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第11話 精霊の森

「おはよう。レティ」


 食堂でパパがニコニコの笑顔で私が来るのを待っていた。


「おはよう!パパッ!」


 なるべく疑われないように明るく応えて私はそのまま席につく。


「……最近元気がないようだけど大丈夫かい?」


 心配そうに顔を覗きこんでくるパパに、私はえへへと微笑んで


「うん。大丈夫」


 と、ごまかした。


「そうか。それならよかった。

 そうだ、レティ。

 今日はパパと、出かけないかい?」


「お出かけ?」


「うん。レティに見せたいものがあるんだ」


 そう言って、パパは微笑む。

 その笑顔が眩しくて。

 私はまた自分が本物じゃない事実に押しつぶされそうになるのだった。



 ■□■


 パッカパッカと馬の蹄の音が響く。

 私はパパに抱っこされながら馬に騎乗していた。

 城内を抜けて、城壁外の草原を馬を走らせているのだ。

 記憶が戻る前にはよくおねだりしていたっけ。

 パパと馬にのって出かけるのが大好きだった。


「パパ、どこ行くの?」


「うん?精霊の森だよ。

 レティに見せたいものがあるんだ」


「精霊の森に入っていいの!?」


 つい、喜ぶ私。

 記憶が戻る前。

 何度も連れてってと頼んだけれど、絶対連れていってもらえなかった場所だ。

 入口付近で落ち葉拾いはよく孤児院の子とやったけれど、中は初めてだ。

 初めて入れるのはかなり嬉しい。


「ああ、やっと笑顔を見せてくれた」


「え?」


「最近元気がなかっただろう?

 セクターにはレティくらいの年齢は少し離れるだけで、人見知りするとは聞いたけれど。

 やっぱりレティはその笑顔がよく似合うよ」


 と、イケメン顔でにっこり微笑む。


「うん。ごめんねパパ」


 私はニッコリと微笑んで誤魔化すのだった。




 ■□■



 精霊の森は本当に神秘的な場所だった。

 木々の木の実が光り、ふよふよと光の玉のようなものが空を浮遊している。

 空を覆うかのように広がった木々の枝葉のせいで薄暗いが、光る木の実が幻想的な雰囲気をかもしだしていた。


「すごいっ!!綺麗っ!!

 パパ、あの空をふよふよ浮いている光はなぁに?」


「あれは精霊の赤ちゃんだよ。

 まだ自我はない精霊だけれど、そのうち自我を持つようになる」


「すごく神秘的だねっ」


 言って見渡せば、何やら祭壇のようなものに辿りつく。

 屋根も壁もなくただ祭壇だけがそこに佇んでいて中央に聖剣とか突き刺さっててもおかしくないような景色だった。


「パパ、ここは?」


「精霊の祭壇だ。

 覚えているかい。

 3歳のとき、レティはここで倒れていた」


 言いながら、私を馬から下ろしてくれる。


「私がここで?」


 3歳というとまだ本物のレティの時の話だ。

 何かあったのかな?


「ああ、そうだよ。

 その時――私の大事なもう一人の娘が居なくなってしまった」


 そう言って祭壇にしゃがみこむ。



 ……え。

 もう一人って……。


 子供は一人のはずだけど、もしかして……。


 おそるおそる顔をあげれば、ゆっくりとパパが振り返る。


「ラディウス様から聞いたよ。

 君が私の不在中に何をしていたのか。

 塩をとる魔法の考案者は君だったことも」


「あ、あれはたまたま思いついただけでっ!!」


 私は後に続く言葉が怖くて思い切り否定した。

 どうしよう。嫌だ。

 このまま本当の子じゃないと言われて追い出されるなんて絶対嫌だ。


「……申し訳ないとは思ったけれど。

 君が部屋で書いていたメモも読ませてもらった」


 パパが申し訳なさそうに告げる。


 メモって……日本の事を書いたメモ?

 そうだ、あんなの部屋に残しておけば読まれちゃうことくらい思いつかなかった私が馬鹿だ。

 どうしよう。バレた。

 中身がレティじゃないのがバレた。

 怖くて震えてしまっているのがわかる。


 一番恐れていた事態に、私は溢れる涙が止まらなかった。


 お願いどうか捨てないで。

 怖くて俯いたまま顔をあげられない。

 パパが近づいてくるのがわかってわたしは身体を固くする。


 娘の身体を返せといわれたら私は何と答えればいいのだろう。

 大体私だって好きで他人の身体に入ったわけじゃない。

 無理矢理本当のパパとママと引き離されて、こんなわけのわからない世界にきて。

 18歳で断罪されて死ぬ運命が待っていて。

 被害者は私の方だ。


 何か文句を言われたら、きっぱり言い返してやる。


 身体を固めて私がぎゅっと目をつぶれば


 パパはそっと身体を抱きしめてくれる。



 ……え?


「娘のレティが無理に君の身体を奪ったせいで

 君にばかり辛い思いをさせてすまなかった」


 そう言って私を見つめるパパの瞳は相変わらず優しいままで。


 私は、そのまま泣き出してしまうのだった。

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