第23話 戦いの始まり
『ふむ……なるほどな』
あれから二日後。私たちは私の書いた紙をもってまた氷の精霊王ルヴァイス様のところにきていた。
結局荒神化させた魔術師の記述はあれ以上のものは見つからず、手掛かりはない。
恐らくメインイベントに関連するキャラクターなのだろうが、私はその重要な部分を何も書いていなかった。
たぶんレティが死んだあと進むイベントだったのだと思う。
私はレティの死亡フラグにばかり気を取られていたため、レティが死んだあとの記述はおろそかになってしまっていたようだ。
なんとかそこに関する記憶も精霊王様に思い出させてもらわないと。
今は現実世界で精霊王様が人間の姿になり、私たち5人と会話する形態をとっている。
『荒神化か……人間如きがそのような事ができるとは思えぬが』
そう言って精霊王様が私の書いた文字を読みながら頷いた。
「その件なのですが、精霊王様。
この地を離れる事をお許しいただけないでしょうか」
と、精霊王様に言ったのはカルロさんだった。
えっ!?と、皆の視線がカルロさんに集まる。
『……ふむ?』
「私が彼女との婚礼を受け入れて、領主を捨て彼女の地へと入婿になれば、その娘が魔術師に頼むこともありません。
私は荒神化させる魔術師の正体を突き止めたいと思います」
「なっ!?お前何言ってるんだ!?
このセンテンシア領はどうなるんだよ!?
レティは!?レティを守るんじゃなかったのか!?」
と、セクターさんが食ってかかるが
「レティを守りたい。
だからこそだ。
精霊王様と言えども、地の領地には手をだせない。
かと言ってこの地に呼び寄せた所で現王家の正当な血を引くエシャロフ家の娘に危害を加える事もできない。
そんなことをすれば、この地は反逆者の汚名を着せられてしまう。
先祖代々守ってきたものが私の代で終わってしまうなんてことはできるわけがない。
それに荒神が生まれるなんて事になれば、この領地はおろか、世界だって無事でいられるかわからないんだ。
誰かが行って未然に防ぐしかないだろう!!」
珍しくカルロさんがセクターさんに食ってかかった。
カルロさんが声を荒らげて反論する所は初めてみる。
ああ、カルロさんの元気がなかったのはこのためだったのか。
もうあの時点で覚悟を決めていたんだ。
確かにカルロさんの言うことも一理ある。
けれどそんな形で自分を捨てるのは違う。
そんな自分勝手な女のところにいって幸せになれるわけがない。
「でもぱ……」
私が言い切るより先に
『その案は却下だ。
もう意味がない』
と精霊王様が遮った。
「え……?」
皆の視線が精霊王様に集まる中。
『恐らく既に荒神は生まれてしまっている。
連絡がつかない精霊が多数いるのだ』
「なっ!?」
『精霊同士が連絡をとるなどということは滅多にない。
それ故こちらも気づくのが遅れた。
……だがおかしい。
荒神だとすれば移動のさい誰にも目撃されぬなどありえぬ。
あれはかなりの大きさで、移動するだけでその地の生気を吸い取る存在。
人間にも見えるはず。なのに他の地の精霊からもそのような連絡はないのだ』
「ではどうやって移動を……」
と、ラディウス様が言った瞬間。
ぶわっ!!!!
それは突然現れた。
超巨大なスライムのような物体が精霊王様の背後に。
『なっ!?』
精霊王様が固まった瞬間。
ぐわっと精霊王様を食べようとした大きな物体が口を開くが――
そこで意識が飛んだ。
急に身体が浮いて、私は荒神よりかなり斜め上の空の彼方にいたのだ。
意味がわからず見てみれば、いつのまにか抱きかかえられて、私と精霊王様。そしてカルロさんたち全員が乗った地面ごと。
私は空中に浮いていた。
よく見れば氷魔法で巨大な氷柱をつくり土ごとえぐりとって空に飛ばしたらしい。
たぶんカルロさんかミレイユの魔法だろう。
ぐわっしゃぁ
荒神が大地から伸びた氷の柱をそのままバリボリと口で砕きはじめた。
「落ちるぞ!!各自構えろ!!」
カルロさんが私を抱きかかえ叫ぶ。
『何故荒神がっ!?』
精霊王様が虎の姿に変身して構え――それが戦闘の合図だった。