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第100話 転魂前 その6 紗良視点


★転魂前その1 (レティ視点1) の後のお話です★

「あんた、なんであの子の事をそこまで気にかけるんだい?」


 崖から飛び降りたレティを助けたあと、彼女に生きるよう説得し、納得してもらって彼女を学園に送った。その後、メリルさんと住んでいる家に戻るとメリルさんに開口一番そう言われた。


「え?」


 思わず聞き返す私。メリルさんはふぅっとため息をつきながらお茶をいれてくれている。


「あんたは異世界人だ。あの子の話が本当だとしてもあんたが命がけで関わる事じゃないだろう?

 もし本当に時間がループをしているとなれば……相手にするのは神クラスだ。

 それをわかっていっているのかね」


 そう言いながら私にお茶をだしてくれた。


「そうはいっても、メリルさんは気づいてるんじゃないんですか?」


「気づいている?」


「レティは言っていましたよね?

 ループの50回目くらいまでは別の女の子がこの世界に来ていたって」


 私の言葉に自分のお茶をいれていたメリルさんの手が止まった。

 そう――おそらくレティが言っていた別の女の子、それこそゲームのヒロインちゃん。

 本来の主人公だ。だけど今回はその子が召喚されず私が召喚されてしまった。


「――でも今回はなぜか私だった。

 と、いうことはこれから何度もループさせられるのは私かもしれないってことですよ?

 そしてループを繰り返しているうちにいつか消滅するかもしれない」


 私の言葉にメリルさんはため息をついた。


「まぁ可能性の一つではあるけどね。ループしているなんて話を本当に信じているのかい?」


「はい。もちろんレティの言っていることは本当だと思います」


 レティの断罪される結末は私が知っているゲームのあらすじそのもの。

 彼女は嘘をついていない。何よりゲームのヒロインの存在を知っているのが彼女のループ話が本当であることを物語っている。


「…ずいぶん自信があるんだね。どうしてか聞いてもいいかい?」


 そう言ってメリルさんが席に座ってお茶を飲む。


「かわいいは正義だからです」

「は?」

「かわいい子は嘘をつきません」

「……そんな理由なのかい?」

「そういう事にしておいてください」


 私がにっこり微笑むとメリルさんはため息をついた。


「わかったとりあえずそういう事にしておくよ」


「そういうメリルさんの優しいところ大好き」


 私が言うとメリルさんは一瞬あきれた顔をしたあと。


「この子はどうしてそう言う事を恥ずかし気もなくいうのかね。

 ま、それはそうとあの子をあのまま返してよかったのかい?

 マリエッテとかいう令嬢に狙われているんだろう?

 学園に帰さず違う方法でこの国を出てしまった方がよかったと思うけどね」


 お茶をすする。


「でも手形が必要なんですよね?」


 そう――レティが帰ったのは理由がある。 

 私もだけれど、この世界一応身分証明書見たいなものをもっていないと国境を越えられない。そのためレティは身分証明書をもらうために正式な手続きをとって学園をやめるために一度戻ったのだ。


「抜け道はいくらでもある。あんたが市民証を金で買ったみたいにね」


「う。じゃあ帰らせない方がよかったかも……でも」


「でも?」


「やっぱりちゃんと本人の手で気持ちに区切りをつけさせる必要はあったかなって」


「……なるほどね」


 私がカップを傾けながら言うと、メリルさんはおせんべいのようなおかしをぽりぽり食べながら頷いた。


 そう――レティはいまだマリエッテに縛られている。

 逃げようと口では言っているけれど、心の中ではどこかすがっている部分がある。

 落下したレティを助けたあと、一生懸命私に死なせてくれればよかったと泣き叫んだレティの言葉の端々にはマリエッテを後悔させたい、彼女に注目されたかったという思いが見て取れた。


 レティ自身たぶん気づいてない、気持ちの矛盾。


 レティは、虐待されても子が母をすがるように、心のどこかでまだマリエッテにすがり、マリエッテの愛情を取り戻したいという矛盾を抱えているように感じた。


 たぶん何度もループし幼い時に母をなくし、父親も操られてしまって誰も頼る事のできなかった彼女はだれかに愛されることを望んでいる。それをまだマリエッテに求めている。


 ……なのだと思う。

 私の思い込みで勘違いかもしれないけれど、それでも旅に出る前にちゃんとレティに気持ちの区切りをつけさせてあげたいと切に思う。

 ちゃんと自分自身の手で学園を抜けて旅立つことで気持ちを切り替えてあげたい。


 私の胸で震えて泣くレティを思い出して、私はため息をつく。


 ゲームプレイをしていた時の私にとってのレティは所詮ゲームの物語の中の話で、主人公の恋愛イベントのためだけに死ぬ不幸な運命を背負った悪役令嬢。敵対キャラの取り巻きで利用されて死ぬ哀れなサブキャラの一人にすぎない。


 でも彼女にとってはそれが現実で、イベントを盛り上げるためだけに不幸な運命を背負わらせた。それがいかに残酷な事だっただろう。


 不幸な人を全員救える力があるなんて思ってはいないけれど。

 やっぱり目の前にいるなら全力で助けてあげたいと思ってしまう。


 最初は単純に2のヒーローがいる帝国に逃げればいいと思っていた。


 でも、よく考えたらそんな事できるわけがない。

 森からでて王都の人たちと交流してしまった今、NPCだから見捨てて他国に逃げればいいや!なんてできるわけがなかった。彼らはちゃんと生きているのだもの。

 これから王都が魔族の血で魔族化してしまった兵士たちに食い荒らされるなんて未来を知っている。

 交流していた人達が死んでいく未来を放っておけるわけがない。


 もうこうなったら全部解決してやろうじゃない。できるかわからないけど、人が殺されるのを見捨てて後悔して生きていくのは性にあわない。全力でやってダメだったなら仕方がないけれど、やる前から見捨てて逃げるのはきっと違う。


 兵士たちに悪魔の血を飲ませて魔族化させるはずのマリエッテを全力で叩きつぶす。

 でも本格的に戦うにしてもレティをマリエッテから引き離して、レティのお父さんを助けて人質にされないように手配してからだ。


「と、いうわけで、協力してくださいメリルさん!」


 私はにっこりと笑ってみせた。



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