第107話 転魂前 その13
こんなはずじゃなかった。
マリエッテは心の中でつぶやいた。
大魔導士と第三王妃の二人が相手ではいくらなんでもマリエッテがかなうはずがない。
学園をやめるなどとふざけたことを言い出したレティを貶めるために、裏で手をまわし、レティを殺すついでに第二王子の妃の争いで別の令嬢を第一妃に押す殺す予定だったのに、蓋をあけてみれば窮地に陥れられているのはマリエッテだった。
王妃を介抱させ毒を王妃にかかせた令嬢は本当に何も知らない。
マリエッテが痕跡を残さぬように何人もの仲介をして操っていただけで、仮に調べられたとしてもマリエッテにたどり着くことはできないだろう。
だが――証拠捏造のために毒をもたせたマリエッテの腹心の護衛騎士は別だ。
王妃の死亡で会場が混乱しているうちにレティに罪を着せるためにワイングラスに毒を垂らす予定だったのに、あの謎の貴族が割って入り、推理ショーを初めてしまったためワイングラスが注目されてしまい護衛騎士が細工している余裕がなかった。
現場の証拠を捏造する衛兵は何も知らないではまずかったために忠誠心の強い護衛の一人に銘じてある。罪をすべてレティに着せるかレティに罪を着せるのを失敗したときようにハンカチの令嬢のどちからかに着せるための保険として信頼できる人物に任せてしまったのがあだとなった。
何とかこの場を切り抜けないと。
第三王妃が生きていたとなれば捜査うやむやにするのはかなり難しい。
もし現場の捏造をするはずだった護衛騎士のもっている毒が発見されてしまえば、捜査の手はマリエッテまで及んでしまう。
とにかく理由をつけて衛兵たちを下がらせないと!
マリエッテが口を開こうとした瞬間。
「毒を所持していたのはこの男だ」
マリエッテの護衛がクライムに組み敷かれているのだった。
***
「この方はマリエッテ様の専属騎士!!」
ざわっ!!!
ホールにどよめきが走り、視線が一気にマリエッテに集まる。
「お、お待ちください!!!そもそもそちらの方は何者です!!
あの男こそ不振人物ではありませんか!!
あのものが私を貶めようとしたにちがいありません!!
私の護衛騎士に毒を持たせたのもあなたでしょう!?」
マリエッテが騎士の近くにいた紗良をきっとにらんだ。
「おや、貴方は自分が何をおっしゃっているのかわかっているのですか?
貴方らしくない。王妃を治療したのが大魔導士様なら私の身元も予想がつくのではないのですか?」
紗良が肩をすくめ、まるで嘲笑するかのようにマリエッテに言い放つ。
「なっ!?」
「私の連れだ。あんたは私の連れを疑うというのかね?
ここに王妃を殺そうとしたやつがいるのは確かだからね、王妃の治療を邪魔されないように、私が弟子に注目を集めるように命じたまで。身元は私が保証するよ」
王妃の隣に立った、大魔導士メリルがマリエッテに言い放つ。
大魔導士メリルは何百年の間、この王国を魔物から守護してきた大魔導士と言われ、どんな病も傷もなおしてしまうため王族からも一目おかれている存在だ。その存在を疑う事はいくらマリエッテといえども不敬にあたる。
「い、いえそんなつもりでは……っ」
「マリエッテ。あなたがこのレティシアに幼いころから執拗に嫌がらせをしていた証拠は私がもっています。邪魔なレティシアともども私を殺そうとしたのでしょう?」
王妃の言葉にそのばにいた衛兵たちが一斉にマリエッテを取り囲んだ。
「ち、違いますっ!!!本当に違うのです!!!
私は……っレティシアは私の親友です!彼女に嫌がらせするなんてそんな!
ねぇ、そうでしょうレティ?私があなたに嫌がらせをするなんてありえないわよね?」
マリエッテがすがるように紗良の後ろに控えていた、レティに詰め寄った。
***
「ねぇ、そうでしょうレティ?私があなたに嫌がらせをするなんてありえないわよね?」
(これがあのマリエッテ?)
まるでレティすがるようにすり寄ってくるマリエッテの姿に、レティは身を固めた。
レティの知るマリエッテは狡猾で、頭がよくて、人心を掴み、いつも周りを思惑通り優雅に操ってしまう、逆らってはいけない絶対的存在だったはずなのに。
目の前にいるのは、悪だくみが暴かれて情けなくすがってくる、三流悪役そのものだ。
(……なぜ私はマリエッテが完璧な人間だと思い込んでいたのだろう?
私は何を恐れていたのだろう?)
レティは思わず、紗良の腕をつかむと、紗良は目を細めて、レティの頭を撫でてくれた。思わず顔を赤らめて見上げると紗良は美麗な男性姿のままにっこり微笑む。
「レティ、あとは貴方自身の手でちゃんと気持ちに区切りをつけないと」
頭を撫でながらいう紗良の言葉にレティは頷いた。
そしてすがってくるマリエッテに視線を向ける。
「マリエッテ様は私を恨んでいました。
わが領地センテンシア領に経済的に執拗に嫌がらせした証拠もあります。
貴方は私を貴方の手下にするために、嘘偽りのやさしさで近づいてきただけにすぎません」
レティの言葉が会場に響く。
その言葉に衛兵たちがマリエッテの腕をつかむ。
マリエッテがすがるようにマリエッテの派閥の貴族に視線を送るがみな露骨に視線をそらした。
マリエッテ派の貴族たちから見ても、この状況をマリエッテが打破するのは不可能だろう。
「あ、あなたたち!? 私はそんなことをするような人間ではないと証言を!!」
目をそらした自らの取り巻きに食って掛かるマリエッテに、王妃はやれやれとため息をついた。
「いい加減見苦しいわよマリエッテ。私を殺そうとしたその罪たっぷり償ってもらいます」
「ちがうっ!! 私じゃないわっ!!!!!!
信じてください!!大魔導士様!!!」
「やれやれ、他人を殺そうとした女の言葉なんぞ信じるものかい。
見苦しい。いい加減つれていきな」
メリルの言葉に周りにいた衛兵たちがうなずいてマルエッテを外に連れ出すため歩き出した。
「離しなさい!!!私を誰だとおもっているのっー!!」
マリエッテの悲壮な叫びがむなしくホールに響いた。











