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第16話 6歳にして人生の選択

「レティ。本来なら6歳の子にこんな選択を迫るのは間違っていると思う。

 けれど、君が20代の精神を持ち合わせていることを前提に、話を進めさせてもらう」


 そう、話を切り出してきたのは、夕食後。

 パパ、セクターさん、ミレイユ、ラディウス様のいる部屋でだった。


「話?」


「昼間にも話が出たけれど、あと2、3年もすれば婚約の話が来てもおかしくない年齢になる。

 もし格上の貴族から婚約の申し出があれば断れない。

 その前に打てる手は打っておかないといけない。

 問題は君が今後どうしたいかだ」


 そう言ってパパが私を見つめた。


「私たちはこの領地が滅ぶものだと勘違いしていました。

 ですが、貴方の未来が第二王子と婚約させられて殺されるのだとすると別の選択肢も出てきます」


 今度はラディウス様。


「まずはそのまま、8歳になったらセクターと平民になり別の領地で暮らす案。

 一番助かるのには確実ではあるけれど。

 他の領地では平民の暮らす地域は犯罪率も高いし、平民の死亡率もここよりずっと高くなる」


「もちろん、ちゃんと治安のいい場所を選択するつもりだがな。

 平民はそれでなくても死亡率が高い」


 セクターさんが、腕を組みながら言う。


「うちの領地治安がよかったんだ?」


 私が聞けば


「不便な地すぎて移住者がいませんからね。

 人が住んでいなかった場所に、政争に敗れた王族を捨てるために新たに作った領地ですから。

 エルフが廃棄した城塞をそのまま流用して、無理矢理ここに新たに領地を作りました。

 邪魔だから捨てられたと思っていただいてよろしいかと。

 元をただせば、王族やそれを慕って付き従ってきた平民達の子孫がここの住民です。

 ですから元々が結束力が高いのです。

 それにこの地の王族は王位継承権がなくなるようにと平民との結婚を強要されました。

 ですからこのセンテンシア領は王族の血をわずかながらでも引いている者もおおく、気品を持たないといけないとのプライドもあります」

 

 ミレイユが答える。

 そういえば授業で王族は一度でも平民の血が入ってしまうと王位継承権がなくなると言っていた気がする。

 王族だけが扱える神器が使えなくなるらしい。


「皆温和で争う事も罪を犯す事もありません。お互いがお互いを監視している部分もありますけれど」


 ラディウス様が付け加える。


 なるほど。うちはやっぱり治安がいいのか。

 だから令嬢である私が出歩いてても誰も咎めなかったのかも。


「そして次が、王族と婚約させられる前に他の地に嫁ぐ……」


「却下」


 パパが言う前に私は速攻却下した。


「……まだ言い終わってないだろ。即答だな」


 セクターさんがジト目で言えば


「私はここがいいもん。絶対ここにいる」


 と、頬を膨らませた。


「結婚して他の地に行くなんて絶対嫌!

 パパ達と離れたくない!

 お転婆の私が貴族様の妻なんてつとまらないもんっ!」


 私がきっぱり言えば


「激しく同感です!!!!礼儀作法のれの字もないお嬢様に嫁ぐ案は無理かと!!」


 力一杯ミレイユが同調した。


 ……うん。自分で言うのはまぁいいけど、人にそこまで肯定されてしまうと、それはそれでちょっと悲しい。



「では、この領地に残るパターンだけれど。

 一度これを選択してしまえば、君はこの地に縛られる事になる。

 将来、別の場所に行きたいと願っても、行くことはできなくなる。

 それを考慮して欲しい」


「えっと?」


 私が疑問符を浮かべれば


「精霊王様と誓約を結ぶのですよ」


 と、ラディウス様が答えた。


「精霊王様と誓約を結べば加護をいただけます。

 ですがそれと同時にこの地から自由に離れる事は許されなくなるのです。

 カルロ様があまり遠出できないのもそこが理由にあります。

 カルロ様は誓約を結んでいますから」


 そうなんだ?

 と私がパパを見れば微笑んで


「この地の領主になるものは精霊王様に許可をいただかなくてはいけない。

 だからまず誓約を結ぶんだ。

 もし精霊王様と誓約を結べば、たとえ王族といえども、この地を離れろとは言えない。

 第二王子との婚約は無理になるだろう」


「じゃあそれで行く!」


 私が飛びつけば


「レティ。もう少しよく考えてほしい。

 見ての通りこの地は貧しくて日々を生きるのが精一杯だ。

 君が砂糖のような素晴らしい発見をしたとしても、それを実現できる力もない。

 誓約を結んでしまえば、君はこの領地に縛られ、婿をとらされて領主になることになる。

 将来後悔することになるかもしれないよ?」


 パパが私の目を見つめてきた。


 ――それでも。


 私はここにいたい。

 ここの皆が好きだから。

 貧乏でもいい。それなりに幸せに暮らしていけるのならば。


「大丈夫!絶対後悔しない!

 私はそれがいい!!」


 私が力強く頷けば


「……わかった。でも考える時間は作ろう。

 その場の勢いで決めていい話じゃない。

 10日後。それまでに気が変わらなければ、皆で加護を貰いに行く。

 ただ、加護は精霊王様に気に入られないと貰えない。

 必ず貰えるわけではないから、そこは覚悟をしておいてほしい」


 パパの言葉にその場の皆で頷いたのだった。



 ■□■


「まぁ、砂糖も完璧に諦めたわけじゃないけどな」


 話が終わり、お菓子を食べながらセクターさんが呟いた。


「そうなの?」


 焼いたおせんべいのようなお菓子をポリポリ食べながら聞けば


「ああ、製造は力のある領地に任せればいい。

 利権を欲しがる連中はそっちに丸なげできるような契約を結べばいいのさ。

 うちは甜菜を作るだけの契約をな。もちろんその分、取り分は減る」


「でもそれではかなり中抜きされるのでは?」


 ミレイユがお茶を飲みながらセクターさんに聞けば


「うちみたいな小さな領地が不相応の金をもっても不幸になるだけだ。

 すぐに力のある連中に食い荒らされる。

 まずは金を手に入れて力を手に入れないとどうにもならない」


「世知辛い世の中ですね」

 

 と、ラディウス様。


「まぁ、今は塩が売れるんだ。塩が売れるうちに対策を考えればいいさ。

 どの領地なら信用できるかの見極めと、甜菜の栽培方法だな。

 正直今の田畑の面積だと増やす事はできない。

 自給自足できる形態は崩したくないからな。

 外貨頼りになるのは、相手に足をすくわれる。

 こちらはいつでも甜菜作りをやめていいんだくらいでないと将来的に食い物にされるだけだ」


「なんにしてもネックは精霊王様に許可を取らないと田畑は増やせないということですね」


 ミレイユの言葉に


「レティの誓約の時に、精霊王様にお願いはしてみるよ。

 受け入れて貰えるかはわからないけれど」


 と、パパがお茶を飲みながら言う。


「うまく行くといいね」


 私がにっこり笑えば、パパが嬉しそうに微笑んで


「ああ、そうだね」


 と、撫で撫でしてくれる。

 精霊王様との誓約うまくいくといいな。

 確か絵本では銀色の虎さんだった気がする。

 

 誓約を結んでもらえるかな?


 私はおせんべいみたいなお菓子をパリパリ食べながら思うのだった。

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