に来ていた。
報告はもっぱら私の役目だ。
『我らはそなたの魂のみが檻に囚われて別の時間軸を体験していると勘違いしていたが。
人間の国の王子といい、その少女の話といい。
どうやらこの世界の時間軸そのものが巻き戻っているようだ。
時を巻き戻せる力は精霊王とて持っていない。
もしそのような力を行使ができるとしたら――神のみだ』
時間軸ってなんだろう?
パラレルワールドみたいな感じだろうか?
それにしても巻戻りの技が使えるのは神様のみって……。
つまりそれって。
「このおかしな状況は神様が作り出したということですか?
もう他の世界に行ったのに?」
『ふむ――そうさな。
神々は確かにこの世界を去った。
だが戻れぬわけではない。
この世界を精霊にまかせエルフをつれ新たな地を作成しにいったにすぎぬ。
この世界に干渉しようと思えばいつでもできる』
「えええ」
何それちょっと気まぐれに立ち寄ってみましたよ的な感じで干渉できちゃうの?
威厳も神秘性もないっていうか。
『我らも精霊達を飛ばし調べよう。
神々の形跡を。
詳しい事はまた何かわかった時に伝えよう――
だが、もしこの巻戻りが神々の意志だとしたら』
「だとしたら?」
『我ら精霊はそれに従う他ない』
「それは私たちに手を貸せないという事ですか?」
私の問いに精霊王様は頷く。
「そんな……」
ミレイユが冷や汗をかきながらたじろげば
『手を積極的には貸せなくなるだけだ。
未来を変えようという其方らの邪魔をする気はない。
もし未来を変える事を禁じているのなら、もっと強い力が働いているはずだ。
我らに手出しを禁止するような絶対的な力がな』
なるほど、表立っては手助けは出来ないけれどヒントとかはくれるとか期待してもいいのかな。
『とにかく、我らも調べてみよう。
わかり次第連絡をいれる』
そう言って精霊王様はどこかへと消えてしまうのだった。
■□■
「……にしても。やっぱり俺らも死んでたんだな」
精霊の森から館に戻り、皆で食堂で食事をしていれば、セクターさんが呟いた。
確かにいままではセクターさん達のことはレティは語っていなかったので不明だった。
……ただ、仲の良さから廃人にされたカルロさんをセクターさんたちが放っておくわけがないので、だいたいの予想はついていたけれど。
「当たり前でしょう。
旦那様がそのような操られている状態なのに貴方とラディウスが黙っていられるわけがないじゃないですか。
邪魔者とまっ先に始末されるに決まってます」
牛肉を綺麗に切り分けながらいうミレイユに
「人の事言えるかよ。
どうせお前だって黙っていなかっただろうよ」
と、セクターさん。
「当たり前じゃないですか!
何の考えもなしに逆らって殺されています」
キリッと肉を食べながら答える。
それ決め顔で言うセリフじゃないと思うのだけれど。
私が心の中でつっこめば
「自分で言うかお前それ」
セクターさんも冷や汗を流しながら言う。
「とにかく、リンの見た本来の流れ通りならすでに私たちは死んでいた事になります。
生きていられるのは、お嬢様のおかげですね」
と、ラディウス様。
「そうだね。君のおかげだ。
ありがとうレティ」
カルロさんの言葉に私は手を慌てて振った。
「え、いや。
それは皆が私を信じて受け入れてくれたから未来が変わっただけだし。
本来のレティが転魂の法を見つけたのが発端だし。
私がお礼を言われる事じゃないよ」
慌てて言えば
「お嬢様はそういうところが謙虚すぎてイライラしますっ!!
謙虚を通り越して卑屈です!!
もっと胸をはるべきなのですよっ!!
私のおかげよ!皆のものひれ伏しなさいくらいの勢いでいいのですっ!!」
とミレイユ。
何その悪役令嬢様。
あれ?そういえば私一応悪役令嬢なんだっけ。
でも元のレティも騙されてただけで本当はいい子だった。
悪役令嬢っていうのも違うかな?
「お前なぁ。
レティにまで毒舌なのはどうにかならんのか」
「し、仕方ないでしょう!?
どうにか出来るものならとっくにしています!?」
と、仲良く漫才をはじめるセクターさんとミレイユ。
「それにしても、……第一王子であるレナルド殿下にレティにリンか……。
今の所この三人の共通点といえば王族の血を引いていることかな?」
考えながらカルロさんが言えば視線がみなカルロさんに集まる。
「確かにリンもお嬢様も遠縁ではありますが王族の血を引いていますね」
ラディウス様が言う。
孤児院の子達も別に親に捨てられたわけじゃない。
親が死亡してしまい、親戚も自分たちの生活で手一杯な為預けられたのだ。
もともと結束の強いこの領土で捨て子というのはすぐバレるので無理だろう。
お腹が膨らんでいればすぐ噂になる。
そういうところは監視社会っぽくもあるけれど、そのおかげで自浄作用が働いていて犯罪率がほぼ0に等しい。
だから貧しいが故に孤児院なのである。
この4年で精霊王様達の協力で見違えるほど豊かになったので、親戚が引き取るとリンちゃんたちの元に来たみたいだけれど、孤児院がいいとそのまま居着いている格好だ。
リンちゃんはお婆ちゃんがロロちゃんはお爺さんが確か王族だったはず。
「そうだね。
とにかくこの事を王子にも報告しよう。
もしかしたら王子とともに死ぬ予定だった、遠征隊の中にも夢という形で見ている者がいるかもしれない」
「え?それじゃあ王都に行くの!?」
私が聞けばカルロさんが頷いて
「ああ。少し早めに出発しよう」
そう言ってカルロさんは私に手を差し出すのだった。











