第12話 転魂の魔方陣
「……パパ、私の魂が違うって知ってたの?」
パパに抱かれたままひとしきり泣きじゃくった後、ひっくひっく言いながら何とか声を絞り出す。
「ああ、黙っていてすまなかった。
君がもう少し大きくなったら話す予定だったのだけれど……」
そう言って背中を撫でてくれる。
「君には謝らないといけない。
娘の我侭で君に過酷な人生を背負わせてしまった。
謝ってすむ問題ではないのはわかっている。
責任はきちんととらせてくれ。
君だけは絶対守ってみせるから」
ぎゅっと抱きしめられて、私はパパの胸に顔をうずめた。
よかった。やっぱりパパはパパだ。
私を捨てるような人じゃない。
パパの話によると、レティはパパの目の前で転魂の魔法を発動させたらしい。
何も説明せず、ごめんねパパと言い残して。
パパも魔法陣の発動で、魔法陣の紋章から魂が入れ替わったのだとすぐ知れた。
気を失ったままの私を屋敷に連れ帰りベッドに寝かしつけ、3歳児がどうやってあのような未知の魔法を知ったのか部屋を探した所、レティの手紙を見つけたのだとか。
目を覚ました私にすぐに謝ろうと思っていたのだが、私は記憶をなくしていた。
私は覚えてないのだが、パパは状況を説明してくれたらしい。だが私は?マークを浮かべるばかりで本当にただの3歳の幼児だったらしい。
何もわからないのなら、娘としてこのままここで暮らして、8歳になったらセクターさんと一緒にこの領地を離れ平民として暮らす予定になっていたとのこと。
そう言えば確かに孤児院の子供たちとも普通に遊ばせてもらったしあまりお嬢様教育はうけなかった。
ただ魔法教育はいっぱい受けたけど。
将来平民にする予定だったからこそなのかも。
パパたちは、この領地が貧しい事で難癖をつけられ罪に問われてパパと娘の私が裁かれるのだと勘違いしていた。
元々王族の遠縁にあたる血筋がいるこの領地は王族にとっては目の上のたんこぶで、目障りな存在だったから。
言いがかりをつけてそのまま領地ごと取り潰すつもりなのだと。
パパ達が勘違いするのも無理もないかもしれない。
手紙にはただ漠然と18歳には第二王子にパパと私が殺されるくらいしか書いてなかったし。
まさか死因が女の男をめぐる争いで、敵側に寝返った女が許せないから第二王子をたぶらかしてみんなの前で断罪✩
なんて事は流石に普通の人には思いつかないと思うもん。
今頃あの性悪女も6歳の普通の幼女なのかと思うとちょっと複雑。
などと考えていれば
「記憶がない3歳時点で、君を他領土で平民として育てる事も考えたのだけれど、君は魔力が高すぎた。
きちんとした制御の教育も受けない状態でもし氷魔法を使ってしまったらすぐ身元がバレて平民として暮らしていくのは無理だと、ミレイユに怒られてね」
と、パパに説明される。
「じゃあ、ミレイユも知ってたの?」
「ああ。セクターも。
知っているのはあとは神官長のラディウス様だ」
皆知ってたの!?
なんだか複雑。
皆に話さないと話さないとと悶々としてたあの時期は一体なんだったんだろう。
死ぬほど悩んだのに!
知ってたならもうちょっと前に教えてほしかったかも。
ああ、でも教わってたのに私が忘れてたのだから私の自業自得なのかな。
でも、実の娘じゃないと知っていたのに何であんなに親馬鹿だったのだろう。
やっぱり演技だったのかな?
でももし、本当なら嬉しいな。
チラリとパパを見れば
「レティ。
今の君がどの程度前の記憶を憶えているか。
そして今後君がどうしたいのか聞かせてくれるかい?
全て意向に添えるわけではないけれど、なるべく君の希望に添えるようには努力する」
と、真剣な表情で言われたのだった。