第34話 魔道空間
「流石お嬢様大分筋がいいですね。
無駄にいたずらに魔法を使っていただけではないようです」
今日は庭で自分の身は自分で守れるようにと、魔法だったり護身術だったりをミレイユに教わっている。
なんとなく6歳から修行を積んでいれば大人になる頃には最強の女魔術師(ドヤッ!)とかできそうでカッコイイと思ったからね!
この4年で自分でいうのもなんだけど結構上達したと思う。
魔力は主人公より高い設定だった気がするから、今から頑張れば強くなれるかもしれない!
目指せ打倒主人公ちゃん!や、もちろん戦うのではなくて強さ的な意味で。
あれ?そういえばどうして主人公はこの世界に召喚されたんだっけ?
思い出せない。
あとでメモを見てみないと。
「ほら、ぼーっとしないでください!
お嬢様はすぐあさっての方に考え事をはじめるんですから」
と、妄想に浸っていたらミレイユに突っ込まれる。
「えへへ。魔法がうまくなったのが嬉しくて。
ミレイユも教え方うまいしね!
大分上手になった?」
と私が言えば、ツンデレメガネが顔を赤くして「べ、別に貴方の為にしたんじゃないんですからね!」とツンを発動する。
うん。ツンデレのツンだ。
最近ブームが去ったのか小説やアニメでもあまり見かけなくなったツンデレキャラをまさかリアルで観る日がくるなんて。
ミレイユ達も結構なキャラづけがされているところを見ると、もしかして最初はレティが主人公だったのかな、なんてどうでもいい妄想に浸る。
ミレイユもツンデレキャラ設定されて大変だなぁと、見つめれば何かに気づいたのかミレイユの表情が急に険しくなった。
「……お嬢様」
「うん?」
「何やら門の方が騒がしいです」
「何だろう?」
「……念のため見てきます。
お嬢様はすぐに屋敷にお戻りください」
そう言ってミレイユがメイドに指示をだし、メイドの一人が私の手をひこうとしたとき
ぶわっ!!!!
突然の突風。そして辺り一面の景色が一気にどす黒く変色する。
「えっ!?」
私が慌ててメイドさんの方に行こうとしたときにはそこにメイドさんの姿はなく
「――君がレティか」
と、金髪のイケメン貴族風の男が私の前に現れたのだった。
■□■
「……誰?」
景色が白黒化したその空間で。
私は一人の男と対峙していた。
先程までいたメイドの姿はなく、鳥達の鳴き声さえも聞こえない。
何か魔術の空間に巻き込まれたのだろうか。
いつでも逃げられるように距離をとりつつ私が尋ねる。
「ああ、ごめん。名前を言うのを忘れていたね。
レナルド・ファラス・ラムデシア 。
宜しくね。レティシャ・エル・センテンシア」
言う名は第一王子の名だ。
え?ちょっと待って。
なんで第一王子がこんな辺境の地に?
王位継承権第一位の?
こんな辺境にお忍びとかありえない!
自称王子の顔はにこやかに笑っている。
けれど瞳は物凄く冷たくて何一つ笑っていない。
「レナルド様って……第一王子様?
ありえない。こんな所にいるなんて!」
怖くなって距離をとる。
時間さえ稼げばミレイユが助けにきてくれるはず。
「ああ、言っておくけど逃げられないよ。
ここは私の作った空間だ。
王族だけが使える空間魔法。
あのミレイユとかいう魔術師に破るのは無理だろう」
心を読まれたのか、第一王子が笑顔のまま言う。
まったく目はわらっていないのに笑顔なのだ。
その表情にゾクリとする。
なんだろう。怖い。
凄く怖い。
もしかして自分のために王子は見捨てようというセクターさんとの会話を聞かれてしまったのだろうか。
そのせいで復讐にきたの?
私は怖くなって慌てて氷魔法を展開して、空中へと脱出を試みる……が、魔法が発動しない。
え?え?何で!?
「無理だよ。ここは私の作った空間なんだ。
逃げられない。
君には聞きたいことがある」
そう言って、自称王子が一歩近づいてくる。
ダメだ。逃げなきゃ。このままじゃやられる。
私が慌ててダッシュで逃げれば、王子はすたすた歩いてくる。
決して走ってくることなどないのに、私と王子の距離は開かない。
……なんで?何で逃げ切れないの?
怖い。怖い。怖い。
息があがる。呼吸ができない。子供の体力ではそう長時間走れない。
もう何時間も走っている気がする。それなのに王子と全然距離が離れないばかりか景色が変わらないのだ。
そして王子の手が私に伸び――
「助けてっ!!!!助けてっ!!!!カルロさんっっ!!」
私が叫んだその瞬間。
ぱしぃぃぃぃぃぃん!!!!!
激しい音をたて……景色が割れたのだった。
■□■
「大丈夫か!!!レティッ!!!!!」
白黒の景色がまるでステンドグラスのように割れ、そこにいたのはカルロさんだった。
カルロさんが私に手を伸ばす。
「パパっ!!!!」
私は嬉しくてそのままカルロさんの胸に飛び込んだ。
そのままカルロさんが私を抱きよせ、剣を構え第一王子を睨む。
「……まさか、この魔空間を破るなんて」
第一王子が驚きの声を上げるが
「これはどういう事でしょうか。シェール卿」
と、王子に向かって剣を向ける。
シェール卿?
初めて聞く名前だけれど誰だろう。
私がカルロさんに抱っこされたまま第一王子を見れば
「なるほど。怖いな。
私をシェール卿としてこの場で処刑するつもりかな?
君なら気づいていないはずがないだろう。
この魔法はシェール卿には使えない」
と、王子が肩をすくめる。
話の流れ的に、王子はシェール卿という人に姿をかえているのだろうか。
「聞いているのはこちらです」
と、カルロさん。
その声は何時もの優しい声とは違いゾッとするほど冷たい。
第一王子を見る目には殺気すらある。
まさかカルロさんは私のために王子を相手にする気なのだろうか。
「……親馬鹿とは聞いていたがまさか王族に喧嘩をうるのを厭わない程とはね。
悪かった。私も余裕がなかったのは確かだ。
その子に聞きたい事があっただけだ」
と、手を上げて闘う意思がないことを示す。
「聞きたい事?」
私が第一王子に聞き返せばこくりと頷いて
「私は……もうこの人生を50回以上繰り返している」
告げる王子の顔は真剣な表情だった。











