第30話 ゲームの中
ラップを鍋にとかしてみればトロトロに白濁色の液体が鍋の中にできあがる。
私は金属でできたお盆のようなものにうすーくそれを伸ばして入れた。
それをパタパタと団扇で乾かしてみる。
うまくいくといいなぁ。
でもこれくらいでビニールが出来るならとっくに他の人が試していそうだけど。
誰も試さないってことがあるだろうか?
そんな事を考えつつ数時間後。
それは完成した。
厚みはかなりあるのでラップというには抵抗があるがフェルトくらいの厚さのラップが。
まぁ流石に日本の時のように透明ではないけれど。
相変わらず白濁色だが薄くなった分それなりに中身が見える。
「おおーできた!」
私が薄くなったビニールを見て感動の声をあげれば
「所でお嬢様、これを何に使うのですか?」
と、聞いてくる。
……確かに。
これだけじゃあ単なる白濁色の長方形だ。
「ねね、ラッセ。
何か鉄の棒みたいのないかな?」
「あ、はい」
言ってコック見習いのラッセがダメになったおたまのようなもので長い棒を持ってくる。
「ミレイユ。これの鉄部分を軽く火で炙って熱くしてくれる?」
「あ、はい構いませんけど。これで何をするんですか?」
「えーっとシーラーの原理?
100均でよく電池いれて熱でポテチとかの袋を封するやつ!
あれって確か熱でしたはず」
私の言葉にミレイユが顔をしかめた。
「すみません。お嬢様。
わからない単語だらけなのですが」
と、こちらに聞いてくる。
ああああ。そうだ。日本の単語なんてミレイユに通じるわけがないのに、ナチュラルに単語がでてきてしまっていた。
なんだろう精霊王様に同化を止めてもらったせいで記憶が混濁しちゃってきてるのかな。
「ええーっと、ごめん。
棒を熱くしてちょこっとだけ溶かして、それをまた乾かしてくっつけて封をするの。
そうすれば袋状になるかなって」
「ああ、なるほど。
大体わかりました。
やってみましょう」
と、棒を軽く火で炙ってくれる。
ああ、うまくできるといいな。
■□■
「できた!」
試行錯誤を重ねた結果。
両側をハンダごてのようにして溶かしてくっつけてなんとか私たちはビニール袋を作る事に成功した。
両端をくっつける関係でそれなりの厚さになってしまったけれどその分強度は高い。
これなら乾燥剤を一緒にいれて、食料をいれて持ち運べると思う。
「よかったですね。お嬢様」
ミレイユとラッセがパチパチと拍手してくれる。
「うん!これなら騎士の人や冒険者の人が持っていくのに超便利だと思うけどどうかな!
早速乾燥剤いれて何日フリーズドライが持つか試してみよう!
あとは出し入れの問題だよなぁ。
一つずつじゃコストかかるからバッグに入るくらいの丁度いい大きさにしないと。
あときっちり封をしておかないとだし
ジッパーってどうやってつくるんだろ。
入口をそれ形状にしてくっつけるかな」
「まったくお嬢様は次から次へと事も無げに発明をなさいますね。
ちょっと前まで野山を無尽蔵に駆け回っていたお転婆だったのに」
と、ミレイユがため息をついた。
「うーん。でも元から知ってるモノを再現してるだけだもん。
別に私がすごいってわけじゃないから。
たぶん日本の人なら誰でも思いつくんじゃないかな」
作った袋にしまいながら、私は答える。
そう私は知っているからその発想が生まれるだけであって元々知らなかったら思いつきもしなかったと思う。
これがあれだね!知識チートすげぇぇぇ!なのかも!
物語の主人公みたいだ。ちょっと嬉しい。
「あとは元はこの世界が日本人が考えたゲームの世界というのが大きいのかな?」
法則とかそのままなのは創造主がやはり日本人だからだよね。やっぱり。
私の言葉にミレイユが何故か咳払いをし、それとともにラッセが一礼して部屋を出ていった。
うん?なんだろう?
「お嬢様。
前から気になっていたのですが、そのゲームの世界というのは、私たちは誰かが考えた物語の登場人物。
という解釈であっていますか?」
ミレイユの言葉に、私は固まるのだった。
■□■
記憶が混乱していた。
そうだ、私はみんながゲームの住人などと、最初に説明していなかったかもしれない。
それなのに皆が知ってる前提でいままで話を進めていた。
カルロさんの時もだけど見せたメモは本来なら秘密にしておかなきゃいけない事も他にもあったのかもしれない。
「え、えーっと。
あの、その……!」
しどろもどろになってしまうのが自分でもわかったけれど、こればかりはどうしようもない。
どうしよう。自分がゲームの中の住人という事実はやっぱりきついのかな?
みんなを傷つけてしまったかもしれない。
チラリとミレイユを見れば
「大丈夫ですよ。お嬢様。
お嬢様のことですから気を使ってその件については、意図して説明しなかったのは容易に想像つきます。
旦那様含め皆気にしてませんよ。
ですが、最近のお嬢様は、精霊王様に記憶を戻して貰った反動か、この世界と元の世界の区別がつかなくなっている時があります。
前なら慎重に口にしなかった事を今では普通に喋ってしまっていますから。
ラッセなどにも口止めはしてありますが、気を付けてください」
と、ミレイユ。
……確かに言われてみればラッセがいるのにペラペラ喋りすぎてる。
昔はほかの地域に住んでいたくらいのノリで喋ってしまっているのだ。
記憶が戻ったのはいいけれど、それがまったくの別世界の記憶だという意識がすっぽりと抜けてしまっているのかも。
「う、うん。
気をつける」
気落ちしながら私が言えば
「落ち込まないでください。
元気だけが取り柄なのですから。
私たちがいるから大丈夫ですよ。
それに精霊王様もおっしゃっていました。
肉体が元の精神の年齢まで近づけば直に治まると。
それまでの辛抱です」
そう言って頭を撫でてくれるミレイユの言葉に、私は泣きべそをかきながら頷くのだった。