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第26話 私は私

 目が覚めた。


 気が付けばいつもの私のベッドの上で。

 いつものパジャマに着替えていた。

 

 見れば、私の隣では椅子に腰掛けた状態のカルロさんがうたた寝をしている。

 余程疲れていたのか私が起きてるのに、起きる事もない。


 なんだかいろいろあった気がするけれど、最後はみっともなく泣いて寝てしまった気がする。

 心配してくれたのだろう、ずっとついていてくれたのかもしれない。


 ベッドからいそいそ起き出してカルロさんの隣にたてば


「あ、ああ。ごめん起きたのかい」


 と、カルロさんが目を覚ます。


「おはようパパ」


 私が言えば、カルロさんが嬉しそうに目を細めておはようと笑ってくれる。


「身体の方は大丈夫かい?

 君は無理をするから心配だよ」


 と、ため息をつくカルロさん。


「パパだって人の事言えないよ。

 私を置いてけぼりにしようとするから」


 私が口を尖らせていえば、君には敵わないと、笑われる。

 そういえば、気を失う前、加護がどうとか言っていたけれど、あれはどうなったのだろう。


「え、えーっと、パパ私のせいでみんなに加護ってやっぱり飛んじゃったの?

 巻き込んでごめんなさい」


 私がおそるおそる言えば


「ああ、君のおかげだよ。ありがとう」


 言って私を撫でようとして……その手を止める。


「……パパ?怒ってる?」


「あ、いや。そうじゃない。

 その、君がレティとして生きるのが辛いというのなら、こういうのも迷惑かと思って。


 私の我侭で君に無理強いしていたみたいで、すまなかった」


 と、微笑まれる。


 ああああああ。そうだ。

 つい感情的に叫んじゃったんだ。


「ち、違うのっ!!

 その子供扱いが嫌なんじゃなくて!!!」


「……うん?」


 その先を言っていいものか口篭る。

 レティの代わりが嫌だとか。

 理由が駄々っ子すぎて恥ずかしくて言えるわけがない。


 しばし沈黙が続いたあと、


「……レティ」


「はい」


「言いにくいのはわかってるつもりだよ。

 君自身が大人と子供の狭間で一番戸惑って辛いことも。


 こうなってしまったのは娘の責任だ。

 親としてきちんと責任は取りたい。

 出来うる限り君の思う通りにしてあげたいと思っている。

 だから君の本当の気持ちを教えてほしい」


「……え」


「加護の件だってそうだ。

 君は私たちに悪いことをしていると思っているみたいだけれど。

 こちらの世界では大変名誉なことなんだよ?

 決して迷惑な話じゃない。

 なのに君の中ではそれは悪い事となっている。

 

 そういう価値観の違いを話し合わないまま、放置してしまってはお互いすれ違う事になる。

 違うかい?」



 優しく言うカルロさん。

 わかってる。思うだけじゃ伝わらない。

 ちゃんと口に出さないと。

 相手に意見を伝えないまま、勝手に嫉妬したり妬んだりはきっと違う。


 でも、我侭を言って嫌われたらどうしよう。

 だって私は本当の子供じゃないもの。


「レティ。これだけは分かって欲しい。

 迷惑かもしれないけれど私は君を大事に思っているし、それは身体が娘だからじゃない。

 君だからだ」


「……え?」


「君は覚えてないかもしれないけれど、娘がいなくなってしまった時。

 私はね自暴自棄になっていたんだ。

 妻に託された娘を守れなかった自分が情けなくて仕方がなかった。


 何も知らない君を見るだけでもつらくて、無視をしたりもした

 一番不幸なのは自分だと思い込んでいたんだ」


 うん。覚えてない。

 そんな事されたっけ?

 カルロさんってそんなタイプじゃないと思うけれど。


「それでも君は一生懸命慰めてくれた。

 花を持ってきてくれたり、大好きなパンを私の為に残しておいてくれたりね。


 その姿を見ていたらとても自分が情けなくなった」


「……パパ」


「妻も子も居なくなってしまって自暴自棄だった私をこの3年支えてくれたのは君だよ。

 君はレティの代わりなんかじゃない。君だから大事なんだ。 

 何も知らずにこちらの世界に無理矢理連れてこられて。

 見ず知らずの他人を父親だと思い込まされて。

 とても悪い事をしたと思っている。

 だから償わせてほしい」


 言われて、私は溢れる涙が止まらなかった。

 


 ずっとずっと欲しかった言葉。


 

 そう、私は私。

 レティでも誰でもない。

 

 日本の名前は忘れてしまったけれど、私という人格までも失いたくない。


「パパ、パパっ!!!!」


 私はそのままカルロさんに抱きつくのだった。

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