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第42話 王子の帰還

「それじゃあ王都に来るのを楽しみにしているよレティ」


 そう言って、王子ことシェールさんが私に手を差し出した。

 ここは領土の城門前。

 私たちは王子を見送りにきていた。


「はい。シェールさんもお元気で」


 城門前で大勢の兵士達に囲まれたシェールさんこと王子が微笑んで、馬に乗ったまま手を振って去っていく。

 護衛の人たちも一礼してその場を後にした。

 

「まるで嵐のような出来事でしたね」


 王子が去ったあとラディウス様がため息をついた。

 あの後王子はラディウス様にひたすら車の要望を伝えて去っていったらしい。

 いくらシェールさんとして扱えと言われても中の人が王子と知っているラディウス様は気が気ではなかっただろう。


「誰かさんが大失態やらかしたしな」


 と、セクターさんがじと目でラディウス様を睨めば、ラディウス様がうっとした顔になり


「本当に申し訳ありませんでした」


 と、小さくなる。


「仕方ないよ。来たのも突然だったし。

 車なんて隠す暇なんてなかったもの。

 ね、お父様?」


 と、私がカルロさんに微笑めば、何故か皆の視線が私に集まる。

 ……ん?何だろう。


「お嬢様、何故急にお父様呼びに?」


 ミレイユがおそるおそる聞いてくる。


 ……ああ。そういえば。夢でそう呼んでいたからだろうか。


「え!?だってほら。王都に行くのが決定したし!

 成人したのにいつまでもパパ呼びじゃ、貴族としての威厳がっ!!!」


 私がぐっと構えて宣言すれば


「セリフは偉いのに、そのポーズで台無しだな」


 と、セクターさん。


「レティのお父様呼びもなかなか響きがいいね」


 と、何故かジーーンと感動しているカルロさん。


「相変わらず親馬鹿で」


 やれやれとミレイユ。


 そんな景色を眺めつつ、私はきっと幸せなんだろうなと、心から思うのだった。



 ■□■


「何度も殺される夢を見るの」


 王子が去ってから1ヶ月がたった頃。

 リンちゃんが元気がないので様子を見てきてほしい。

 そうラディウス様に頼まれたのが魔道具の授業の時だった。

 最近授業の方で忙しくて、確かにリンちゃん達と顔を合わせていない。

 私がリンちゃんに元気がない理由を聞いてみれば返ってきた返事がそれだったのである。


「――え?」


 つい、私がぽかんと聞き返せば



「ほら、お嬢様も馬鹿にしてる」


 とリンちゃんが頬を膨らませた。

 どうやら以前誰かに話して馬鹿にされたらしい。

 だからラディウス様には話さなかったのかな?


「ち、違うのっ!!私も最近自分が殺されちゃう夢みたからびっくりしちゃって!」


「お嬢様も?」


 ちょっと疑った視線で聞いてくるリンちゃんに私は頷いた。


「うん。お父様と一緒に殺される夢

 ギロチンで首をきられちゃうの」


「私も!ラディウス様とロロちゃんと一緒に殺されちゃう夢みるの!」


 と、リンちゃんが告げるのだった。



 ■□■


 夢の内容は……酷いものだった。

 

 カルロさんに後妻がきて、孤児院への援助もなくなってしまうらしい。

 夢の中のレティとは口を利ける間柄ではなく、相談もできなかったとか。

 まぁ、私は平民になる予定だったから孤児院の子と遊ばせてもらえたけど本来のレティは貴族の子だし。

 リンちゃんたちとは口すら利けない間柄だったのだろう。

 夢の中の領地は塩がないせいで輸出もできず、今とは比べ物にならないほど貧乏だった。

 貧しいながらに頑張るもラディウス様は身体の筋肉が極端に衰えて歩くのもやっとの謎の病気にかかりグレンお兄ちゃんとリカルドが出稼ぎに他領地へと行ってしまう。


 それからしばらくして、セクターさんの商隊が盗賊に襲われて全滅の知らせがはいると、ラディウス様がリンちゃんとロロちゃんに孤児院に残っていたお金を全部渡し、グレンお兄ちゃんの元へ逃げるように指示するのだが……。


 知らない男達がドカドカと部屋に入ってきて、まずは二人を守ろうとしたラディウス様が殺され、転んだロロちゃんが切られ、最後にリンちゃんが殺される。


 そこで目を覚ますらしい。

 夢の内容が嫌にリアルで今でも忘れられないとか。


 恐らくカルロさんと仲がいい、セクターさんとラディウス様は殺されたのだろう。

 操るのを邪魔されないために。

 カルロさんだけでなく、みんなを不幸にしたあの義母にふつふつと沸き上がる怒りに私は眩暈を覚える。

 もう犯人は精霊王様に裁きを受けているのだ。

 それでいいのだと、私は自分を納得させようとするが――何故か違和感がある。

 何だろう?私はなにか大事なことを忘れていないだろうか?


「夢なのに本当にあったことみたいで怖い」


 私はリンちゃんの一言で現実に引き戻された。

 確かに。

 私の見る夢もリアルすぎてその気持ちがよくわかる。


「私怖いの。

 ラディウス様が病気になっちゃうんじゃないかって。

 領主様が結婚する予定とかないよね?」


 今にも泣きそうな顔で言うリンちゃん。


 予知夢のように感じてしまっているのかもしれない。


「うん。大丈夫。お父様は結婚しないし、そんな未来にはならないよ。

 それに夢の中のグレンお兄ちゃんは学校に行ってなかったんでしょ?」


「う、うん」


「ほらそこでもう現実と違うもの!」


「そ、そうだよね!

 夢の中より今の方がずっと街も綺麗だし。

 夢の中の領地は皆食べるのにも困るほど貧乏だった!

 今と全然違うよね!」


 と、リンちゃんが元気を取り戻したようで微笑んだ。

 

 ……それにしても、これはどういうことだろう。

 王子がいつもよりはやく死のループを思い出し、リンちゃんもループまでは思い出せないものの自分の死を夢という形で思い出した。

 未来が変わったことで、本来死ぬ予定だった人の中の一部には前世の記憶を思い出す人がいるのだろうか?

 だとすると思い出す人と思い出さない人の違いはなんなのだろう。



 精霊王様やカルロさん達に相談しないと。

 私はリンちゃんを励ました後、足早にカルロさんたちの元へ向かうのだった。

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