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第25話 加護

 不思議な夢を見た。

 私は黒髪の大人の女性になっていて、何か食べ物を運んでいた。

 食べるものを売っているお店なのだろうか。


 店は混雑していて、見慣れない服装をした男の人や女の人が、変わったパスタのようなモノを食べている。

 ただ、パスタと違うのは底の深い器に入って、麺はスープに浸かっている。


 壁に貼ってある文字をみれば『ラーメン』と書いてあった



 ……ああ、そうだ。

 仕事が休みの日はよくパパのお店を手伝っていた気がする。



 これが本来の私。

 レティはゲームの可愛い女の子で。

 私はごく普通の平凡な顔立ちの目立たない女。



 カルロさんがこの姿を見たら、幻滅するだろうか。

 ゲームの世界は美形ばかりだし。

 そう考えるとちょっと切なくなる。


 そもそも、私は何なんだろう?


 もう日本にも戻れない。

 日本人だった頃の名前を思い出せなくて。

 かといって本物のレティでもない。


 偽物の紛い物。


 これが今の私だ。



 カルロさんが見ているのは、娘のレティで私じゃない。

 私は単なる身代わりにすぎない。


 一心に貰える愛は私に向けられたものじゃないのだ。


 自然と涙が溢れる。



 嫌だ。嫌だ。嫌だ。

 私はこんなにカルロさんが好きなのに。


 この気持ちだってレティに引きずられているだけなのかもしれない。


 でも、私はレティじゃない。


 私は何なの?

 自分にもなれず、かといって本物のレティにもなれない。


 日本にいた時の記憶を忘れられればレティになれるのだろうか。

 もう戻れないなら、いっそ全部忘れられればいいのに。

 そうしたら、偽りだと知らないまま素直にカルロさんと親子でいられるのだろうか。


 精神が物凄く不安定な状態に自分でも腹が立つ。

 めそめそしたり、自分は幸せだと思ってみたり。

 子供になったり大人になったり。



 自分が自分じゃないような感覚。


 もう自分でもわけがわからない。


 もうとっくの昔に本当の私は消滅してレティでも私でもない何かなのかもしれない。 



『誓約者よ――目を覚ませ』



 メソメソ泣いているとどこからか、声が聞こえる。


 聞いた事があるはずなのに誰かは思い出せない。


 うるさいうるさい。誰だか知らないけれど放っておいて。


 もう嫌だ。

 もう嫌だ。


 このまま消えてなくなりたいっ!!!!



 叫んだその瞬間――――私は目を覚ますのだった。



 ■□■


『大丈夫?』『大丈夫?』


 気がつくと、知らない女の子が二人。

 私の顔をのぞき込んでいた。

 青とピンクの髪のツインテールの女の子だ。


「大丈夫かレティ!!!」


 その二人をかき分けてカルロさんにぎゅっと抱き寄せられた。

 温かい。いつものパパの匂い。

 ぎゅっと抱きつけば、抱き寄せてくれて、ああ、私は生きていたのだと実感する。


「大丈夫かっ!何つー無茶するんだお前っ!」


「お嬢様っ!!前から無茶をするお転婆だとは思っていましたがなんてことをっ!!」


「無事でよかったです!!」


 と、セクターさんとミレイユさんとラディウス様が続く。


 ううう、怒られると思った。

 でも、みんな本当に心配してくれたのか目が赤い。

 ミレイユにいたってはぐちゃぐちゃの泣き顔になっていた。

 あのいつもつんつんしているミレイユが。


 私も一体なんであんなことをしたのかと聞かれてもよくわからない。

 ただ突っ込む事しか考えていなかった。


『ありがとう、貴方のおかげで助かった』

『ありがとう、貴方のおかげで逃げられた』


 ツインテールの女の子二人が交互にいい、その後ろには……知らない人たちが何人か立っていた。

 口々に礼を言う。

 ただ、なんとなく神秘的な格好でだいたいの察しはついた。


 精霊王様達だ。



 ゲームの設定ではそこそこの数の精霊王様が呑み込まれてたらしい。

 でもまだゲーム開始前だからそれほどいないみたい。

 ああ、なんだか考えがまとまらない。

 私がぼけーっとその様子をみていると


『貴方にお礼。

 加護あげる』


『貴方にお礼。

 防御の加護』


 キャッキャとツインテールの青い髪の子が私に何か光を飛ばす。


「……え?これは?」


 不思議な光に包まれながら私が聞けば


『絶対防御の加護。

 精霊や荒神の攻撃は無理。

 だけどモンスターや人間の攻撃なら悪意があるものは皆はじく

 病気にかかることも呪いをかけられることも飢えることもない』


 と、ニコニコと青い髪の女の子が告げ


『次は不老の加護。

 これであなた歳をとることも死ぬこともない』


 とピンクの髪の女の子が光を集めた瞬間。


「やめてっっっっ!!!!!!」



 私は力一杯叫んだ。


 

 一気にその場の空気が凍る。



『なんで?嫌?

 人間不老不死喜ぶ』


『人間みな不老不死にしてくれと精霊のところくる』


 と双子の精霊王様が不思議そうに見るが冗談じゃない。


「本物のレティもっ!!!

 貴方達も!!!!


 何で私の意見を聞かないで勝手にやるのっ!?


 私は自分じゃない人生を背負わされてっ!!

 死ぬことすら許されないのっ!??


 なんでっ!?なんでっ!?

 私は何か悪いことをしたの!?」


 涙がポロポロ溢れてとまらない。

 この子達は私に自分じゃないという葛藤を抱えながらずっとずっと、永遠に生きろというのか。


 大人になったり子供になったり。

 自分でもわけがわからない状態なのに。



『悪いこと違う。

 死ぬ恐怖味わわないだけ』


『悪いこと違う違う。

 人間みんな若いままでいたい違う?』


 慌てた様子の精霊王様に


「みんながみんな不老不死なんて望まないっ!!

 一人だけ不老不死になってもパパやセクターさんやミレイユやラディウス様も先に死んじゃう。


 みんなが居ない世界に、一人で過ごせなんて残酷なだけっ!!!


 お願いだからもう、私に押し付けるのはやめてっ!!!!!」


『そうだ。ハルナ・サルナ。お前たちのは加護の押しつけだ』


 と、赤髪の美形の精霊王様が止めにはいり、ハルナ・サルナと呼ばれた精霊王様が泣きそうになる。


『ごめんなさい。人間よくわかっていなかった』


『ごめんなさい。人間加護喜ぶとおもってた』


 しゅんとする二人に胸がちくりと痛む。

 私は自分の不安をこの二人に当ててしまったのかもしれない。


「あの……」


 私が何かフォローをしようとしたとき


『不老辞める。

 でももう防御の加護は取り消せない』


『でも、貴方。

 他の四人先に死なれたくない』


 言って二人は真面目な顔になり


『だから他の四人にも加護あげる』


 と、問答無用で加護を四人に飛ばす。

 後ろで何人かの精霊王様が止めようとしていたが、それより早く加護が四人に飛んでしまう。


 

 ……ああ。ダメだ。この子ら何もまったくわかってない。


 



 眩暈を覚え、私はそのまま意識を失うのだった。

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