第37話 フリーズドライ食品!
「……これは凄いね」
出されたフリーズドライ食品を見て王子が感嘆の声をあげた。
あれから何がどうなったのかはよくわからないけれど、何故かシェール卿に扮した王子がしばらくうちに滞在することになったのだ。
うちの領地に変な虫が寄らないようにしてくれると王子が約束してくれたので、フリーズドライ食品も王子にお披露目になったのだが。
お湯を注いでしばらく蓋をして出来上がったものを王子がマジマジと見つめている。
ちなみにカルロさんは精霊王様と何か話があるらしく部屋に篭っているため、なぜか王子の相手は私がする羽目になった。
後ろにミレイユやセクターさんも居てくれてはいるのだが基本貴族の会話に貴族でないものが参加するのはNGなのだそうだ。
ミレイユも貴族は貴族なのだが身分的には下級貴族なので王子レベルの人との会話に参加は無理だとか。
そこらへんはゲームの独自設定っぽいのでよくわからない。
「見た感じは量が少なく感じるかもしれませんがコチの実が入っているので
食べて30分くらいすれば満腹感が得られます」
私が説明すれば
「コチの実というと精霊の森でしか手に入らない希少な実だったはず。
そんなものまで入ってるのかい?
……それはうちの討伐部隊の分を用意できるのだろうか?」
王子がトマトリゾットとカルボナーラ風ペンネを見ながら聞くので
「ダンジョン討伐部隊の分だけならなんとか。
いまからコチの実を溜めておけばなんとかなると思います」
答える私。
本当は緑の精霊さんにかなり増産してもらってはいるのだけれど。
流石に冒険者や他の国相手に売りに出せるほどの量はない。
精霊さんは気まぐれで熱しやすく冷めやすいので、手伝ってくれるときはありえない勢いで頑張るのだけれど、気分が乗らないとまったく姿を現さない。
気分屋なので他国に輸出する分まで確保するのは無理だと思う。
私の答えに王子はふむと頷くと、一口食べて
「凄いね。味は少し濃いし、野菜の食感は損なわれているけれどトマトスープの味がとても美味しいよ。
保存食でこんなに美味しいものは初めて食べた」
と、えらく感動してくれた。
うん。やっぱり王都の人が食べると味は濃いめかな?
日本でも秋田とか青森とか寒い地域は味が濃いめになると聞いたことがあるが、うちの領地は味が濃いらしい。
ここに住んでいるから味が濃いとか感じた事もなかった。
そういえばグレンお兄ちゃんも、王都は何でも味付けが薄いとぼやいていた気がする。
そこはまぁお湯の量で調整してもらおう。
でもこの4年の間に開発した私的には最高傑作の保存食品を美味しそうにたべてくれると、やっぱり嬉しいものがある。
研究に研究を重ねたからね。
魔道具とお料理は頑張ったよ!
「うん。これはコチの実を入れなくても十分貿易品になりそうだけれど、君とカルロ卿にしか作れないのが残念だな」
美味しそうに二つとも食べて、王子が感想をもらした。
まぁ、フリーズドライなら氷の精霊さんたちは緑の精霊さんたちと違ってわりと勤勉なので言えばすぐ手伝ってくれるのでできなくもないのだけれど、頼まれても嫌だからだまっておく。
こういうのはセクターさんが決めることだし。
「ところで、ダンジョン探索って具体的に何をするのでしょうか?」
そのまま是非作ってくれると嬉しいな☆みたいな話の流れになっても困るので敢えて話題を変えてみれば
「うん?地図の作成と、転移の魔法陣とセーフティーゾーンを発動させることかな。
ダンジョンは出来たばかりの時はどちらも発動していないんだ。
だから魔石を埋め込み発動させるのが仕事だ。
それとモンスタートラップの部屋への立ち入りを禁止するために柵を作ったり安全なルートの確保だね」
転移の魔法陣というと、入ればダンジョンの入口まで送ってくれる便利なものでセーフティーゾーンはモンスターが入ってこれない場所だ。
これはゲームと同じっぽい。
そういえばゲームでも20層まではセーフティーゾーンと転移の魔法陣が発動していたけどそれ以下の階層は自分で魔石をいれないと発動しなかった。
ゲームでも裏設定で20層までは国の騎士達がやっていたとかあったのかもしれない。
ゲーム上では20層までクリアできればゲーム本編はクリアできた。
それ以下はほぼオマケ要素で暇だったらクリアしてね☆の部分だったので20層以下は急に敵が強くなった記憶がある。
「でも、国がやる仕事なんですか?冒険者じゃなくて?」
「当然だよ。ダンジョン産の魔石はいま生活の一部として使われている。
ダンジョン以外で倒した敵は魔石は所持していないから、ダンジョンの価値はとても高い。
冒険者が快適に狩りができるように安全な部屋とそうでない危険地帯を知らせるのは大事な事だ」
「いたれり尽くせりなんですね」
「そうだね。ダンジョンは国が厳重に管理することになる。
モンスターが湧きすぎていた場合は騎士達も遠征にでかける事もあるんだ。
管理は全て国が行う。
だからその国で手に入れた魔石や宝はその国に全部売らないといけない決まりがある。
自国にダンジョンのない国はどうしても高い値段で魔石を買う事になるから、うちも苦労をしたよ」
「なるほど」
そう言えば王都では明かりとかも魔石なんだっけ。
うちは弱小すぎて夜はほぼ真っ暗になるけど。
王都は夜でも明るいときいている。
都会と田舎の差だね。
やっぱりこういうところはゲームの世界なんだなぁとしみじみ思う。
「落ち着いてきたら、20層以下もチャレンジはすることがあるけれど、20層以下は騎士団でも危険が高くてね。
それ以下は冒険者達の仕事だ。
一番下までいけたのがグラニア王国にあるダンジョンでクリカ率いる冒険者達で35層までだったと思う」
そう言って出された紅茶を王子は美味しそうに飲み始めた。
「でも冒険者なんて仕事、儲かるんですか?」
私が聞けば王子は
「ああ、下層に行くほど濃度の高い魔石や宝石。魔道具や武器が手に入るからね。
彼らは出資を集めて大人数で遠征隊を組んでダンジョン攻略に向かう。
成功すれば、出資者に倍返ししてもそれでもなお、潤う程の富が手に入るんだよ」
「凄いですね」
なんか、思ってたんと違う。
4、5人がパーティーを組んで攻略!とかそういう規模の話ではなかったらしい。
なんだか昔の大航海時代の話みたい。
よく新大陸を探しに行く船に貴族が出資してたとか聞いた事がある。
ただ、恐ろしくハイリスク・ハイリターンだったとか。
そのリスクを軽減するために株式会社が設立されたとかニュースで見た記憶があるけれど。
……うん。何故そこで株式会社になったのか。そこらへんはよくわからない。
惜しいなそれについてちゃんと知識があれば、株式会社設立で大儲けヤッホゥ!!とか出来たのに。
やっぱり勉強って大事。
もっとちゃんとしておけばよかった。
あとでセクターさんに相談してみれば何かいい案が思いつくかも?
と私の思考があさっての方にいってしまえば
「それにしてもセンテンシア領はお茶も美味しいね。
特に名産があるなんて聞いた事はないのだけれど」
と、王子の言葉で現実に引き戻される。
「精霊王様の加護がありますから」
と、私は曖昧に答えた。
フリーズドライ食品作りのためにハーブも各種王都から取り寄せて緑の精霊さんたちに頼んで育ててもらっている。
しかも苗でなくお茶にした状態から、種に戻し量産できるので同じお茶でも味のよかった苗だけを選んで量産してもらってるのだ。
よくテレビとかで味のよかった苗だけを育てて〜みたいのを見た事があったのでマネしたのである。
紅茶大好きラディウス様が認めたエリート中のエリートの茶葉だけを使用している。
精霊さんたち本当に優秀。
好きなだけハーブも使い放題で好みの味にブレンドできるのでお茶にも詳しいラディウス様に頼んで美味しいお茶を作ってもらった。
なので味もかなりいい。
けれどいちいちそれを説明していたら、王子に何か頼まれそうだからやめておく。
王子がそれに感づいているのか何か言いたげな視線でこちらを見たが私はあえて気づかないフリをした。
平凡、平穏が一番なのだ。
王子からの頼み事とかマジめんどくさい。
私にはバックに精霊王様がついてるから、王子も突っ込んではこなかった。
持つべきモノは権力のある人との繋がりだね!
と、人としてどうなのかと思う思想を持ちながら私はお茶を飲み干すのだった。
精霊王まとめ
助けた精霊王
氷の精霊王 ルヴァイス
光・緑の精霊王ハルナとサリナ
土の精霊王ニーナ
炎の精霊王ラシュティムク
王都の精霊王
時空の精霊王クロシュテイム