第101話 転魂前 その7 その他視点(1)
「まさかあなたの方から訪ねてくるとは思わなかったわ。
レティシャ・エル・センテンシア。なんのご用かしら?」
そう言ってレティシャを出迎えたのは、現国王の第三王妃だった。
紗良達と別れたあと、レティが最初にした事はマリエッテと対立する第三王妃と謁見することだった。第三王妃はマリエッテの領地と対立する派閥に属している。第二王子の第一王妃の座をマリエッテと第三王妃の推す令嬢とで対立している最中であった。
なんとしても第三王妃の推す令嬢をゲオルグ王子の第一妃としたい第三王妃なら取引次第では身元保証人になってくれるはずである。
一度紗良達と国をでてさえしまえば、あとは冒険者として登録しギルドカードを発行して国を行き来するなりの方法はある。だが逆に言えば国を出ない事には今のレティは手形すら没収されておりマリエッテに縛られたままなのだ。
(なんとしても第三王妃との取引を成功させなければなりません――)
レティは、第三王妃の前で頭をさげた。
前世の知識でマリエッテが嫌がらせしていたことの証拠は握ってある。
あとはこれを交渉のカードとしてうまく活用するだけ。
そう、いままではマリエッテと戦う前からあきらめていた。敵うわけがないと。
(でも違う。私だって戦える)
こんな私を支えてくれるという紗良の言葉を信じよう。
(待っていてくださいお父様--)
今度こそマリエッテと戦って勝利を収めてみせる。
レティは意を決し頭をあげるのだった。
◆◆◆
「ではあなたは婚約者候補から降りると?」
「はい。わたくしではそのような責務が全うできるとは思いません。
もっと気品と教養を兼ね備え格式ある家柄の方こそ殿下の婚約者にふさわしいかと」
そう言って頭を下げるレティを第三王妃は椅子に座ったまま見下ろした。
レティはマリエッテの取り巻きの一人で神童と呼ばれるほどの高い魔力をもった令嬢。
それゆえ、レティと子をなせば魔力の高い子が生まれると、一目置かれていた。
そのマリエッテ派の令嬢が王妃候補を降りてくれるのならば、第三王妃側は派閥争いでかなり有利になるだろう。
だけれど――。
(あのマリエッテの事ですから、何か策をろうしてきてるのかもしれないわ)
レティはマリエッテを心酔する信者の一人だったはず。
それがいきなり第三王妃側につくとはどういった心変わりなのか。
「それは大変喜ばしい事だわ。でもわざわざ私のところにきた理由はなにかしら?
マリエッテ嬢にお願いすればよろしいのでは?」
「……わが領地センテンシア領をご存じでしょうか?」
「ええ、精霊の森の中にある領地ですね。知っていますが」
「……わが領地が経済苦に陥った理由が関係しています。
今日はその証拠をこちらにおもちいたしました」
レティの言葉に第三王妃はほぅと眉をひそめた。
この子はなかなかどうして。神童と呼ばれただけはある。
つまり、レティシアはマリエッテ嬢がセンテンシア領を経済苦に陥れ、みずから経済苦に陥れたレティシアに恩を売って手懐けたその証拠を所持しているといいたいのだろう。
面白い。マリエッテ嬢を貶めるには格好のネタだ。
政治的に陥れる事ができなくてもうまく利用して噂を操作すれば社交界にマリエッテを葬りさるのには十分なネタである。
マリエッテを心酔している他の令嬢達も疑心暗鬼になり、第三王妃側に寝返る令嬢もたくさんでてくるだろう。
「面白い。それであなたは私に何を望むのです?」
「はい。婚約の解消の後押しとこの地を去るための身元の保証、そして平民として暮らしていくに先立って少しばかりのお金の支援をお願いいたしたいのです」
「たったそれだけでよろしいのですか?」
第三王妃は眉をひそめた。センテンシア領を取り戻す力をかしてほしいとでもいうのかと思ったが、どうやら違うらしい。
「センテンシア領はもう実質マリエッテの支配下にあります。もうあそこに私の戻るところはどこにもありません。――何より私自身が貴族という身分につかれてしまいました。
私が望むのは、何者にも操られない自由です」
(なるほど。心酔していたマリエッテに裏切られたショックですべてを捨てたいというわけね――。話の筋は通っているわ――裏をとる必要があるでしょうけれどね)
「わかりました。あなたのその願い聞き届けましょう」
そう言って第三王妃は満足そうにレティを見下ろすのだった。
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