第39話 ラディウス様の失敗
あれから数日。
王子はカルロさんとセクターさんと時々精霊王様も含めて会議をしているようでまだ居座っている。
国の方に戻らなくて大丈夫なのかと他人事ながら心配にもなるが、シェールさんの変装が様になっていることから、入れ替わってる期間が長いのかもしれない。
本物のシェールさんがきっと王子としても優秀なんだ、と思うことにする。
私も慣れてきてすっかりシェールさん扱いしているところで事件はおきた。
「すみませんお嬢様。
車が……見つかってしまいました」
と、突然部屋におしかけてきたラディウス様が真っ青になって謝ってきた。
あれから、ラディウス様が動く三輪車の実物を見たせいで本気を出した。
おかげで車開発はもうマッハで進んでいたのだ。
車の原理(うろ覚え)をラディウス様に説明したら、そのまま図案に書き起こしこちらの世界風に最適化してくれた。
どうせなら馬が何頭もいないと重くて引けなくて倉庫で眠っていた鉄製馬車を戦車風に改造しちゃおうぜ!
と、ヲタク特有の悪乗りでやってしまったのを王子に見つかったらしい。
「これはすごいな」
と目をキラキラさせながら鉄馬車を改造したものを時速20km位の速度をだして運転しているシェールさんこと第一王子に真っ青になってるラディウス様。
王子はノロノロとうちの領土の庭園をくるくる嬉しそうに回っている。
鉄馬車なので馬力を出すために2輪駆動ではなく4輪駆動車だ。
売る気がまったくないため採算など考えずに趣味山盛りでつくったのでかなり高性能に仕上がっている。
戦争に使われるのは嫌だからこの車については世に出す事なく趣味で所持しているだけのつもりだったのに。
王子は後で速度をだして走りたいなとかつぶやきながら、上機嫌で戦車もどきから降りてきた。
「あのフリーズドライ食品といい、レティ君は凄いね。
どれだけこの世界に革命をもたらすつもりだい?」
と、馬車から降りてきた王子が私に言う。
「元いた世界の記憶です。
私の世界は魔法がありませんでしたから。
科学方面で発達していました」
私が答える。
王子にも転生しているということは伝えてる。
王子はふむと頷いて
「なるほど。他にもあるなら是非聞きたいけれど」
と、チラリとカルロさんを見れば、カルロさんが首を振った。
「まぁ、精霊王様との約束だからね。
君から無理にいろいろ聞いたりするのは禁じられている。
君が話したくないのなら仕方ない。
この車は売る気はないのかい?」
と馬車を見ながら言う。
「はい。
これが開発されれば一気に生活は楽になると思いますけど。
同時に戦争の兵器として利用されてしまいますから……」
私が言えば王子は目を細めて
「そこまで先の事を心配するとは流石だね。
君の住んでいた世界は教育水準が高かったのかな?
まぁ、戦争で使われるのはあまり心配しなくていいと思うけれどね」
「そうなんですか?」
私が問えば王子は頷いて
「恐らくこのような凶悪な兵器で戦いだせば精霊王様達の裁きを受ける。
使った領地…または国規模で人間は殺される可能性もある」
「ええ!?精霊王様ってそんな事までするんですか!?」
私にはフレンドリーだったからすっかり忘れていた。
そういえばおとぎ話でも、精霊王様の怒りを買って滅んだ国があったはず。
「だから戦争などは一定のルールが定められているんだ。
乗り物も魔法も場所もね。
あまり高度な魔道具の使用は禁じられている。
お互いやりすぎて精霊王様達の不興を買って、共倒れになるのは嫌だからね。
補給路を断つために村に火を放ったり、強力な魔道具で敵を一掃した国も過去にはあったらしいけど。
精霊王様の方のお怒りをかって、村を燃やしたり魔道具を使った国の方が結局滅ぼされた。
本来人間は精霊王様と話す事などできない。
そしてその基準も精霊王様によって違っていたりする。
だから何がよくて何が悪いかを聞く事すらできないから、戦争も昔のやり方をずっと継承している。
戦争のためにわざわざ古い魔道具を所持していたりね」
ああ、成程。
何をやっちゃダメなのか聞けないから、昔怒られなかった方法で延々と戦争をしているのか。
日本で例えると、自衛隊がいるのに、戦争だけは戦国時代の方式を守って刀や馬で戦ってるみたいな感じなのかな?
よくわからないけど。
私の思考を他所に王子は言葉を続け
「それにこの200年。戦争らしい戦争はおきてない。
小競り合いはあったけれど。
と、いうわけで、この馬車僕に売る気はないかい?」
と目を輝かせて言う。
「量産ができないので注文が殺到しても困るので嫌です」
と、きっぱり答える私。
一応シェール様扱いでいいと言われているので言いたいことははっきり言わせてもらう。
「馬車を改良すればいいだけでは?」
「そのタイヤもそうですけれど、精霊の森の素材を結構使っていますから。
趣味で一台、二台つくるのと、量産できるかは別問題です。
それだけの素材が手に入りません。タイヤもすり減りますから定期的にメンテナンスも必要になりますし」
「……ふむ。それは残念だ。
では、私だけにというのは?」
「シェール様に売ったらもちろん国王陛下が持っていないのはおかしいとなりますよね?
そのあと芋づる式に偉い貴族に売れとかなったら、今度はマウダースパイダーのラップがたりなくて、フリーズドライのほうの保存用の袋が作れなくなります。
マウダースパイダーは精霊の森にしか存在しない希少種です。
それほど大量にはとれません」
私の答えに王子はうーんと考えて
「なるほど。確かにダンジョン攻略にフリーズドライ食品が持っていけないのは困るな。
ならダンジョン攻略が成功したさいの献上品というのはどうかな?
王室御用達にして他のものが買うのは禁止すればいい。
もちろん素材の費用も開発費もこちら負担だ
必要ならば口の固い信頼できる技術者も派遣しよう」
最後まで諦めない王子。
うん。そんなに欲しいのか。
「……そんなに気に入ったんですか?これ」
「うん。是非とも欲しい。
できればちゃんとした道でもっと速度も出してみたいな」
と、目をキラキラさせている。
男の人って車を知らない世界でも車みたいなのは興味あるのだろうか。
誰も持っていない未知の乗り物とかやっぱり権威があるのかな?
まぁ、確かにゲームの期間が終わったら……もう少し文明は進むと思うんだよね。
元が日本人が作った世界なだけあって、発達する基礎はあるのだ。
ただ、ゲームのファンタジーっぽさを維持するためだけに、技術があるのに何故か誰も活用しない状態なだけで。
魔道具の勉強もしたがその気になれば冷蔵庫だってテレビだってできるのになぜか冷蔵庫すらない。
ゲームの期間が終われば、世界の縛りがなにもなくなる。
私が何もしなくても車や下手をすれば飛行機だってできそう。
気球もできなくはないんだよね。
それにぴったりな魔道具も発見してる。
魔道具オタクのラディウス様なら原理を説明すれば作ってしまうだろう。
だからいろいろ作ってみたい欲求はあるんだけど。
ただ、一度作ったものは取り消せない。
結局この車もどきも、国王が乗れば、精霊の森でしか取れないモノを別の物で代用して別の誰かが似たような物を作ると思う。
気球なんてできたら、空を飛べるなんて便利なものを誰も利用しないわけがない。
この世界に足りないものは技術ではなく発想なのだ。
魔法が発達している分、日本よりすごいものが作れる。
それこそ漫画やアニメで出てくるような飛空艇を作ってしまうかもしれない。
ヲタクとしては心躍るものがあるけれど。
飛行艇とかなると空からなら城壁はあっさり乗り越えられるから、被害は車の比じゃなくなる。
破滅の呪文で有名な某有名アニメ映画みたいに飛空艇乗りの盗賊とかが生まれてしまうかもしれない。
国としては精霊王様は恐ろしいのは確かだけれど、各領土を飛空艇で点々と移動する盗賊とかの場合、地域に縛られる精霊王様が手をだせるかは不明だし。
他にも飛行機が発達して人の交流が増えたせいで、外来種がはいりましたー病気が流行りましたーとかなるかもとか考えると……。
自分が発表しちゃったせいで、いっぱい犠牲がでました!とかは嫌だ。
でもまぁ、みつかっちゃったものは取り消せないわけで。
「わかりました。
こうー何か要望があったら言ってください。出来うる限り努力はしてみます」
「本当かい!?ありがとう!!
じゃあこれがいいな!」
と、ニコニコ顔で取り出したのは。
私が中二病全開で書いた悪趣味な車の図案だった。
……ラディウス様そんなのまで見つかってたのか。
私がじと目でラディウス様を見れば、しょんぼりした顔で頭を下げるのだった。